作成日:2025年6月2日|更新日:2026年6月18日
POLICY & REGULATION
日本の洋上風力プロジェクトは、どのように収益を得ているのでしょうか。その答えは、かつて太陽光の急拡大を支えたFIT(固定価格買取制度)ではなく、市場価格にプレミアム(割増)を上乗せして支払うFIP(フィードインプレミアム制度)です。FITとFIPの違いは技術的な細部に見えますが、実際には「価格変動リスクを誰が負うか」を決める分岐点です。そして洋上風力ラウンド3では、すべての事業者が実質的にゼロプレミアムで入札し、市場価格変動リスクをほぼ全面的に引き受けました。FITとFIPの違いを理解することは、日本の洋上風力のバンカビリティ(融資適格性)がなぜこれほど難しくなっているのかを読み解く出発点になります。
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Execution Reality
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Bankability Test
FITは一定期間の固定価格買取を保証し、発電事業者はインバランス(発電計画と実績の差)責任を免除されます。FIPは市場価格+プレミアムで、事業者が自ら市場で販売し、インバランス責任を負い、非化石価値を証書として別途売買できます。FITからFIPへの移行は、価格リスクを消費者から開発者へ移す転換です。
日本の洋上風力公募はFIPで設計されています。ラウンド3(青森県沖日本海南側・山形県遊佐町沖の着床式、入札上限18円/kWh)では、全事業者が実質ゼロプレミアムで入札しました。これは収益のほぼ全額を市場価格に依存させることを意味します。
市場価格への露出は、レンダー(融資者)が想定するP50〜P90の収益幅を広げ、DSCR(元利金返済カバー率)を圧迫します。だからこそ、長期固定収入を回復させる長期脱炭素電源オークション(LTDA)が代替策として注目されています。
2つの収益モデルと、決定的な1つの違い
FITとFIPは、一般的な意味での「補助金」ではありません。電気をどう売るか、価格リスクをどう配分するか、その結果としてどんな資金調達の前提を支えられるかを定義する収益フレームワークです。初期投資が大半を占め、20年以上かけて回収する洋上風力のような資本集約型資産にとって、この配分は決定的な意味を持ちます。
FIT制度では、認定された再生可能エネルギー由来の電気を一定価格で一定期間買い取ることを国が保証します。発電事業者は市場価格の変動から切り離され、インバランス責任も免除されます。この保証のコストは、毎月の電気料金に上乗せされる再エネ賦課金として、電気の使用者全体で広く負担します。対象は太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの5種で、初期段階の技術が資本を呼び込むために必要な収益の確実性を与える設計でした。
FIP制度では、発電事業者が電気を直接市場で販売し、市場価格にプレミアムを上乗せして受け取ります。プレミアムは、政策で定める基準価格(FIP価格)と、実際の市場環境を反映する参照価格との差額です。この柔軟性と引き換えに、事業者はインバランス責任と価格変動リスクを全面的に負いますが、非化石価値を証書化して別途取引することもできます。FITが固定価格に織り込んでいた非化石価値が、FIPでは独立した収益源になるわけです。
| 項目 | FIT(固定価格買取制度) | FIP(フィードインプレミアム制度) |
|---|---|---|
| 買取価格 | 一定期間の固定価格を保証 | 市場価格+プレミアム |
| 価格リスクの負担者 | 消費者(再エネ賦課金) | 発電事業者 |
| インバランス責任 | 免除 | 発電事業者が負担 |
| 非化石価値 | 固定価格に内包 | 証書として別途取引可能 |
| 政策の狙い | 収益の確実性・初期導入 | 市場統合・価格を意識した供給 |
電気そのものはどちらの制度でも同じように発電されます。違いは「どう売るか」と「誰がリスクを負うか」に集約されます。(電気が生み出される工学的な仕組みについては風力発電の仕組みを参照してください。)
なぜ洋上風力はFIPなのか――ラウンド3が示したもの
日本の洋上風力公募は、FITではなくFIPで設計されています。開発者は入札価格(FIP基準価格)で競争し、市場で電気を販売し、公募で決まったプレミアムを受け取ります。これは、洋上風力を固定買取で囲い込むのではなく、電力市場に統合していくという明確な政策意図に基づく選択です。
その帰結が、ラウンド3で可視化されました。着床式の2海域(青森県沖日本海南側・山形県遊佐町沖)の入札上限価格は18円/kWhに設定されましたが、参加した全コンソーシアムが実質的にゼロプレミアムで入札しました。ゼロプレミアムとは、入札価格が想定される参照価格(市場価格の指標)とほぼ同水準であることを意味します。つまり、市場で電気を売って得る収入を上回る上乗せがほとんどない――事業者はコスト回収のほぼ全額を市場収益(マーチャント収益)に賭けたことになります。
FIPでは、FITが吸収していた2つのリスクが開発者のバランスシートに移ります。第1にインバランス責任です。発電事業者は、計画した発電量と実績の差を自ら負担します。天候に左右される資産にとって、これは無視できない実コストです。第2に市場価格への露出です。プレミアムがゼロに近いとき、収益は市場価格に連動し、財務決定(ファイナンシャルクローズ)時に想定した水準を大きく下回ることもあります。想定平均価格で成立する事業計画も、20年の期間で卸価格が軟化すれば成立しなくなる――そしてその不確実性は、現実化するはるか前にレンダーの審査で織り込まれます。
収益フレームワークからバンカビリティへ
ここで、FITとFIPの違いは机上の議論ではなくなります。洋上風力のプロジェクトファイナンスはDSCR(元利金返済カバー率/返済原資が返済額の何倍あるか)を基準に組成されます。レンダーは期待値(P50)の収益ではなく、保守的なケース(P90)に対して融資額を決めます。P50とP90の差が大きいほど、許容できるDSCRの範囲で組める融資額は小さくなります。
FIP、とりわけゼロプレミアムに近い条件は、この差を広げます。固定価格のFIT収益はレンダーが安心して評価できる「ほぼ一本の線」です。一方、市場収益は「分布」であり、20年にわたる卸価格の不確実性のなかで、その幅は広くなります。結果として、融資可能額とDSCRには下押し圧力がかかります。DeepWindのバンカビリティ区分でいえば、強(DSCR ≥1.35x)からボーダーライン(1.20〜1.35x)、あるいは事業が止まる困難(<1.20x)の領域へと近づくということです。
ゼロプレミアムのFIP入札は、ファイナンスの観点では「政策のラベルを貼ったマーチャント案件」です。レンダーは融資にあたって、返済期間全体にわたる卸価格シナリオをモデル化し、保守的な販売価格を前提に置き、その分P50〜P90の幅を広げます。これらはすべて、組成可能な融資額を縮小させ、必要なエクイティ比率を引き上げます。日本の洋上風力でFID(最終投資決定)が滞っている背景はここにあります。制度フレームワークが存在しないのではなく、それが生む収益が、案件に必要な規模で融資するには不安定すぎるのです。長期固定の容量収入を付与する長期脱炭素電源オークション(LTDA)が、FIPを補完するよりバンカブルな選択肢として注目されるのも同じ理由です。
この構図は仮説ではありません。ラウンド1の落札コンソーシアムが大規模な着床式3サイトから撤退した一件も、その核心は、公募時のコスト・価格前提とその後の現実との乖離にありました。FIPの市場露出は、この収益とコストの板挟みを和らげるどころか、むしろ際立たせたのです。
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コストの層:発電側課金と買取期間後の負担
FIT/FIPの選択そのものに加えて、収益の全体像を変える政策の動きが2つあります。いずれも方向は同じで、発電事業者がシステムのコストをより多く負担する流れです。
第1に、発電側課金(系統連系受電サービス料金)が2024年4月に導入されました。これは、従来は小売側が負担していた送配電費用の一部を発電側に移す制度で、負担割合はおおむね発電10%/小売90%、系統側への逆潮が10kW未満の小規模電源は当分の間対象外です。既認定のFIT/FIP電源も、調達期間が終了した後に課金対象となります。つまり支援期間を越えて続く「ロングテールのコスト」として、収益モデルに織り込む必要があります。
第2に、法令遵守の運用が厳格化しました。FIT/FIP認定を受けた事業のうち、農地法や森林法などに違反した案件については、資源エネルギー庁が交付金の一時停止措置を実施しています(2024年)。政策の重心は、導入量の拡大そのものを評価する段階から、法令遵守と地域との共生を支援の条件とする段階へと移りつつあります。
FITからFIPへの移行は、日本の再エネ収益を「保証」から「市場での賭け」へと変えました。そして洋上風力は、その賭けが最も融資しにくい領域です。
FIPは長期的には正しい設計です。成熟した再エネ部門は市場で電気を売り、価格シグナルに応答すべきだからです。問題はタイミングにあります。日本は、最も資本集約的で商業的実績の浅い洋上風力に対して、それを支える十分な市場の厚みと安定したコスト基盤が整う前に、ほぼ全面的な市場露出を求めました。ラウンド3の一律ゼロプレミアム入札は、自信の表れではありません。入札制度が開発者にリスクの引き受けを強い、そのリスクを金融市場が規模を伴って引き受けることを拒んだ――その構図の表れです。
構造的な解は、FIPを捨てることではなく、バンカブルな下限(フロア)と組み合わせることです。長期脱炭素電源オークションはその方向を指し示しており、価格フロアを含む2026年6月の公募制度見直しは、純粋な市場露出がこの資産クラスには時期尚早だったことを認めるものでもあります。収益フレームワークは、当初それが満たせなかったバンカビリティテストを軸に、いま再設計されつつあるのです。
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