浮体式洋上風力の低コスト化に挑む垂直軸「浮遊軸型風車(FAWT)」― 壱岐の海上実証が示すもの

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作成日:2025年7月29日|更新日:2026年7月10日

テクノロジー&イノベーション

2026年7月、電源開発(J-Power)・東京電力ホールディングス・中部電力・川崎汽船(K-Line)・住友重機械工業・アルバトロス・テクノロジーの6社は、長崎県壱岐市の湾内に20kWの風車を設置し、1年間の海上実証を始めました。出力そのものは小さく、注目すべきは構造です。これは「浮遊軸型風車(Floating Axis Wind Turbine、FAWT/ファウト)」と呼ばれる垂直軸型の風車で、狙いは一貫してコストにあります。従来の浮体式は同じ形をより大きくしてコストを下げようとしますが、FAWTは風車の構造そのものを作り替えることで、浮体式のコストの土台から見直そうとします。それは日本のコスト問題への最も直接的な挑戦であると同時に、現時点では最も不確実性の残る挑戦でもあります。

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Policy Design

Execution Reality

Bankability Test
Key Takeaways
1. FAWTは技術のお披露目ではなく、コストへの賭けです
重心が高い従来型の浮体は、台風に耐えるために大きく高価になり、設置には大型クレーン船と広い基地港湾が要ります。FAWTは重心を下げ、傾斜を許容し、浮体を小さくできます。DeepWindが日本の制約とみているコスト要因を、そのまま狙っています。
2. 計算上は最も安い構造が、今は最も資金を集めにくい
セミサブ(半潜水式浮体)は高価ですが、実績が積み上がって不確実性が小さく、金融機関が評価できます。新方式の垂直軸・回転浮体には商用実績も確立した認証基準も実機の参照事例もありません。20kWの壱岐機が示すのは技術の成立性であって、事業としての採算ではありません。
3. 本当に見るべきは参画企業の顔ぶれ
大手電力3社に、海運会社・重工業の製造者・技術の生みの親が加わる構成は、風車メーカーの集まりではなく、据え付けと供給網(サプライチェーン)を解くための連合です。既存の担い手が、日本の浮体式コスト問題をどれだけ手ごわいとみているかがうかがえます。

従来型の浮体式が逃れられないコストの論理

日本が浮体式を必要とするのは、遠浅の海がほとんどないからです。海岸から数kmで、着床式の基礎が経済的に成り立たない水深に達します。日本の強い洋上風を使うには、風車を係留した浮体の上に載せるしかありません。問題は、その浮体が何を支えるかです。従来の風車は水平軸型で、発電機を含む重量物がタワーの高さおよそ150mの上に載る、重心の高い機械です。この重い頭を台風級の風と波の中で立て続けるには、浮体と係留を大きく、重く、高価にせざるを得ません。

この一点が、コスト全体に波及します。浮体が大きくなれば鋼材が増えます。背の高い機械を洋上で組み立てるには大型クレーン船が要りますが、これは今の日本に配備されていない種類の船です。こうした構造物を仮置き・組立する基地港湾には、高い地耐力と広い占用面積が求められます。日本の浮体式のCAPEX(設備投資額)はJWPAの2025年時点の数字でおよそ90万円/kW、世界のカテゴリ基準の約2.4倍にあり、その大きな理由がこれらの物理的な制約です。同じ構造をより大きく作れば固定費は薄まりますが、コストの根っこは消えません。

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FAWTはどこでコストの構造を変えるのか

壱岐で海上実証を始めた20kWのFAWT小型実験機(ロータ直径9.3m)と回転円筒浮体
図1:壱岐で海上実証を始めたFAWT小型実験機(20kW/ロータ直径9.3m)
3枚の直線翼からなる垂直軸ロータを、回転する円筒浮体が支えます。風車と浮体は一緒に回ります。
Source: FAWTコンソーシアム(電源開発/東京電力HD/中部電力/川崎汽船/住友重機械工業/アルバトロス・テクノロジー), 2026

FAWT(ファウト)の出発点は、風力業界ではなく船舶海洋工学の発想です。浮体構造物は、重心が低く、無理に立てるより傾斜や動揺を許した方が安くなる――この前提に立ちます。3枚の直線翼が垂直の軸まわりに回る垂直軸ロータを、回転する円筒浮体が支え、ロータと浮体は一緒に回ります。垂直軸型は発電機などの重量物を海面近くの低い位置に置けるため、構造は下重心で、釣りのウキや起き上がり小法師のように自ら起き上がります。コンソーシアムによれば、この設計はあえて浮体が傾くことを許し、定格出力時に約20度までの傾斜を許容します。垂直軸ロータは傾いても性能が落ちにくく、その傾斜を許すことで浮体をさらに小さくできるからです。

期待されるコスト面の効果は、一貫した論理でつながっています。以下は開発側の設計目標であり、これまでの数値解析・水槽試験・陸上試験で確認された範囲のものです。実際の商用運転で実証されたものではありません。

従来型浮体のコスト要因 FAWTの設計上の答え(コンソーシアム)
重心の高い機械を立て続けるための大きな浮体・係留 低重心+傾斜許容で浮体を小型化し、構造コストを下げる
タワー上部に載る大型の軸受と動力伝達機構 回転する円筒浮体が風車の重さと、風で倒そうとする力を受け止める。大型の軸受が不要
海面から100m以上の高所にある機器の高い保守費 発電機が海面近くにあり、保守・運転維持費を下げる
一体成形の長大ブレードや大型発電機の、輸入に頼る長いサプライチェーン 同じ断面のブレードを長さ方向に分割し、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を連続的に引き抜いて成形する方法で作る。例えば1MW発電機を15基束ねて15MW機を構成し、国内での量産に向ける
設置に要する大型クレーン船と広い基地港湾 大型クレーンを使わずに組立・設置し、設置費・工期・港湾占用面積を削減
出典:FAWTコンソーシアム 発表資料(2024年NEDO採択/2026年海上実証リリース)、DeepWind分析。数値は設計目標であり、商用性能の実証値ではありません。

垂直軸型が退けられがちなのは効率の問題ですが、コンソーシアムはここに正面から答えます。小型の垂直軸風車の性能が低いのは、翼のまわりの空気の流れがはがれて失速しやすいためです。大型になると翼まわりの流れが安定して失速しにくくなり、大型の垂直軸風車は同じ規模の水平軸機と同等の効率に達しうる、というのが同社の主張です。この「同等効率」がコスト論全体の要であり、そしてこれこそ、カタログではなく実証プログラムが立証しなければならない点です。

2023→2026年の歩みと、誰が支えているか

メガワット級の大型浮遊軸型風車(FAWT)のイメージ図
図2:メガワット級FAWTのイメージ ― 小型機の次のステップ
コンソーシアムは、壱岐の小型機に続く大型実証機として5MW級を想定しています(同社イメージ図)。
Source: FAWTコンソーシアム, 2024(NEDO次世代技術開発事業)

FAWTは突然の発表ではなく、2つの取り組みを並行して進めてきました。2023年5月に結ばれた自己負担の共同研究が小型実験機の製作・海上実験を担い、2024年9月にNEDOの次世代浮体式技術開発事業(「大型浮体式垂直軸型風車の実現性検証」)に採択された枠組みが、より難しいメガワット級の商用機を基本設計承認(AiP)に向けて設計する役割を担います。コンソーシアムのイメージ図では、いま海に浮かぶ小型機の次に5MW級の大型実証機が置かれています。

プロジェクト FAWT 小型実験機の海上実証
場所 長崎県壱岐市の湾内
規模 20kW(ロータ直径9.3m/浮体直径1.7m)
状況 2026年7月2日に海上実証開始。期間は約1年の予定。終了後は撤去して各部材を分析
方式・係留 垂直軸ロータ(3枚の直線翼)+回転円筒浮体。海底アンカーへの3本係留
コンソーシアム(2026) 電源開発、東京電力HD、中部電力、川崎汽船、住友重機械工業、アルバトロス・テクノロジー
実行面の主要論点 新方式ゆえ、確立した安全・認証基準がまだ存在しない。認証機関と協力して策定する必要がある
商用面の主要論点 MW級での効率同等性と事業採算性は未実証。まだ商用化前の段階

装置だけでなく、顔ぶれを読むことが大切です。日本を代表する電力会社3社(電源開発・東京電力HD・中部電力)に、海上作業を担う川崎汽船、製造・生産技術を担う住友重機械工業、コンセプトの生みの親であるアルバトロス・テクノロジーが並び、大学や材料研究機関が動揺解析・落雷対策・ライフサイクル評価・CFRP成形を支えます。NEDOの事業では役割が分担され、電源開発が認証の手続きと供給網の分析、東京電力HDが大型機の数値解析手法、川崎汽船が据え付けと保守・運転維持のコスト低減、住友重機械マリンエンジニアリングが大型機の設計技術と生産技術を担当します。これは、セミサブを大型化しても自動的には解けない部分――据え付けと国産の供給網――を解こうとする連合の構成です。

20kWの壱岐実証で「わかること」と「わからないこと」

海上設置に先立って実施されたFAWT小型実験機の陸上試験
図3:海上設置に先立つFAWT小型実験機の陸上試験
数値解析・水槽試験・陸上試験で得た知見を踏まえ、実海域で技術の成立性を検証します。
Source: FAWTコンソーシアム, 2026

9.3mのロータを1年間海に浮かべる実証は、現実的で必要な一歩です。実際の波・流れ・風の中で解析手法と設計手法の妥当性を確かめ、部材の状態データを大型化の設計に戻せます。一方で、この実証は事業上の問いには答えられません。両者はきちんと分けて考える必要があります。

未解決の点は3つあります。第一に、大型の垂直軸ロータと水平軸機の効率が同等かどうかは、同社の数値解析に支えられた主張であって、商用規模で実証されたものではありません。20kW機は縮小モデルであり、MW級の発電量を証明するものではありません。第二に、新しい方式のため確立した認証基準がなく、コンソーシアムは認証機関と共同で基準を作る方針ですが、これ自体が数年がかりの道のりです。第三に、大型実証機が成功しても、日本で前例のない設計が必ず直面する「融資のつきにくさ」が残ります。

Bankability Note

FAWTの逆説は、理論上のコストが最も低い構造が、今は最も資金を付けにくいという点にあります。金融機関は浮体式を「証拠」で審査します。実機の参照事例、揺れの実測データ、P90発電量(下振れを見込んだ発電量)を見積もれる認証の土台があって初めて、DSCR(元利返済カバー率)を1.35倍以上に保てるかを判断できます。新方式の垂直軸・回転浮体にはこれらがまだ揃っておらず、工学的なコストが低くても、リスクを踏まえた資金調達のコストは高くつきます。セミサブは対極にあり、建造費は高くても、実績によって不確実性が小さく、資金が付きます。FAWTが融資可能になるのは、MW級実証機・認証基準・運転データが揃ったとき――早くても2030年代前半以降とみるのが妥当です。

もう一つ、コストだけでなく資金の枠組みそのものを組み替える発想がこの構想には含まれており、触れておく価値があります。浮体式風車は法的には船舶であるため、移設・売却・リースができ、船舶金融や中古市場、経済性の高い新機種への途中入替の道が開く、というものです。これは着床式の「造って廃棄する」考え方とは根本的に異なる、浮体式ならではのリスクの分担のしかたです。ただし現時点では、これは市場として動いているわけではなく、まだ構想の段階です。

DEEPWIND VIEW

FAWTは、日本が浮体式のコストを「大型化」ではなく「構造の作り替え」で下げられるかを問う、最も明快なテストです。

日本の浮体式のコスト問題は、主に風車そのものではありません。浮体、設置船、港湾、そして輸入に頼るサプライチェーン――DeepWindが制約とみている物理的な要因です。FAWTが分析上重要なのは、まさにそこを狙っている点です。小さな浮体、大型クレーン不要の設置、狭い基地港湾、そして国産で量産するCFRPのサプライチェーン。効率同等性の主張が大型で成り立つなら、日本固有のコストの土台に対する、これまでで最も筋の通った攻め方だといえます。

一方で、警戒も同じだけ必要です。セミサブが日本の2030年に向けた開発計画の中心を占めるのは安いからではなく、資金が付くからであり、既存の担い手はそこに並行して投資しています。FAWTは、今日の融資可能性を将来の低コストと引き換えにする、期間の長い・振れ幅の大きい賭けです。注視すべきは20kWの実証そのものではなく、NEDOのメガワット級設計が基本設計承認に到達し、認証基準を引き寄せられるかどうかです。それまでは、FAWTを「検証中の有力なコスト仮説」として扱うのが妥当で、すでに決着した「ゲームチェンジャー」と見なすべきではありません。

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