浮体式洋上風力の海上施工:国交省が採択した技術開発7件と、まだ埋まらない据付ボトルネック

Japan Funds Floating Wind Installation RD 2

作成日:2026年7月27日|更新日:2026年7月27日

PROJECT EXECUTION

国土交通省の港湾局が2026年7月24日、浮体式洋上風力の「海上施工方法」を確立するための技術開発7件を新規に採択しました。海上施工とは、洋上で風車の土台となる浮体を組み立て、海に浮かべ、海底につなぎ止めるまでの一連の作業のことです。採択された7件は、クレーン、海底の掘削、係留(浮体を海底につなぐロープや鎖)の敷設、アンカー、天候の予測、洋上の作業拠点、港の使い方の調整といった、いずれも据付と物流の側の技術です。要点は、政府がこの据付の層に国の委託研究として資金を付けたこと、そして7件の配分が、日本の浮体式のどこをまだ商用前とみているかの地図になっていることです。7件のうち6件が2028年度まで走ります。そして、港湾・海事の管轄のなかにありながら、はっきり抜けている層が一つあります。

👉 日本の浮体式洋上風力:市場構造・コスト・政策

Policy Design

Execution Reality

Bankability Test
Key Takeaways
1. シグナルは据付層への配分の広さ
今回の7件を見ると、据付のさまざまな段階に、意識して幅広く資金が配られています。吊り上げ、海底の準備、係留、アンカー、作業可否の予測、港の調整。並べてみると、日本の浮体式で一番のネックを、据付と物流の問題として捉えているのがわかります。タービンの技術は経産省とNEDOが所管し、この制度の対象ではありません。
2. 2028年度までという時間軸は「まだ商用前」を意味する
7件のうち6件が2028年度まで、最短のクレーンでも2027年度までの研究開発です。2〜3年の研究として今これに資金を付けること自体が、商用規模の浮体式を実際に作る段階がまだ整っていない、という裏返しです。
3. 船の空白は、港湾・海事の管轄のなかにある
今回付いたのは施工の手法・道具・調整の仕組みです。専用の大型据付船や曳航設備そのものの開発は、この7件の対象ではありません。船は国交省の外の話ではなく、むしろ管轄のなかの話です。DeepWindの見立てでは、手法が育ったあとに工程とコストを左右しやすいのは、この船の層です。

港湾局が実際に資金を付けたもの

この制度は、2026年度の「浮体式洋上風力発電の最適な海上施工方法の確立に向けた技術開発制度」です。港湾局は2026年4月7日から5月15日まで公募を行い、有識者の審査を経て7件を採択し、国の委託研究開発として集中的に進めます。所管が港湾局である以上、対象になるのは施工、海底、係留、港の物流であり、技術やタービンの側は経産省とNEDOが別に扱います。採択された内容は次のとおりです。

採択案件(代表機関) 期間
海上作業基地を活用した施工方法(浮体式洋上風力建設システム技術研究組合) 2026〜2028年度
基地港湾利用に適した国産リングリフトクレーン生産システム(タダノインフラソリューションズ) 2026〜2027年度
パルスパワー衝撃破砕による海洋底の岩盤掘削(戸田建設、熊本大学) 2026〜2028年度
高精度な気象・海象予報にもとづく作業可否予測システム(気象工学研究所、環境GIS研究所) 2026〜2028年度
繊維ロープを使った省力化係留の施工技術(吉田組、東京製綱繊維ロープ) 2026〜2028年度
経済的で高性能なアンカリング技術(五洋建設、東京海洋大学、海上・港湾・航空技術研究所) 2026〜2028年度
基地港湾の利用調整システム(海上・港湾・航空技術研究所、東京海洋大学) 2026〜2028年度

案件名はどれも専門的ですが、並べてみると流れははっきりしています。7件はすべて、浮体式の据付と物流の側にあります。リングリフトクレーンは基地港での吊り上げ能力の話です。パルスパワーの破砕は、火薬を使わず、水深にも左右されにくいやり方で海底の岩盤を整える技術です。繊維ロープとアンカーは、係留を海底に敷き、確実に留めるためのものです。作業可否の予測と港の調整は、どの洋上工事でも工程を左右する「天候の窓」と港の枠を、どう管理するかという課題に応えるものです。ここで注目したいのは、施工と港という、港湾局そのものの管轄のなかにありながら、手法・道具・調整には資金が付いた一方で、それらを実際に動かす据付船が入っていない点です。

7件を据付ボトルネックの層に置き直す

浮体式洋上風力は、水深がおよそ50メートルを超えて着床式の基礎が現実的でなくなる海域で風車を立てられる技術です。ここでの壁はタービンではありません。日本では、据付と物流のいくつもの要素が同時に育たないと、前に進めません。7件をその要素に当てはめると、制度がどの層に、どれだけ厚く資金を置いたかが見えてきます。

採択案件 対応する据付ボトルネックの層
海上作業基地の施工法 海上での組立・据付の拠点
国産リングリフトクレーン 大型の吊り上げ能力と、クレーン輸入への依存の緩和
パルスパワーの海底破砕 火薬に頼らず水深にも左右されない海底の準備
気象・海象の作業可否予測 天候の窓の確実性と工程リスク
繊維ロープの係留施工 係留ロープの取り回しと省力化
経済的なアンカリング アンカーの把駐力(つかむ力)、耐震性、コスト
基地港湾の利用調整システム 不確実性のもとでの港の枠と資源の配分
Execution Risk

一覧のうち2件は、同じ根っこのリスクを指しています。工程です。作業可否の予測と基地港湾の調整が採択されたのは、洋上の据付が、能力の高さではなく天候の窓と限られた港の枠で決まるからです。国産クレーンが重要なのも同じ理由です。吊り上げの機材や港の枠が足りないと、天候の窓を一つ逃しただけで、その影響が据付工事の全体に広がります。浮体式の採算が最も崩れやすいのは、この工程の遅れです。

2028年度という時間軸が本当に示すもの

期間にも注目したいところです。7件のうち6件は2028年度まで、最短のクレーンでも2027年度まで走ります。これは据付そのものの契約ではありません。日本ではまだ商用にすぐ使える形になっていない手法を確立するための、2〜3年の研究開発です。素直に読めば、政府がこの層に今資金を付けたのは、まだ整っていないからであり、そこが整うまで日本の浮体式の目標は届かないからです。

この読み方は、計画をスケジュールの目標と照らし合わせる人にとって効いてきます。2028年度に研究が終わる手法は、2028年度に商用として手に入り、認証され、大規模に使える手法と同じではありません。採択された手法を個別プロジェクトの工程に当てはめるときは、研究の完了と現場で使える状態との間にある時間差を考えに入れてください。手法に資金が付いた事実を、すぐ使える能力と同じには扱わないのが安全です。

この制度が直接は埋めない層

7件はクレーン、掘削、係留、アンカー、予測、海上作業基地、港の調整をカバーします。DeepWindの見立てでは、そこからほぼ外れている層が一つあります。専用の大型据付船と曳航設備のキャパシティです。これがはっきりした「欠け」なのは、船が国交省の外の話ではなく、むしろその内側の話だからです。海上作業基地は洋上の拠点であり、船に近い性格を持ちますが、専用の据付船団そのものを開発するものではありません。この問いは、同じ省のなかでも別の枠組み、海事局や造船政策の側で扱われる傾向があります。DeepWindはそこで、SEP船(自己昇降式作業台船。海底に脚を下ろして船体を持ち上げ、安定した足場をつくる据付船)の議論が重要性の割に薄い、と指摘してきました。

これは制度の範囲への批判ではなく、一つの観察です。施工の手法と船舶の供給力は別の政策手段であり、手法を対象にした制度は、船をそろえるための枠組みではありません。市場にとっての要点はこうです。クレーン、アンカー、係留、予測が育つと据付リスクの一部は下がりますが、手法が実証されたあとに残るのは、船と、天候の窓をどれだけ読めるかという層です。手法が整えば据付リスクは片づく、と計画が前提を置いているなら、そこは慎重に見るべきです。

Bankability Note

据付の工程が読めるかどうかは、そのままプロジェクトファイナンスに効いてきます。天候の窓のリスクと船の稼働可能性は、建設期間、予備費、そしてレンダー(融資する金融機関)が資金繰りとDSCR(元利金返済に対する資金の余裕度)を厳しく見るときに使う確率の幅を左右します。天候の窓を読みやすくし、係留の敷設を速くする手法は、その幅を狭めます。これはバンカビリティ(融資が付く度合い)にプラスです。ただし据付船のキャパと現場での実績が見えるまで、レンダーは浮体式の据付を不確実性の高い局面として値付けし続けるとみられます。モデル上のLCOE(発電単価)がどれほど低く見えても、そこは別の話です。

DeepWind View

浮体式は、据付・港湾・係留を同時にほどく問題です。この制度は、政府がそのボトルネックの層に直接資金を付けたものです。

7件の構成そのものがメッセージです。効いてくるのは配分の細かさです。吊り上げ、海底の準備、係留、アンカー、予測、港の調整が、それぞれまだ育てるべき別々のピースとして扱われています。これは、水深の深い海域での浮体式の展開が世界でたどる姿とも重なります。技術は十分に成熟しつつあり、難しいのは、融資が成り立つ工程のなかで、浮体を組み、曳き、係留し、系統につなぐことのほうです。

市場にとって有効なのは、この一覧を発表としてではなく、準備状況の目盛りとして読むことです。採択された各手法は、日本がまだ商用前とみなす層に印を付けたもので、研究の区切りは2028年度です。次に見るべきは、この制度が直接は資金を付けない層です。大型据付船と曳航設備のキャパ、そしてすべての洋上工事を左右する天候の窓の確実性です。手法の成熟は必要条件です。ただし工程の確実性の十分条件ではありません。そして浮体式のバンカビリティは、その工程の確実性で決まります。

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