洋上風力「有望区域」の投資採算性:ラウンド4候補をLCOE・IRRで分析(2026年)

Japans 9 Promising Zones Ranked on LCOE and IRR 1

作成日:2025年6月13日|更新日:2026年8月2日

コスト&事業性

再エネ海域利用法の「有望区域」に指定されている9エリアを、促進区域とまったく同じ前提で試算すると、LCOE(均等化発電原価=発電1kWhあたりの平準化コスト)は政府資料が用いる実質WACC3%の基準で約22.1〜34.7円/kWh、撤退リスクを織り込んだ4%では約23.8〜37.9円/kWhに広がります。結論を先に言えば、最も条件のよい山形県酒田市沖は、すでに公募が動いている促進区域のどの区域よりも安いという結果になりました。有望区域は「まだ選ばれていない二軍」ではありません。次のラウンドで何が起きるかを読むうえで、この序列は無視できない材料です。

👉 洋上風力「有望区域」一覧:次期公募候補エリアと選定見通し(2026年)

Policy Design

Execution Reality

Bankability Test
Key Takeaways
1. 有望区域の最安は促進区域の最安を下回る
山形県酒田市沖は政策基準で22.1円/kWh。促進区域で最も安い秋田県八峰町・能代市沖(23.1円)より低い値です。有望区域が促進区域より条件の劣る集まりだという前提は、少なくともコスト面では成り立ちません。
2. 系統が近くても成立しない区域がある
北海道岩宇・南後志地区沖は系統連系点まで直線3kmと9区域で最短ですが、LCOEは34.7円と突出して高くなります。水深44mと設備利用率36.6%が効いており、系統距離の近さだけでは事業性を担保できません。
3. 風況が最良でも水深と港湾距離が食う
青森県沖日本海(北側)は設備利用率48.0%と9区域で最も風況がよいものの、水深40m・基地港まで90kmという条件がCAPEXを押し上げ、LCOEは29.2円にとどまります。風況の優位は他の条件で相殺されます。

2026年時点の有望区域は9エリア(顔ぶれが入れ替わった)

有望区域の顔ぶれは、この1年で入れ替わっています。北海道檜山沖と松前沖は「促進区域」へ移り、第4ラウンドの候補になりました。代わりに秋田県秋田市沖と福岡県響灘沖が加わっています。区域数は9のままですが、中身は別物です。

有望区域 想定容量
(MW)
設備利用率
(%)
水深
(m)
系統距離
直線 (km)
基地港距離
(km)
北海道石狩市沖 1,140 46.3 26 24 25
北海道岩宇・南後志地区沖 705 36.6 44 3 130
北海道島牧沖 555 41.0 20 21 160
青森県沖日本海(北側) 300 48.0 40 22 90
秋田県秋田市沖 360 44.0 19 13 10
山形県酒田市沖 495 43.4 11 5 5
千葉県いすみ市沖 390 45.6 14 33 100
千葉県九十九里沖 405 40.9 16 15 80
福岡県響灘沖 480 37.6 21 7 15

出典:容量は経済産業省資源エネルギー庁の公開資料をもとにDeepWindが15MW機前提で整理。設備利用率はNEDO NeoWinsの風況統計にIEA Wind 15MW参照タービンのパワーカーブを適用して算定(損失考慮前のグロス値)。水深・距離はDeepWind推計。

促進区域とまったく同じ前提で並べる

比較の意味を保つため、前提は促進区域の分析と1つも変えていません。価格や制度の違いをあえて取り除き、立地と構造の差だけがどう効くかを見るためです。

  • 運転年数:30年
  • LCOEの割引に用いる実質WACC(資本コスト):政策基準3%とリスク調整4%の2本立て(実質ベース=一定の2026年円建て)
  • 想定売電単価:30円/kWh(全区域同一)
  • 為替前提:USD/JPY 160
  • 系統接続距離:直線距離を1.45倍して送電ルートの迂回を反映
  • IRRはアンレバレッジのプロジェクトIRR(借入を考慮しない、事業そのものの利回り)

割引率を2つ置いているのは、問いが2つあるからです。3%は政府資料が用いる水準で、「社会にとっていくらか」という政策のコスト指標にあたります。4%は、事業からの撤退が現に起きている状況を踏まえてDeepWindが置いた、リスクを織り込んだ資本コストです。両方を並べ、その差を読むのがこの表の使い方です。

系統接続距離は、沿岸部から連系先の変電所までの直線距離をもとに、送電ルートの迂回を考慮して1.45倍しています。青森県つがる市沖では、直線でおよそ38kmの区間に対し、実際に建設される陸上送電線は約55kmと報じられており(ATV青森テレビ、2026年8月1日)、この比率を全区域に当てはめました。送電線は山地を避け、既設のルートに沿わせるかたちで敷かれるため、直線距離は実際の敷設長を必ず下回ります。

9区域の事業性はどこに並ぶか

有望区域 LCOE
政策基準3%
(円/kWh)
LCOE
リスク調整4%
(円/kWh)
事業IRR
(%)
山形県酒田市沖 22.1 23.8 7.2
秋田県秋田市沖 23.7 25.7 6.0
千葉県いすみ市沖 23.9 25.9 5.9
北海道石狩市沖 25.2 27.4 5.1
千葉県九十九里沖 25.5 27.7 5.0
青森県沖日本海(北側) 26.8 29.2 4.3
北海道島牧沖 27.3 29.7 4.1
福岡県響灘沖 27.8 30.1 4.0
北海道岩宇・南後志地区沖 34.7 37.9 1.4

出典:DeepWind Viability Simulator(前提:30年・実質WACC3%および4%・売電30円/kWh・USD/JPY160・系統距離は直線×1.45)。示唆的な相対比較であり、個別案件の確定的な収益性ではありません。

有望区域9エリアのIRR(横軸)×LCOE(縦軸)散布図。破線は想定売電単価30円と実質WACC4%のハードルで、交点の右下が資本コストを上回る領域
図1:有望区域の相対事業性(IRR × LCOE)/リスク調整ケース(実質WACC4%)
横軸がIRR、縦軸がLCOE。右下(高IRR・低LCOE)ほど相対的に強い。破線は想定売電単価30円と実質WACC4%のハードルで、交点の右下に入る区域だけがこの前提で資本コストを上回ります。
Source: DeepWind Viability Simulator, 2026-08。前提:30年・実質WACC4%(リスク調整ケース)・売電30円/kWh・USD/JPY160・系統距離は直線×1.45

リスク調整4%の基準では、9区域のうち7区域が想定売電単価30円の内側に入ります。外に出るのは福岡県響灘沖(30.1円)と北海道岩宇・南後志地区沖(37.9円)の2区域です。政策基準3%で見ると、外に残るのは岩宇・南後志だけになります。割引率の置き方ひとつで、響灘が線のどちら側に来るかが変わります。

最も安い区域は、すでに公募が動いている区域より安い

この試算で最も目を引くのは、山形県酒田市沖の位置です。政策基準で22.1円、リスク調整でも23.8円。促進区域12エリアで最も安い秋田県八峰町・能代市沖(政策基準23.1円)を下回ります。

理由は前提の魔法ではなく、立地条件がそのまま出ています。水深11mは9区域で最も浅く、系統連系点まで直線5km、基地港まで5km。設備利用率も43.4%と十分です。浅い・近い・風がある、の3つが揃っています。促進区域で強い位置にある秋田・山形勢と同じ構造で、酒田はその延長線上にあります。

👉 洋上風力「促進区域」12エリアの事業性:LCOE・IRRで見るコスト比較(2026年)

Key Insight

有望区域を「promotion zoneに届かなかった区域」と読むと判断を誤ります。指定の順番は、事業性の順番ではありません。促進区域への移行は、地元調整の進み具合や系統の空き容量、港湾の確保など、コスト以外の要素にも左右されます。酒田がすでに公募が動いている区域より安いという結果は、制度上の段階と事業としての成立度が別物であることを示しています。

系統が近くても成立しない:岩宇・南後志が外れる理由

北海道岩宇・南後志地区沖は、9区域のなかで最もはっきりと外れます。政策基準34.7円、リスク調整37.9円。事業IRRは1.4%で、想定売電単価30円ではとても届きません。

意外なのは、この区域の系統連系点までの距離が直線3kmと9区域で最短だという点です。促進区域の分析では系統距離がLCOEを分ける最大の要因のひとつでしたが、ここではその強みがまったく効いていません。

効いているのは別の2つです。ひとつは水深44mで、9区域で最も深い。着床式の基礎コストは水深にほぼ比例して増えます。もうひとつは設備利用率36.6%で、これも9区域で最も低い。分母のコストが増え、分子の発電量が減れば、LCOEは両側から押し上げられます。基地港まで130kmという距離も施工費を上乗せします。

Execution Risk

岩宇・南後志の例は、事業性を1つの指標で語ることの危うさを示しています。系統接続の近さは確かに強い要因ですが、水深・風況・基地港距離のいずれかが大きく崩れると、その優位は簡単に消えます。区域選定を「系統が近いか」で単純化すると、施工段階になってから基礎と施工の費用が想定を超える構図に入りかねません。

風況が最良でも順位は上がらない:青森県沖日本海(北側)

逆の例が青森県沖日本海(北側)です。設備利用率48.0%は9区域で最も高く、促進区域を含めても上位に入る風況です。ところがLCOEは政策基準26.8円・リスク調整29.2円で、順位は9区域中6番目にとどまります。

水深40mと基地港まで90kmが効いています。風況の良さは発電量を押し上げますが、深い海と遠い港はCAPEXを押し上げます。両者が打ち消し合った結果が、この位置です。

同じことは福岡県響灘沖にも言えます。こちらは系統7km・基地港15kmと近く、水深21mも扱いやすい範囲ですが、設備利用率37.6%という風況が響いて30.1円(リスク調整)となり、ハードルの外側に出ます。近さで勝っても風で負ける区域と、風で勝っても深さと遠さで負ける区域が、どちらも存在します。

Bankability Note

ここでのIRRは借入を考慮しない事業IRRです。実際のプロジェクトファイナンスでは、DSCR(元利返済カバー率)を一定水準以上に保てるかどうかが資金調達の可否を左右します(DeepWindの目安はStrong 1.35倍以上/Borderline 1.20〜1.35倍/Difficult 1.20倍未満)。事業IRRが4%前後にとどまる青森北側・島牧・響灘は、借入を乗せたときのDSCR余裕が小さくなりやすく、融資条件はより厳しくなります。ハードルの内側に入っているかどうかと、融資が付くかどうかは別の問いです。

DeepWind View

有望区域の序列は、次のラウンドの難易度を先に教えている。

この9区域を並べて見えるのは、条件のばらつきが促進区域より大きいという事実です。促進区域は秋田・山形の浅い海に集中していましたが、有望区域は北海道から九州まで広がり、水深も11mから44mまで開いています。最安と最高の差は政策基準で12.6円、リスク調整で14.1円。促進区域(着床式11区域)の幅より広く取れています。

これは、案件形成が「条件のよい海から、条件の難しい海へ」進んでいることの裏返しです。酒田のように促進区域の上位と並ぶ区域がある一方で、岩宇・南後志のように現行の想定売電単価では届かない区域も同じ枠に入っています。「有望区域」という一括りの呼び方が、実態としては別々の難易度を持つ集合を指しているという点は、次の公募設計を読むうえで押さえておく価値があります。

注目すべきは、線の内外が入れ替わる区域です。響灘は割引率を3%にすれば内側、4%なら外側に来ます。こうした境界付近の区域では、制度が置く資本コストの想定が、そのまま案件の成立可否を動かします。

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