洋上風力の入札、上限価格と実績コストの差:港湾区域などの着床式(190MW)は3回続いた落札ゼロを破れるか

A secret ceiling after three rounds with no winner 1

作成日:2026年10月1日|更新日:2026年10月7日

COST & COMMERCIAL VIABILITY

2026年10月13日、着床式洋上風力の入札が始まります。対象は海洋再エネ整備法(洋上風力の事業者を国が公募で選ぶための法律。2026年4月の改正で、旧称の「再エネ海域利用法」から名前が変わりました)の外にある案件で、募集は190MWです。上限価格(応札できる最大の価格)は開札まで公表されません。この入札は過去3回、落札者が一人も出ていません。いっぽう国が9月25日に示した資料では、国内で動いている商用の洋上風力4件の資本費が平均77.9万円/kWでした。資料が示す想定値の56.5万円を38%上回ります。上限価格がこの差をどこまで織り込むかは、4回目の結果を左右する大きな要素です。その手がかりは、11月2日の結果公表で初めて外に出ます。

👉 日本の洋上風力コスト構造と経済性を読み解く ー CAPEX・OPEX・LCOE・制度が分岐を生む理由

Policy Design
→
Execution Reality
→
Bankability Test
Key Takeaways
1. 上限価格24円/kWhの入札には、2回続けて応札がありませんでした
第2回(2023年度)は事業計画が1件出たものの入札はゼロ、第3回(2024年度)は事業計画からゼロでした。2025年度の第4回は事業計画が出ず、1年延期されています。
2. 国内の実績は、すべての項目で想定より悪い側に出ています
資本費は想定の1.38倍、運転維持費は1.6倍、設備利用率は27.7%で想定の30.0%を下回りました。費用の差は1kWhあたり約10円に相当します(DeepWindの単純試算)。
3. 差をどこまで埋めるかは、補正の大きさで決まり、それは開札まで見えません
上限価格は、欧州並みの環境を前提にした計算式から出発し、国内外の価格差を補正して決めます。補正の幅は非公表です。11月2日に公表される上限価格と応札の有無が、国がどこまで国内のコストに寄せたかを読む最初の手がかりになります。

過去3回の入札は、落札ゼロで終わっている

この入札は、FIT/FIP制度(国が決めた価格や上乗せ額で電気の買い取りを支える仕組み)の中で行われます。海洋再エネ整備法の公募とは別の枠で、港湾区域の中の案件などがこれに当たります。着床式とは、風車の土台を海底に直接固定する方式を指します。

この入札が法の対象外にあるのは、海の使い方を決める法律が海域によって違うためです。海洋再エネ整備法(2019年4月施行)は、港の外の一般海域を対象に始まり、2026年4月からは排他的経済水域(EEZ)にも対象が広がりました。この法律では、国が区域を指定し、1回の公募で事業者と供給価格をまとめて決めます。いっぽう港湾区域は港湾法で港湾管理者が管理しており、2016年7月からは公募で占用する事業者を選ぶ制度もあります。その認定の有効期間は、2020年2月施行の改正で20年から30年に延びました。港湾区域の案件は、場所をこの港湾側の手続きで確保し、価格の支えは別にFIT/FIPから受けます。今回の入札が決めるのは、この価格の側だけです。

なお、海洋再エネ整備法の公募にも「ラウンド4」と呼ばれる回があります。この記事が扱う第4回は、それとは別のFIT/FIPの入札です。

この区分では、入札の前に国が決めた価格で買い取る固定価格の時代がありました。調達価格は2014〜2019年度が36円/kWh、2021年度が32円、2022年度が29円です。入札は2020年度に1回行われ、2023年度から改めて入札制になりました。2026年3月末までに運転を始めた法の対象外の洋上風力7件・468MWは、いずれもこの固定価格の枠で認定された案件です。入札で落札した案件は、まだ1件もありません。4回の入札の結果を並べると、次のようになります。

回(実施年度) 募集量 上限価格 事業計画の提出 入札 落札
第1回(2020年度) 120MW 34.0円/kWh 1件 1件(4.8MW) 0件
第2回(2023年度) 190MW 24.0円/kWh 1件(165MW) 0件 0件
第3回(2024年度) 190MW 24.0円/kWh 0件 0件 0件
第4回(2025年度予定) 190MW (未実施) 0件 延期
上限価格はいずれも事前非公表で、開札後に公表された値。Source: 第116回調達価格等算定委員会 資料1(2026年9月25日)p.2・p.16、電力広域的運営推進機関「着床式洋上風力第2回入札(令和5年度)の結果について」(2023年11月2日)・「同 第3回入札(令和6年度)の結果について」(2024年11月5日)。第1回の事業計画・入札の件数は環境ビジネスの報道による

第1回は1件の入札が上限価格を下回らず、落札者なしだったと報じられています。第2回は1件の事業計画(165MW)が審査を通り、入札に参加できる状態になりました。それでも入札はありませんでした。第3回は、入口の事業計画から1件も出ていません。

2025年度の第4回は延期されました。理由は2つです。上限価格を決める前に、洋上風力の事業環境をどう整えるかの整理を待つ必要があったこと。そして、事業計画が1件も出ておらず、延期しても不利益を受ける事業者がいなかったことです。今回の事業計画は9月18日に締め切られましたが、件数は11月2日まで公表されません。

国内の実績は、資本費で38%、運転維持費で60%、想定を上回った

9月25日の資料で新しく出たのが、国内の定期報告のデータです。定期報告とは、FIT/FIPの認定を受けた事業者が、実際にかかった費用を国に報告するものです。洋上風力では、資本費と運転維持費がそれぞれ6件ずつ集まりました。

項目 想定値 国内の実績 想定との差
資本費(建設して運転を始めるまでの費用) 56.5万円/kW 77.9万円/kW(商用4件の平均) +38%
運転維持費(点検・保守などの年間費用) 2.25万円/kW/年 3.6万円/kW/年(商用4件の平均) +60%
設備利用率 30.0% 27.7%(6件の平均) −2.3ポイント
Source: 第116回調達価格等算定委員会 資料1 p.13(2026年9月25日)。差の比率は DeepWind analysis

資本費の6件には、実証機が2件含まれます。その2件は平均205.6万円/kWと桁が違うため、資料は商用機4件と分けて示しています。この記事でも、商用4件の数字を使います。

設備利用率は、風車が一年中定格の出力で回った場合に比べて、実際に何割の電力を生んだかを示す割合です。こちらは6件の平均で、実証機が含まれたままです。

読むときの留保が2つあります。1つ目は、4件がどの案件かは資料に書かれていないことです。2つ目は、国内で動いている洋上風力の多くが港湾区域の中の案件で、規模も風車も今後の案件とは違うとみられることです。一般に、1基あたりの出力が大きくなれば、1kWあたりの費用は下がる方向に働きます。それでも、4件の平均が想定を下回る項目は、1つもありませんでした。

Bankability Note

差を1kWhあたりに直すと、規模が見えます。資本費の差21.4万円/kWを、設備利用率27.7%で20年間に生む電力(1kWあたり約4.85万kWh)で割ると約4.4円。運転維持費の差1.35万円/kW/年を年間の発電量で割ると約5.6円です。合わせて約10円/kWhになります。割引も借入の金利も入れていない単純な割り算で、実際の差はこれより大きく出ます(DeepWindの単純試算)。金融機関が返済の見通しを立てるとき、費用を想定値で置くか実績で置くかで、同じ売電価格でも結論が変わりうる幅です。

上限価格の出発点は欧州並みの計算式で、国内との差は補正で埋める

では、上限価格はどう決まるのでしょうか。資料は、これまでの公募と同じ4段階の方法を示しています。

まず、NEDO(国の研究開発機関)がまとめた着床式のコスト計算式に、対象となる海域の平均的な自然条件を入れます。次に、その結果の資本費・運転維持費・撤去費を、国内外の価格差をふまえて補正します。3つ目に、計算式に入っていない送電網への接続費を足します。最後に、適正なIRR(事業が生む収益率)を上乗せします。

要になるのは2つ目の補正です。NEDOの計算式は、日本に欧州並みの港湾やサプライチェーンができた場合を想定して作られています。資料は、国内外の価格差が考慮されていないことを明記しています。2025年度の更新ではコスト上昇の補正係数と為替の変動を反映しましたが、欧州並みの環境という前提は変わっていません。

つまり、計算式が出す数字と国内の実績との距離は、補正でしか埋まりません。その補正の幅は、上限価格そのものと同じく公表されていません。

同じ資料は、世界の洋上風力の発電コストが2014年から2024年に274ドルから87ドル/MWhへ68%下がったことも示しています(BloombergNEF、浮体式を含む世界の値)。計算式が見ている世界と、国内の実績の開きがここにも表れています。

国が示す「30円程度」と、応札を集められなかった24円

上限価格の水準を考えるうえで、同じ資料に参照点が2つあります。

1つ目は、2026年7月の洋上風力の審議会が示した目安です。国は、発電コストが30円/kWh程度までの海域から優先して案件を立ち上げる方針を出しました。根拠には、2023年に新設した場合の洋上風力の発電コストの試算30.9円/kWhと、日本風力発電協会(JWPA)が示した事業コストの平均「30円/kWh台半ば」が挙げられています。JWPAの数字は、一般海域の着床式5案件へのアンケートにもとづく想定値で、プロジェクトIRR(借入の影響を除いた事業の収益率)6%を含みます。

ただし、この目安は洋上風力全体の案件の進め方にかかるものです。今回の入札の上限価格は、これとは別に、委員会の意見をふまえて入札開始までに決められます。

2つ目は、過去2回の上限価格24円/kWhです。この水準では、事業計画が1件出た回でも入札に進みませんでした。

この入札には、もう1つ固有の事情があります。資料は、促進区域の公募には30年間の占用許可があり、事業の安定性や見通しが高いと書いています。いっぽう法の対象外の入札は、特定の海域を念頭に置かずに行われます。港湾区域でも占用の認定は30年ありますが、場所の手続きと価格の入札が別々に進むため、片方が決まってももう片方は見えません。事業者が負う不確かさは、この点で法の対象外の側が大きくなるとみられます。

委員会の議論にも変化があります。7月の委員会の総括では、FIT/FIP制度で支えることが適当なのか、支援のあり方を検討する必要があるのではないか、という意見が記録されました。上限価格の決め方の前に、この枠組みで支えるかどうかが問われ始めています。

11月2日に見るべき3つの数字

入札の受付は10月13日から26日まで、結果の公表は11月2日です。上限価格も開札後に公表されます。見るべき数字は3つあります。

1. 事業計画の提出件数。ゼロなら、第3回や2025年度と同じく入口で止まったことになります。

2. 入札件数。事業計画が出ても入札がなければ、第2回と同じ形です。上限価格は非公表のため、事業者は想定される水準と自社の費用を比べて判断します。

3. 上限価格の水準。過去2回の24円から動いたか。動いたなら、どちらへどれだけか。上限価格と想定値の関係は資料に書かれていないため、実績との差をそのまま引き算することはできません。それでも、2回続けて応札を集められなかった水準からの変化は、それだけで情報になります。

3つがそろうと、国内の実績コストに値段を付ける用意があるのかが、初めて外から見えます。

DeepWind View

この入札で試されているのは、国が国内の実績コストを受け入れるかどうかです。事業者の価格競争力が試されているわけではありません。

入札制の趣旨は、競争でコストを下げることです。しかし過去3回は、価格を下げ合う段階の手前で止まっています。第2回は入札に参加できる事業計画が1件あり、それでも入札はありませんでした。事業者は上限価格と自社の費用の距離を見て、参加そのものを見送ったとみられます。

今回の資料は、国内の実績と想定の開きを初めて公の数字にしました。資本費で21.4万円/kW、運転維持費で1.35万円/kW/年です。上限価格の計算式は欧州並みの環境を前提とし、国内との差は補正で埋める設計です。その補正に、今回の実績データがどこまで入るかが問われます。

デベロッパーやEPCは、次の点に注意が要ります。この上限価格は、法の対象外の190MWだけの話にとどまりません。国が国内の実績コストに値段を付ける用意があるかを示す、最初の公開された数字になるからです。

Related DeepWind Articles

DeepWind Weeklyを購読する

DeepWind Weeklyは、日本の洋上風力市場を毎週お届けします。発表された内容そのものより、その先で何が起きるかを追います。工事は実際に動くか、コストは合うか、事業として成り立つか、部材と人手は足りるか、制度は何を変えるか。この5点から読み解きます。

日本の洋上風力市場に関する週次インテリジェンスを受け取る

DeepWind Premium Report

日本の浮体式洋上風力は、なぜまだバンカブルでないのか?

同期する供給網ボトルネックをノード別に定量化し、全感度分析とバンカビリティ・ラダーで「何が満たされれば拡大に進めるか」を整理。全数値を自分の前提で再現できる Simulator Professional (β) アクセス同梱。

分析を見る →
※詳細・価格は商品ページをご覧ください
浮体式洋上風力:バンカビリティ・テスト — DeepWind Premium レポート #4 表紙
上部へスクロール