制度・政策公開 2026年1月26日更新 2026年11月7日

長期脱炭素電源オークション(LTDA)とは:仕組み、FIT/FIPとの違い、洋上風力の参加条件

長期脱炭素電源オークション(LTDA)は、脱炭素電源の固定費に見合う容量収入を、20年以上にわたって支払う制度です。洋上風力で参加できるのは第2・第3ラウンドのゼロプレミアム案件6件だけで、今回限りの措置とされています。第4回入札は2027年1月の予定で、該当する事業者と金融機関は、上限価格の手前でどこまで採算が取れるかを判断することになります。

制度の設計→実際の建設→融資の判断
この記事の要点
1. 発電量に左右されない収入が、融資の前提を変えます
FIT・FIPの収入は発電量(kWh)に連動します。LTDAの容量収入は設備容量(kW)に対して支払われるため、風況が悪い年でも収入の土台が残ります。代わりに、市場で得た利益の約9割は還付します。
2. 洋上風力の入口は6案件・今回限りで、第4ラウンド以降には開かれていません
対象は供給価格を0円/kWhに変更した第2・第3ラウンドの案件で、期待容量で合計70万kW程度です。第4回の洋上風力の募集上限は50万kWなので、全案件が応札すれば一部は落札できません。
3. 受け取りたい額を応札価格に直すと、上限までの距離が見えます
村上・胎内がある東北エリアの調整係数は26.9%です。設置1kWあたり10万円を受け取るには約37万円で応札する必要があり、上限408,857円の約91%にあたります。実際の落札価格は競争で決まります。

👉 背景を読む:洋上風力の制度フレームワーク

1. LTDAの骨格:設備容量(kW)に対して長期の収入を支払う

LTDAは、脱炭素電源への大型投資を促すために導入された制度です。数百億〜数千億円の初期投資を、電力市場の価格変動に左右されにくい収入で回収できるようにします。

最大の特徴は、設備容量(kW)に対して支払う点にあります。落札で決まる単価(円/kW/年)をもとに、原則20年以上、容量収入が支払われます。第4回からは、適用期間が「20年以上40年以下」に改められました。

資源エネルギー庁はこの仕組みを、固定費の水準に見合う容量収入を得られる制度と説明しています。金融機関が見るのは、もうかるかどうかより、返済が滞らないかどうかです。長期の収入が見通せることに、この制度の価値があります。

2. FIT・FIPとの違い:収入の基準がkWhからkWに移る

制度 収入の基準 市場価格の影響 制度の目的
FIT kWh(固定の買取価格) 受けない 再エネ導入の初期拡大
FIP kWh(市場価格+プレミアム) 一部受ける 再エネの市場統合
LTDA kW(設備容量) 受けるが、利益の約9割を還付 脱炭素電源への長期投資

FIT(固定価格買取制度)は、発電量に固定価格を保証します。FIP(市場価格にプレミアムを上乗せする制度)は、一定の市場リスクを事業者が負います。LTDAは市場での販売を前提にしたうえで、固定費の回収を容量収入に切り分けます。

洋上風力の公募は、第1ラウンドがFIT、第2ラウンド以降がFIPです。海洋再エネ整備法(洋上風力のために海域を使う手続きを定めた法律。2026年4月に「再エネ海域利用法」から改称)の公募案件を含むFIT・FIP案件は、固定費の二重回収を防ぐため、原則としてLTDAに参加できません。

👉 日本の洋上風力制度は何が変わったのか(公募制度と事業環境整備)

3. 他市場収益の約9割を還付:上振れを手放して固定費を確保する

落札した事業者は、市場で得た利益(他市場収益)の約9割を、電力広域的運営推進機関(OCCTO。全国の電力の需給を調整する機関)に還付します。還付された分は小売電気事業者などに戻されます。

他市場収益は、売上そのものより狭い概念です。市場からの収入から、応札価格に入れていない可変費を引いた額を指します。収入には次のものが入ります。

  • 電力量の販売収入(kWh収入)
  • 調整力の市場の収入(ΔkW収入)
  • 非化石価値の販売収入
  • 応札価格に算入した設備などを使って得たその他の収入

市場価格が高い年でも、事業者の手元に残る利益は約1割です。その代わり、市場価格が低い年でも容量収入の土台が残ります。マイナスの年の分は、翌年度以降の他市場収益から差し引けます。

4. 第3回の結果は洋上風力ゼロ、第4回から6案件に例外

OCCTOは2026年5月13日、第3回(応札年度2025年度)の結果を公表しました。脱炭素電源の約定は426.1万kW(募集500万kW)で、LNG専焼火力を含む全国の落札容量は729.9万kWでした。

電源の区分(脱炭素電源) 約定容量
リチウムイオン蓄電池・揚水(新設を除く) 81.9万kW
リチウムイオン以外の蓄電池・揚水(新設)・LDES 88.6万kW
脱炭素火力(水素・アンモニア、既設火力の改修) 51.7万kW
既設原子力の安全対策投資 55.8万kW
その他脱炭素電源(原子力の新設・リプレース等) 148.2万kW
脱炭素電源 合計 426.1万kW(募集500万kW)

LDESは長時間エネルギー貯蔵を指します。脱炭素火力は水素・アンモニアを使う火力(専焼・混焼)と、既設火力の改修(CCS付きを含む)を指し、バイオマスは含みません。発電方式別では、風力を含む「その他・一般水力・太陽光・風力等」の落札はゼロでした(出典:OCCTO 2026年5月13日公表資料。第73回 容量市場の在り方等に関する検討会 資料3〔2026年5月27日〕に収録)。

洋上風力の公募案件は、そもそも参加できませんでした。この結果から、上限価格が適切だったかどうかは判断できません。

ゼロプレミアム案件の例外:2026年8月31日の資料で確定

資源エネルギー庁は2026年8月31日の資料で、第2・第3ラウンドの案件のうちゼロプレミアム案件に限り、第4回入札以降の参加を認めると明記しました。OCCTOの募集要綱(2026年9月2日)にも同じ扱いが入っています。

ゼロプレミアム案件とは、プレミアムが生じないよう、公募占用計画の供給価格を0円/kWhに変更した案件です。参加には、バランシングコスト(発電計画と実績のずれを調整する費用)に相当するFIP交付金を、全支援期間にわたって放棄する必要があります。これで固定費の二重回収は生じないと整理されました。

参加の可能性があるのは6案件で、調整係数を考慮した期待容量で合計70万kW程度です。一方、第4回の洋上風力の募集上限は50万kWです。資源エネルギー庁は、洋上風力の上限価格が全電源共通の閾値20万円/kW/年より高いことを挙げ、需要家の負担に配慮したと説明しています。

第2・第3ラウンドの供給価格は、長崎県西海市江島沖の22.18円/kWhを除いて3円/kWhです。DeepWindの分析では、多くの案件で0円への変更で手放す金額は大きくありません。そのため、長期の容量収入を得られる意味は相対的に大きくなるとみられます。

この措置は今回限りです。資料は、黎明期の第2・第3ラウンド事業だけに適用し、次回以降の公募では参加を想定しないとしています。第4ラウンド以降を検討する事業者にとって、この経路は選択肢に入りません。

第4回の関連する変更点

  • 適用期間: 「20年以上」が「20年以上40年以下」に変わります。一般水力、揚水(新設)、LDES、原子力、LNG専焼火力は上限が30年に短縮されますが、洋上風力は対象外です。
  • 廃棄等費用の積立て: 風力に求められますが、海洋再エネ整備法の公募案件は対象外です。

5. 上限価格は「数えられるkW」あたりの表示:第3回は3.1万〜6.2万円、第4回は11.0万円

第3回の洋上風力の上限価格は、180,655〜200,000円/kW/年でした。この数字は、そのまま受け取れる金額を示すものとは言えません。

風力は、需要のピーク時に確実に出力できるとは限りません。そこで容量市場では、設備容量の一定割合だけを供給力として数えます。この割合が調整係数で、第3回の風力はエリアごとに15.5〜34.3%でした。上限価格はこの係数で割って表示され、受け取る容量収入は落札価格×設備容量×調整係数で計算されます。

設置1kWあたりに直すと、第3回の上限は次の水準です。

  • 九州(係数15.5%): 約31,000円/kW/年
  • 東北(係数28.0%): 約56,000円/kW/年
  • 四国(係数34.3%): 約62,000円/kW/年

後で見る第4回の水準(設置1kWあたり約11.0万円/年)と比べると、第3回の上限は3割から6割弱でした。

「200,000円」は、洋上風力のために算定された数字とは言えません。全電源共通の閾値が20万円で、9エリア中8エリアがそこで頭打ちになっていました。四国だけ180,655円なのは、係数が高く計算値が閾値を下回ったためです。

第4回の345,220〜701,172円の中身

第4回の洋上風力の上限価格は、エリアごとに345,220〜701,172円/kW/年です。算定式は次のとおりで、設置1kWあたりに直すと全エリアが約11.0万円/年にそろいます。

  • 31.9円/kWh × 8,760時間 × 設備利用率39.3% ÷ 調整係数
  • = 11.0万円/kW/年 ÷ 調整係数

第3回との違いは、掛ける単価です。第3回は第3ラウンド公募の上限18円/kWhを使いました。第4回は、発電コスト検証の30.9円/kWh(2023年)から予算関連政策経費1.3円を引き、2025年まで物価補正した31.9円/kWhを使います。

資料は理由を二つ挙げています。18円のままでは応札が見込まれない懸念があること。そして洋上風力促進ワーキンググループが2026年7月、30円/kWh程度までを優先的に案件形成を進める目安としたことです。洋上風力は20万円の閾値の対象からも外れました。

エリア 第3回(設置1kWあたり) 第4回(設置1kWあたり) 倍率
九州 約3.1万円 約11.0万円 約3.5倍
東北 約5.6万円 約11.0万円 約2.0倍
四国 約6.2万円 約11.0万円 約1.8倍

倍率はDeepWindの計算です。上限は入札できる最大値で、実際の価格は競争で決まります。第4回で応札が出るかどうかは、資材費と工事費の上振れをどこまで織り込めるかにも左右されます。

6. 設備利用率の要件:洋上風力は39.3%から25.2%へ

風力などの変動電源には、最低限達成すべき年間設備利用率が要件として課されます。第3回の水準は洋上風力で39.3%でしたが、第4回では25.2%に下がりました。過去10年の調達価格等算定委員会で示された年間平均設備利用率の最低値です(出典:資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークションの第4回募集に向けて」2026年8月)。

資料によれば、この要件の目的は、立地条件が悪く設備利用率が著しく低い案件を除くことです。発電事業者からは、平均的な水準を少し下回っただけでペナルティが課されるのは厳しすぎるとの意見が出ていました。

要件は緩和されましたが、未達の場合のペナルティは残ります。DeepWindの分析では、風車の長期停止が続いた場合の影響を、ファイナンス計画の感度分析で確認しておく必要があります。

7. 村上・胎内(690MW)で見る:受け取りたい額と上限価格の距離

第2ラウンドの新潟県村上市・胎内市沖(三井物産・RWE・大阪ガス)で計算します。供給価格3円/kWhで選定された案件で、ゼロプレミアム化してLTDAに参加する道が検討されうる対象の一つです。選定時の計画はGEの18MW機38基(684MW)でしたが、2026年3月に公告された準備書では15MW機46基(690MW)に変わっています。

690MWの場合、設置1kWあたり1万円の容量収入は年69億円にあたります。これを応札価格に直すには、調整係数で割ります。村上・胎内は東北エリアで、第4回の調整係数は26.9%、上限価格は408,857円/kW/年です。

受け取る額(設置1kWあたり・年) 年間の容量収入(690MW) 必要な応札価格(/kW/年) 上限に対する位置
8万円 約552億円 約29.7万円 約73%
9万円 約621億円 約33.5万円 約82%
10万円 約690億円 約37.2万円 約91%
約11.0万円 約759億円 408,857円 100%(上限)

受け取りたい額が上がるほど、応札価格は上限に近づきます。上限の手前でどれだけ余裕を残せるかが、競争に勝てるかどうかを左右します。

どの水準で採算が合うかは、建設費、金利、風況の前提によって変わります。前提を変えた試算はDeepWind Simulatorで確認できます。

Bankability Note

金融機関は、DSCR(返済原資が返済額の何倍あるかを示す、融資判断の指標)で返済の余裕を見ます。容量収入は発電量に左右されないため、風況が下振れしたときの変動は小さくなります。一方、落札価格が下がると、その分だけ余裕も減ります。上限に近い落札を前提にした計画は、価格を下げた場合の感度を確かめる必要があります。上限と比べるときは、単位をそろえてから比べてください。

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8. 事業者とオフテイカーへの影響:安定と引き換えに上振れが小さくなる

観点 利点 制約
収入 容量収入で固定費を回収しやすくなる 市場で得た利益の約9割を還付する
ファイナンス 収入の見通しが立ち、融資条件を検討しやすい 設備利用率の要件を満たせないとペナルティがある
対象 第2・第3ラウンドのゼロプレミアム案件に長期収入の道が開く 第4ラウンド以降の公募は参加を想定しない

DeepWindの分析では、オフテイカー(電力の買い手)にとって、固定費の多くを容量収入で賄う発電事業者は、長期契約の相手として見通しを立てやすいとみられます。一方、次の章のとおり、価格を下げる余地は小さくなります。

9. コーポレートPPAとの関係:市場より安く売れない規律

コーポレートPPA(需要家との長期の電力購入契約)を結ぶ場合、相対契約の規律がかかります。安く売って還付を逃れることを防ぐためです。資源エネルギー庁のガイドライン案(2026年改定)では、次のどちらかを満たす必要があります。

  • 無差別規律: 社内外を問わず、取引条件を合理的に判断して無差別に販売して決まった価格
  • 市場価格規律: 市場価格の水準に比べて不当に低くない水準以上の価格

満たさない場合、他市場収益はスポット市場などの平均価格をもとに計算されます。市場平均より割り引いた価格が認められるのは、手数料相当など限られた場合です。

例外もあります。市場価格規律を満たす価格の外で、LTDAで回収できない固定費や可変費を小売電気事業者などが負担することは問題なく、その分は還付の計算に入らないと整理されています。

DeepWindの読みでは、市場より高い価格でPPAを結んでも、その収入は他市場収益に入り、約9割が還付されるとみられます。LTDA案件のPPAは、高い収益を狙う手段というより、長期の販売先を確保する手段になります。

👉 コーポレートPPAとは:導入の4つの方式と選び方

DeepWind View

LTDAは補助金ではなく、金融機関が判断できる収入の形をつくる仕組みです。

容量収入が長期に決まると、発電量と市場価格に左右される部分が小さくなります。第2・第3ラウンドの案件にとって、この収入は融資の目安に届くための現実的な手段になりえます。ただし、必要な価格で落札できることが前提です。募集上限が候補の容量を下回るため、全案件が応札すれば案件同士の競争も起きます。上限いっぱいで落札できるとは限らず、返済の余裕は応札価格に大きく左右されます。

入口は6案件・今回限りです。第4ラウンド以降の案件は、この収入なしで資金を集めることになります。むしろ注目すべきなのは、上限価格の基準が公募の上限から発電コストの検証結果へ移ったことです。同じ考え方が公募の上限価格の議論に及ぶかどうかは、2027年1月の入札の後も見ていく論点です。

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