港を大きくせずに洋上風力を建てられるか:JETRO支援FSが示した浮体ロジスティクスの成立条件

Can Japan Build Without Expanding the Ports

作成日:2026年8月14日|更新日:2026年8月14日

MARKET DYNAMICS

岸壁が3本、浮体基礎の製造ラインが12本。国土交通省の試算によれば、1GWの浮体式洋上風力を日本海側で2年かけて建てるには、これだけの設備が要ります。しかも台風が1回来れば、そこから10日以上が消えます。普通に思いつく答えは「港を大きくする」でしょう。ところが、JETRO支援の調査は逆の方向を試しました。運搬と一時保管を兼ねる浮体を使い、荷役や保管の機能を岸壁の外へ出すという案です。EWindsAが2026年8月にDeepWindへ公開用として提供したサマリーに、その結論が示されています。コンセプト段階の評価としては技術面でも規制面でも成立しうる、というのがその結論でした。ただし読みどころは船そのものではありません。港を広げる以外の道が検討され始めた、という事実のほうです。

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Policy Design

Execution Reality

Bankability Test
Key Takeaways
1. 効いている制約は容量ではなく時間
3岸壁も12ラインも、整備すれば解消する話です。ただし整備には費用と許認可と工期がかかり、その工期が個別案件の工事期間と合うとは限りません。足りないのは容量そのものより、容量が使えるようになるタイミングです。
2. 調査が示したのは「成立しうる」であって「成立する」ではない
既存のバージ(台船)の設計と船級の枠組みの中で建造でき、新しい船種は要らない、というのが結論です。ただしこれはコンセプト段階の評価で、運用も案件ごとの承認が前提です。公開用サマリーに建造費も稼働率も用船料も載っておらず、採算は外から検証できません。
3. 成立の条件は、結局どれだけの案件が着工するかに戻る
単一案件用の船ではなく、複数の工事で使い回す資産として評価されています。つまり鍵は稼働率です。案件が固まらないと船が成立せず、船の見通しがないと工程も固まらない。ボトルネックはここで堂々巡りになります。

3岸壁・12ライン、そして台風で消える10日

まず制約の大きさを押さえておきます。国交省のシミュレーションは、1GWの浮体式洋上風力発電所について、年間20基(3年完工)と年間30基(2年完工)の2つのペースを検証しました。そこで出たのが「3岸壁・12ライン」です。

理屈は天候にあります。太平洋側は通年で作業できるので、搬入用と搭載用の計2岸壁で回せます。日本海側は冬に海上作業ができません。限られた期間に搭載を並行させる必要があり、搭載用2岸壁と搬入用1岸壁で計3本が要ります。製造ラインも同じで、太平洋側の5本に対し、日本海側は冬のうちに作り溜めする分だけ増えて12本になります。15MW機の浮体なら1ラインが110m四方、およそ1.2haです。通路と、地盤を補強した区画まで含めれば、ひとつの港で用意できる規模ではありません。

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時間の側はもっと厳しい数字が並びます。国交省の1GW参照ケースは、立地に応じて施工サイクルを2〜3年と置いています。そこにFLOWCONの試算が重なります。浮体に風車を載せている最中に台風が来ると、退避に8日、再開準備に2日。合わせて10日以上が飛びます。1シーズンに3回来れば、ほぼ1ヶ月です。作業可能率も通年平均で約40%、夏に絞っても約70%にとどまります。

これらの数字は長く「港湾の容量が足りない」ことの裏づけとして読まれてきました。ただ、並べ直すと別の読み方も立ちます。3岸壁も12ラインも、作れないものではありません。問われているのは、それがいつ出来上がるかです。

調査が挙げた5つの制約と、6つ目の「時間」

今回の調査は、East Winds Asia社がJETRO(日本貿易振興機構)の支援を受けて実施し、運搬と一時保管を兼ねる浮体のコンセプトを技術・市場・規制・採算の4面から評価したものです。その前提として、洋上風力の建設拠点として検討されている日本の港湾に、構造的な制約が5つあると挙げています。

調査が挙げた制約 既存の公開資料で確認できる大きさ
ヤード用地の狭さ 浮体基礎の製造は1ラインあたり110m四方(約1.2ha)。日本海側で年間30基なら12ライン(国交省)
岸壁の耐荷重不足 製造ヤードには10t/㎡から25t/㎡の地盤補強が前提とされる(国交省)
水深と係留設備の制約 海上仮係留は水深30〜50mを想定。1基あたりのアンカー円半径は232〜292mと試算(国交省)
洋上サイトからの距離 複数港湾の連携方式は2基あたり26日、大規模港湾で完結する方式は19日(FLOWCON)
既存貨物との競合 仮係留の泊地や航路を半日程度占有するため、既存船舶との調整が要る(国交省検討会)

5つとも、すでに議論に出ていたものです。目を引くのは、その後に置かれた6つ目でした。港を恒久的に広げるには多額の投資が要り、計画と許認可にも長い時間がかかる。そして整備にかかる期間は、個別案件のスケジュールに必ずしも合わない。調査はそう指摘しています。ここで制約として挙がっているのは、広さでも水深でもなく時間です。

Execution Risk

岸壁の耐荷重も海上仮係留も、整備すれば解決する種類の制約です。ただし解決までの時間が案件の工程より長ければ、事業者から見れば無いのと同じになります。英国のOffshore Solutions GroupがDeepWindに示した数字では、200箇所を超える候補地を評価して実用に耐える短いリストにたどり着くまでに約3年かかりました。同社自身がスコットランドで進めるMoray FLOW-Parkは、6〜7年を見込む計画の3年目です。恒久インフラの準備にかかる年数は、案件が工事に着手できる期間より長くなりがちだと見ておく必要があります。

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「船で持つ」という答えと、その成立条件

検討されたのは、大型部材を運ぶ能力に加えて、海上で一時的に保管し、工程のずれを吸収する機能まで持たせた浮体です。必要なときに港や建設区域の近くへ置き、終われば別の案件や地域へ移す。既存の基地港湾やフィーダー船を置き換えるものではなく、あくまで補完する位置づけだと調査は述べています。

技術と規制についての結論は明快でした。ClassNKをはじめとするIACS(国際船級協会連合)加盟団体が使っている既存のバージ設計と船級の枠組みの中で設計・建造でき、必要な甲板の耐荷重も復原性もバラスト容量も、新しい船種を作らずに満たせる。曳航して動かし、既存の岸壁や仮係留地で積み下ろしし、建設区域の近くへ配置するという使い方も、これまでの海事の慣行から外れない。日本の海事と港湾の規制の枠組みの中で運用できる。調査はそのように結論づけています。

ただし条件も明示されています。これはコンセプト段階の評価であり、運用は案件ごとの手続きと承認が前提です。示されたのは「制度上の障壁が見当たらない」ことであって、「実行できる」ことの確認ではありません。

採算については、建造費・運営費・年間稼働率・用船料に保守的な前提を置いたうえで、投資が実現の確からしい案件に紐づく限り、インフラ資産に見合うリターンを得られる可能性があるとしています。そのうえで、最終投資判断(FID)を複数の案件からの意向表明や事前の用船確約に紐づける段階的な投資モデルが適切だと結んでいます。単一の案件への依存と、早すぎる建造を避けるためです。

Bankability Note

FIDを事前の用船確約に紐づける仕組みは、船が動かないリスクを、案件が実現するかどうかの確からしさに置き換える構造です。裏を返せば、想定した稼働率が崩れた瞬間に、インフラ資産並みのリターンという前提も崩れます。公開用サマリーには建造費も稼働率も用船料も載っておらず、DeepWindとしてその水準は検証できません。金融機関の立場で見るべきは利回りの高さではなく、何件の用船確約が揃えばFIDに進める設計か、そしてその件数が現実に着工しそうな案件の数と釣り合っているかです。

ここで話が一周します。船が成立する鍵は稼働率で、その稼働率を支えるのは着工に至る案件の数です。ところが案件の側から見れば、工程を固められるかどうかは港湾とロジスティクスが揃うかにかかっています。案件が決まらないと船が成立せず、船の見通しがないと工程も固まらない。どちらかが先に動くしかありませんが、調査自身も、FIDの前にパートナーの確約、用船の見込み、運営体制の詰めが要るとしています。堂々巡りは、まだ抜け出せていません。

調査は政策側にも、一時的な浮体インフラの手続きの明確化、港湾周辺での仮係留と保管の柔軟な扱い、物流と海洋インフラへの支援の拡大を求めています。いずれも筋は通っていますが、制度が用意できるのは手続きと柔軟性までです。稼働率を支える案件の数そのものは、制度を柔らかくしても直接には増えません。

据付側との距離も見ておく必要があります。国交省港湾局は2026年7月24日に浮体式の海上施工に関する技術開発7件を新規採択しましたが、据付船そのものには依然として資金が付いていません。保管と運搬を船で持つ案が埋めるのはその手前の工程で、据付の空白そのものではない、と整理しておくのが正確です。

👉 浮体式洋上風力の海上施工:国交省が採択した技術開発7件と、まだ埋まらない据付ボトルネック

DeepWind View

港湾の制約は容量の問題として語られてきましたが、実際に効いているのは足並みがそろわないことのほうです。

難しいのは、港が出来上がる時期と、案件が工事に着手できる期間を合わせることです。英国で見えている恒久インフラの準備期間は、日本の建設サイクル2〜3年より長く出ています。その差がある限り、案件はどこかの時点で「まだ整備されていない港湾」を前提に工程を組むことになります。

移動できる浮体の居場所は、この差の中にあります。容量を新しく作る手段というより、容量が使えるようになるまでの時間を買う手段です。ただしこの答えには弱点があり、成立の条件が案件の見通しに左右されます。DeepWindが浮体式について述べてきた構図、つまり技術・コスト・港湾・施工・金融・制度が別々の速度で動き、足並みがそろわないという問題が、ロジスティクスの側でも同じ形で現れているとみられます。注目すべきは船の設計ではありません。複数の案件から事前の用船確約が実際に集まるかどうかです。それが集まる時期は、日本の洋上風力がFIDに届き始める時期とほぼ重なるはずです。

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