作成日:2026年10月22日|更新日:2026年10月22日
POLICY & REGULATION
フランスが2026年10月12日、過去最大の洋上風力の入札「AO10」を締め切りました。11案件・約10GWで、およそ半分が浮体式です。落札価格の加重平均を1MWhあたり100ユーロ以下にする目標が目玉ですが、この数字は日本の入札価格と同じ物差しでは比べられません。フランスでは送電会社が接続設備を建て、費用を電気の利用者全体から回収します(今回分で約200億ユーロ)。国はさらに、行政が命じた停止、送電網の停止、隣の発電所が風を弱める影響で失った発電量を補います。日本では、接続の費用も出力制御の損失も事業者が負い、後流を補う仕組みも見当たりません。海外の落札価格を日本の目安にするなら、まず価格の中にどのリスクが入っているかを確かめる必要があります。
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Execution Reality
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Bankability Test
RTEはAO10の接続設備を約200億ユーロと見積もり、託送料金で回収します。日本の入札価格は、接続の費用も含んだ数字です。
環境・航空の理由で行政が止めた分は95%を補償します。送電網の停止も、一定の範囲を超えれば補償されます。指定された隣の発電所による後流(上流の風車が風を弱める影響)の損失は、最長30年補償されます。日本では出力制御は無補償で、後流を補う仕組みも公募のルールに見当たりません。
日本は次回の公募から基準価格を物価に連動させます。接続の費用、出力制御、隣の区域の後流は、事業者が持ったままです。
100ユーロ/MWhの外にある、約200億ユーロの送電費用
AO10は、ノルマンディー、ブルターニュ、大西洋南部、地中海の沖合にある11案件をまとめた入札です。浮体式が7案件で合計4,500〜5,250MW、着床式が4案件で5,200〜5,450MWです。締切は10月12日の正午(パリ時間)でした。政府は、CREが応札を分析したあと、2027年2月に落札者を決める予定です。
落札者は差額決済契約(基準となる価格と市場価格の差を国が埋める支援の契約)を25年間結びます。1案件ごとの上限価格は置かず、落札候補の価格を各案件の最小出力で重みづけした平均が100ユーロ/MWh以下という目標を置きます。この100ユーロは2024年1月の価格水準で、入札時点まで建設物価の指数で調整されます。平均が目標を超えれば、CREは決められた順に案件を外して試算します。CREは、こうした平均目標は前例がなく、応札側が価格の戦略を組みにくくなると指摘しました。
8案件をまとめたグループでは、着床式と浮体式の価格が同じ平均に入ります。DeepWindの読みでは、フェカン沖の着床式が安く出れば、そのぶん同じグループの浮体式に高めの価格の余地が生まれます。浮体式の1件1件が、単独で100ユーロを下回る必要はないということです。
| グループ | 案件 | 基礎 | 出力(MW) |
|---|---|---|---|
| PPE2(過去の入札の拡張) | A 南ブルターニュ、B オクシタニー、C PACA | 浮体式 | 1,300〜1,650 |
| PPE3 | 1〜3 フェカン沖 | 着床式 | 4,050〜4,200 |
| PPE3 | 5 オレロン1 | 着床式 | 1,150〜1,250 |
| PPE3 | 4 ブルターニュ北西、6・7 リオン湾中央1、8 リオン湾中央2 | 浮体式 | 3,200〜3,600 |
両国の数字がいちばん大きく分かれるのは、送電網です。AO10では全案件の接続設備をRTEが建て、費用は託送料金(送電網の使用料)で電気の利用者全員から回収します。RTEの見積もりは今回分で約200億ユーロです。CREは、接続費用が2040年までに洋上風力のコストの4割近くになりうるとし、100ユーロの目標がこの費用を含まないまま落札者を選ぶ点を問題視しています。
日本では、接続の費用は事業者が価格に入れます。海洋再エネ整備法(旧 再エネ海域利用法)の対象外で行う着床式の入札では、上限価格の計算に接続費が一段階として入っています。同法の公募でも、確保済みの系統の容量は、選ばれた事業者が客観的に計算された価格を払って引き継ぎます。
国が補う3つの発電量の損失:行政の停止、送電網の停止、隣の後流
AO10の仕様書は、送電網の費用だけでなく、発電量が減る3つのリスクも事業者から国やRTEの側に移しています。
行政が命じた停止。鳥やコウモリを守るため、あるいは航空の安全のために、行政が風車の停止や減速を命じることがあります。この場合、事業者は補償を受け取ります。額は、止まった分の発電量(その年の設備利用率から見積もります)に基準価格を掛け、その95%です(5.5条)。
送電網の停止。RTEの接続設備が、契約で決めた稼働率を下回った場合は、RTEが接続契約に基づいて補償します。同じ洋上変電所に別の発電所をつなぐ工事で計画的に止める場合は、4年間で21日までが上限です。それを超えた分は、送れなかった電気の量に応じて支援額を調整します。
隣の発電所の後流。風上に別の発電所があると、風下の風車に届く風が弱まります。これを後流(ウェイク)と呼びます。AO10は、案件ごとに後流を生みうる「隣の案件」を名指ししており、それが動き始めたら、失った風の分について支援額の調整を求められます(5.2.5条)。損失は独立した専門家が見積もり、補償は支援契約の開始から最長30年続きます。オレロン1の隣の海域については、国はこの費用の一部を隣の案件の将来の事業者に負わせる意向です。
日本の扱いは大きく違います。2021年4月以降に系統への接続を申し込む風力と太陽光は、全国で無制限・無補償の出力制御(送りきれない電気を減らすため、発電設備の出力を一時的に絞ること)に同意する必要があり、FIP(市場価格に上乗せ補助を付ける制度)の電源も対象です。もっとも、きっかけは異なります。日本のルールは需給の調整や送電線の混雑のために絞る場合で、フランスが補うのは行政の停止と送電設備の停止です。共通するのは、発電事業者が原因ではない損失だという点です。後流については、2026年1月の運用指針の改訂案に補償の仕組みは見当たりませんでした。日本でも、秋田県の能代沖では2つの促進区域が同じ海岸線に並んでいます。
金融機関は、発電量が悪い側に振れた場合の見積もりで融資額を決めます。よく使うのがP90(10年のうち9年は上回ると見込まれる発電量)です。行政の停止、送電網の停止、隣の後流は、どれも中心の見積もりとP90の差を広げる要因で、AO10ではこれが補償されます。さらに、金利が決まった時点で基準価格を上下どちらにも再計算するため(5.7条)、応札から資金調達の確定までの金利の変動も事業者の外に出ます。日本では、確認した資料の範囲でこれらに当たる仕組みは見当たりません。同じ案件なら、日本の応札者は価格を上げるか、借入を減らすかを迫られます。
25年契約と浮体式5GW:規制当局CREが示した懸念
フランスの制度には、規制当局CRE自身が詳しい批判を書いています。CREは契約期間の20年から25年への延長に反対しました。市場価格のリスクが国に移るうえ、浮体式は20年を超えた運転条件が読みにくく、資金調達が楽になる効果が出にくいという理由です。
規模にも懸念を示しています。1回の入札でこれだけの案件と出力を扱うのは前例がなく、案件ごとの競争が弱まってコストが上がるおそれがあるという指摘です。オレロンの前回の入札(AO7)は応札ゼロで、AO8も応札者はごくわずかでした。CREはさらに、次のAO11の前に、国が許認可を取って落札者に渡すオランダ型か、許可済みの案件を入札にかける英国型へ制度を作り直すよう求めています。
日本が寄せてきた点、まだ違う点
日本の公募も、第1ラウンドのあと手直しが続いています。第2・第3ラウンドでは、1社でもゼロプレミアム水準(市場価格への上乗せをほとんど求めない3円/kWh)で入札すると、他社も同じ水準でなければ落札できませんでした。2026年1月に国が示した新しい公募制度では、上限価格の下に「想定供給価格幅」を設け、上限価格ちょうどの入札にも当面は120点中100点を与えます。物価に合わせてFIPの基準価格を動かす価格調整スキームも次回の公募から適用され、国が入札前に現地を調べるセントラル方式もあります。
| 項目 | フランス AO10 | 日本(海洋再エネ整備法の公募) |
|---|---|---|
| 物価 | 目標価格は入札時点まで指数で調整。基準価格は契約開始まで調整し、開始後も毎年一部を調整 | 次回の公募から、FIPの基準価格を物価に連動 |
| 金利 | 金利が決まった時点で基準価格を再計算(5.7条) | 確認した資料には記載なし |
| 事前の調査 | 国が風況・物理探査・地盤・環境の調査を実施 | 有望区域になったあと、国が海底地盤を調査 |
| 接続の費用 | RTEが建設し、託送料金で回収 | 事業者が負担 |
| 出力制御・行政の停止 | 行政が命じた停止は95%を補償。送電網の停止も補償 | 無制限・無補償の出力制御 |
| 隣の後流 | 指定した隣接案件について、最長30年補償 | 2026年1月の改訂案に仕組みなし |
日本が動いたのは、第1ラウンドの撤退で無視できなくなった物価上昇のリスクです。発電量が減るリスクと、送電網につなぐ費用は、ほぼそのままです。浮体式ではこの差が重くなります。日本は2040年までに浮体式を15GW以上、案件として形にする目標を掲げていますが、浮体式の海域は岸から遠く深いため、接続費の比率も発電量の見込みが外れるリスクも大きくなりやすいからです。
入札価格は、国がどこまでリスクを引き取ったかを映した数字です。
2027年2月に出るAO10の落札価格は、日本でも浮体式のコストの目安として引用されるはずです。読むときは契約の中身とセットにする必要があります。フランスの浮体式の価格は、送電網の費用を含まず、着床式と一緒に平均され、行政の停止・送電網の停止・後流・金利への補償に支えられた数字です。
事業者にとって意味があるのは、価格の水準よりも、リスクを1つずつ突き合わせることです。日本で浮体式の応札価格を組むとき、AO10の条項を点検の一覧として使うことを検討してよいでしょう。フランスで補償される項目は、日本では予備費か保険か自己資金で手当てする項目です。一方で、フランスの結果を「日本もすでに出せるはずの価格」と読むのは慎重であるべきです。フランスはリスクの一部を国の予算と電気の利用者に移して低い価格を得ており、CRE自身がその妥当性に疑問を示しています。
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