作成日:2026年10月27日|更新日:2026年10月27日
FLOATING WIND
福島県楢葉町・富岡町沖の浮体式洋上風力について、東京ガスが事業化を断念したと報じられました。日本経済新聞が10月26日朝刊で、福島民友が27日に伝えています。浮体式に関わる企業にとっては、商用化の手前の一段を民間だけで踏めるのかが問われる出来事です。浮体式は、風車を海底に固定せず、海に浮かべた土台に載せる方式です。計画は15MW級の風車2基、合計30MWで、2027年の運転開始を目指していました。報道によると、理由は建設費の高騰で採算が見込めなくなったことです。東京ガスは13日前、この計画で使うとしていた米プリンシプル・パワーの浮体について、設計の承認を得たばかりでした。設計の関門を越えても、建設費を回収できる見通しは立たなかったことになります。国は300MW程度の「中規模実証」を商用化への橋渡しとして検討しています。浮体式の次の一段を民間が単独で踏むのは難しく、当面の道は国の実証にほぼ絞られた、とDeepWindは読んでいます。
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10月13日のAiP(基本設計の承認)は、浮体が技術的に成り立つことを示しました。2基を日本の海で建てる費用が回収できるかは、まったく別の問いです。報道では、止まったのは後者です。
資源エネルギー庁は2026年7月、300MW程度の中規模実証の組成を検討すると報告しました。民間の30MW計画は、採算で止まったと報じられました。商用化の手前の一段は、規模と公的資金の両方を前提に組まれつつあるように見えます。
日経によると、同社は政府の支援策と建設費の動向を見て浮体式の方針を検討します。福島県沖での再開の可能性も残しています。次の材料は、国の実証の制度設計と予算です。
報じられた内容:2基・30MW、2027年運転開始の計画を断念
報道によると、東京ガスと地元の電力会社である信夫山福島電力(福島市)は、10月26日までに事業の継続を断念しました。福島民友は、両社が「採算が取れないと判断した」と伝えています。日経は、建設費の高騰を理由に挙げています。
10月27日時点で、東京ガスのニュースリリースにこの件の発表は見当たりません。以下のうち、断念とその理由は報道にもとづく内容です。計画の中身は、2023年の発表と環境影響評価(環境への影響を事前に調べて公表する手続き)の資料で確認できます。
| Project / Area | (仮称)福島県楢葉町・富岡町沖浮体式洋上風力発電事業 |
|---|---|
| Location | 福島県楢葉町・富岡町の沖合約20km |
| Capacity | 15MW級×2基、合計30MW |
| Developers | 東京ガス、信夫山福島電力 |
| Status | 事業化を断念と報道(2026年10月)。両社の正式発表は10月27日時点で確認できず |
| Foundation type | 浮体式。2023年の発表時、プリンシプル・パワーの浮体技術を使うとしていた |
| Key execution issue | 建設費の高騰(報道)。費用の内訳は報じられていない |
| Key commercial issue | 2基の規模で建設費を回収できるか。売電の前提(制度・契約)は公表資料で確認できず |
計画が公表されたのは2023年2月です。同じ日に環境影響評価の最初の段階である方法書(調査の進め方を示す書類)が公告され、楢葉町と富岡町で説明会が開かれました。経済産業大臣は同年10月、方法書への勧告の中で、風車の規模や基礎の構造など事業計画をできるだけ明確にするよう求めています。
日経は、同社が当面は他の海域の着床式に経営資源を集中する見込みだと報じています。丸紅などと進める山形県遊佐町沖の着床式は、継続するとみられています。
13日前のAiPと今回の断念は、別の問いに答えている
東京ガスは10月13日、15MW級風車向けの浮体「WindFloat TC」でAiPを取得したと発表しました。プリンシプル・パワーとの共同取得です。審査したのは日本海事協会(ClassNK)で、船や海洋構造物の安全基準を定めて審査する機関です。AiPは基本設計段階の承認です。第三者の認証機関が図面を規則に照らして審査し、技術的に実現できることを確かめます。実際に建造した浮体を承認するものとは違います。
東京ガスは2020年からプリンシプル・パワーに出資しています。2023年の福島県沖の発表でも、同社の浮体技術を使うとしていました。ただし、10月13日にAiPを得た設計が福島県沖の案件向けだったかどうかは、リリースからは読み取れません。
二つの出来事は、別々の関門を指しています。AiPが答えたのは「この浮体は日本の海で成り立つか」という設計の問いです。断念の報道が示したのは「2基をいま日本の海で建てて、費用を回収できるか」という事業の問いです。設計の関門を越えても、事業の関門は自動的には開きません。
同じ海域で2度目:国の実証「福島FORWARD」は約600億円で撤去へ
楢葉町の沖合約20kmでは、以前にも浮体式が試されています。経済産業省は東日本大震災の後、この海域で浮体式の実証事業「福島FORWARD」を委託しました。丸紅を中心とする企業連合が、2MW・7MW・5MWの風車3基と、浮体式の変電設備1基を設置しました。
事業費は約600億円と報じられています。国は採算が見込めないとして、2020年に撤去を決めたと報じられました。今回の東京ガスの計画は、民間2社が自ら進めていたものです。それでも、同じ海域で浮体式の計画が2度、採算を理由に止まったことになります。
ただし、2つの性格は違います。FORWARDは複数の浮体形式を試すための実証で、商業運転を目的にした計画とは設計の考え方が異なります。一方で、両方に共通するのは、少ない基数で浮体式の費用を回収する道が見つからなかったという点です。国内外の実証が商用化にどうつながったかは、実証から商用化への事例分析で整理しています。
30MWが成り立たず、国は300MWを「橋渡し」に検討している
日本の浮体式は、国の実証を軸に、いくつかの段階で組まれています。資源エネルギー庁が2026年7月に示した資料は、その先の道筋を時間と規模で示しました。
| 段階 | 例 | 規模 | 主な資金 | 状況(2026年10月) |
|---|---|---|---|---|
| 国の実証(初期) | 福島FORWARD | 2MW・7MW・5MWの3基 | 国の委託(約600億円と報道) | 採算が見込めないとして撤去(報道) |
| 商業運転(小規模) | 五島市沖 | 2.1MW×8基、16.8MW | 固定価格買取(FIT)36円/kWh | 2026年1月に商業運転を開始 |
| 民間パイロット | 東京ガス・信夫山福島電力 | 15MW級×2基、30MW | 事業者 | 断念と報道 |
| 国の実証(フェーズ2) | 秋田県南部沖・愛知県田原豊橋沖 | 12〜15MW級(秋田2基・愛知1基の計画) | GI基金の浮体式実証枠850億円 | 実施中 |
| 過酷海域の実証 | 候補海域を都道府県から募集中 | 風車5基以上を置ける面積 | GI基金 | 2027〜2032年に実施予定。情報提供の締切は10月30日 |
| 中規模実証 | 未定 | 300MW程度 | 未定 | 組成を検討中 |
GI基金は、脱炭素の技術開発と実証を長期で支える国のグリーンイノベーション基金です。洋上風力の低コスト化には1,235億円を充てています。FITは固定価格買取制度で、国が決めた価格で電気を長期間買い取る仕組みです。
表のうち、国の実証の枠の外にある民間の計画は、五島市沖と東京ガスの計画の2つです。五島市沖は8基とFITで商業運転に入り、東京ガスの2基は止まったと報じられました。一方で国は300MWの中規模実証を「商用化への橋渡し」と位置づけて検討しています。30MWと300MWの間には、10倍の開きがあります。国が商用化の手前に置こうとしている一段は、民間が単独で試した規模よりもはるかに大きいということです。
日経によれば、東京ガスは政府の支援策と建設費の動向を見て、浮体式の方針を検討するとしています。事業者の側も、次の一段に公的な支えが要るという見方を示した形です。
2基の試験機は固定費を薄められない:DeepWindの読み
断念の内訳は報じられていません。ここからはDeepWindの解釈です。
浮体式の費用には、風車の数にあまり比例しないものがあります。海域の調査と環境影響評価、陸までの送電ケーブルと系統(送電網)への接続、組み立てに使う港の準備、作業船を呼び寄せる費用などです。2基の計画は、こうした費用の多くを、2基分の売電収入だけで回収しなければなりません。
建設費が上がると、この構造の弱さがそのまま出ます。鋼材・作業船・人件費が一律に上がっても、基数の多い計画なら固定的な費用を多くの風車で分け合えます。2基ではそれができません。もし費用の重さがこの部分にあったのなら、問題は浮体の設計ではなく、計画の規模にあったことになります。
小規模な浮体式の採算は、商業運転中の五島市沖でも厳しく出ます。DeepWindの試算(Viability Simulator 2026年10月版)では、五島市沖16.8MWの建設費は1kWあたり約144万円です。発電コストは48.9円/kWhになります(物価変動を除いた実質値、資本コスト3.0%、30年)。資本コストは、借入と出資に支払う利回りの平均です。売電価格はFITの36円/kWhで、物価に連動しないため、実質で見た収入は年を追って目減りします。風車の大きさが違うため、この数字を東京ガスの計画にそのまま当てはめることはできません。ただ、8基の五島市沖でもこの差があり、2基の計画では固定的な費用を分け合う相手がさらに少なくなります。試算の前提は浮体式のコスト構造の記事に載せています。
次に確かめる4点
1. 東京ガスと信夫山福島電力の正式な説明。報道は断念の理由を建設費としていますが、内訳はまだ公表されていません。環境影響評価の手続きを取り下げるかどうかも、計画の扱いを判断する材料になります。
2. 過酷海域の実証の候補海域。都道府県からの情報提供は10月30日が締切です。候補の条件には、水深500m以上の区域を含むことが入っています。隣に240MW程度の区域を数年以内に確保できる見込みも求められています。要件の読み方は過酷海域実証の記事で解説しています。
3. 300MW程度の中規模実証が、予算と制度になるか。資源エネルギー庁の資料では、取り組みの進み具合や市況を踏まえて判断するとされています。規模・資金・選定方法がいつ示されるかが、民間の次の投資判断を左右します。
4. WindFloat TCが、どの海域に割り当てられるか。AiPを得た設計は、実際の海域と組み合わさって初めて事業になります。福島県沖が止まったいま、その割り当て先はまだ見えていません。
浮体式の商用化までの一段は、民間の小さな計画では埋まりにくくなっています。
東京ガスの計画は、国の実証の外で15MW級の浮体を2基建てる、数少ない民間の試みでした。計画は、設計の承認を得た直後に採算で止まったと報じられました。技術の成熟度とは別に、規模と費用の組み合わせが壁になっていることを示しています。国が商用化の手前に置こうとしている一段は300MW程度で、民間が単独で試した30MWの10倍です。
浮体式の部材や施工に投資を考える企業は、自社の計画を国の実証の時間軸に合わせることを検討してよいでしょう。過酷海域の実証は2027〜2032年、中規模実証はまだ検討の段階です。一方で、小規模な民間パイロットを商用化の足がかりとして見込む計画には、慎重であるべきです。少なくとも建設費が今の水準にある限り、2基の計画で費用を回収する道は、今回の報道からは見えません。
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