浮体式洋上風力公開 2025年6月30日更新 2026年11月7日

浮体式洋上風力の4タイプ比較:セミサブ型・スパー型・TLP型・バージ型と日本の選択

浮体式洋上風力の浮体は、セミサブ型、スパー型、TLP型、バージ型の4つに大きく分かれます。世界の採用・計画の約8割はセミサブ型ですが、日本で唯一の商用案件である五島市沖はスパー型です。分かれ目は、風車を載せる場所の水深と港の広さです。造船や港湾への投資、融資の前提は、この選択で変わります。

制度の設計→実際の建設→融資の判断
この記事の要点
1. 世界の約8割はセミサブ型ですが、NEDOは今後も主流かは断定しづらいとしています
世界で最も深い海で動いているHywind Tampenはスパー型で、日本の五島市沖もスパー型です。日本の次の実証2件はセミサブ型を選びました。
2. 形式を分けるのは、風車を載せる場所の水深です
セミサブ型は水深15m程度の港で風車を載せられるとされます。スパー型は深く静かな海が要り、15MW機では喫水(水面下の深さ)が100mを超えます。日本にはそうした海域が少ないとする見方があります。
3. セミサブ型は施工が楽な代わりに、浮体と港に費用がかかります
NEDOの評価式では、セミサブ型のCAPEX(初期投資額)はスパー型の1.2倍です。国の試算では港の広さも19〜32ha必要で、多くの基地港湾の8haを超えます。

👉 背景を読む:浮体式洋上風力の完全ガイド

1. 4タイプの違い:安定の取り方と、風車を載せる場所

浮体は、波と風で揺れても風車が動き続けられるように設計します。揺れを抑える方法と、風車を載せる場所が形式ごとに違います。

形式(TRL6以上の件数) 安定の取り方 風車を載せる場所 主な事例
セミサブ型(8件) 複数の柱を立て、水面の広がりで安定させる 港の岸壁。そのまま曳航する WindFloat Atlantic、Kincardine。日本は福島の実証(撤去済み)
スパー型(4件) 細長い円筒の下に重りを入れ、重心を下げる 深く静かな海域。立て起こしてから載せる Hywind Scotland、Hywind Tampen、五島市沖
TLP型(1件) 海底から張った索で、浮体を引き下げて固定する 案件による。海底で索の張力を管理する工事が要る Provence Grand Large。日本は大林組が開発中
バージ型(2件) 平たく幅の広い船形で安定させる 港の岸壁。そのまま曳航する Floatgen、ひびき(NEDOの実証)

件数は、英国の評価報告書(OpenWater Renewables、2026年6月)で、TRL6以上に達した15件の内訳です。TRLは技術の成熟度を示す尺度で、TRL6は出力1MW以上の機械が洋上で動いている段階を指します。事例は国土交通省の資料などによります。

セミサブ型:港で組み上げて、丸ごと運ぶ

浮体式洋上風力 セミサブ型プラットフォーム

複数の柱と、水中の横材で構成します。喫水が浅いので、港の岸壁で風車を載せ、完成した状態で曳航できます。その分、構造は大きく複雑になり、鋼材の量も増えます。

スパー型:五島市沖が国内で使っている形式

浮体式洋上風力 スパー型プラットフォーム

細長い円筒の下部に重りを入れて、重心を低く保ちます。構造は単純ですが、深い喫水が必要です。横倒しの状態で運び、深く静かな海で立て起こして、そこで風車を載せます。

TLP型:占用する海域を小さくできる

浮体式洋上風力 TLP型プラットフォーム

張力をかけた索で海底とつなぎ、上下の揺れを小さく抑えます。係留索が広がらないので、占用する海域を抑えられます。一方、索の施工と管理には高い精度が必要です。

バージ型:造りやすいが、揺れへの対策が要る

浮体式洋上風力 バージ型プラットフォーム

平底で幅の広い形です。形が単純で、一般的な造船設備で造りやすい形式です。水面の広がりで安定させるため波の影響を受けやすく、揺れを抑える工夫が必要です。

2. セミサブ型が約8割を占める理由:水深15mの港で風車を載せられる

NEDOの2025年9月の資料は、技術的な成熟度が最も高いことを理由に、採用済み・予定の80%程度がセミサブ型だとしています。ただし、価格面などの短所があるため、今後も主流になるかは断定しづらいとも書いています。

日本で実際に選ばれた理由は、秋田県南部沖の実証事業を率いる丸紅洋上風力開発の資料が具体的に説明しています。風を見込める海域の多くは深く、日本では水深200〜1,000mに約1,000GWのポテンシャルがあるとの整理です。100〜200mは約400GW、50〜100mは約200GWです(風速7m/s以上を仮定)。

一方、風車を載せる場所は基本的に港の中で、水深は15m程度になります。同じ資料は、水深100m以深で風車を載せられる静かな海域は限られ、日本とアジアは欧州よりさらに少ないとしています。この二つの条件を満たす形式として、セミサブ型に力を入れるという判断です。これは事業者の見方で、国は形式を指定していません。

NEDOのグリーンイノベーション基金の実証2件は、いずれもセミサブ型です。

  • 秋田県南部沖: 水深約400m、12〜15MW級2基。2029年10月に実証運転を始める計画です。
  • 愛知県沖: 12〜15MW級1基。鋼とコンクリートを組み合わせたセミサブ型です。

国土交通省も港の検討で、水深200m、1GW、15MW機、鋼製セミサブ型を基本の条件に置きました。理由は世界的な導入の傾向で、他の形式は派生の条件として扱っています。

👉 浮体式洋上風力の実証事業フェーズ2

3. 日本唯一の商用案件はスパー型:五島市沖の16.8MWが示すこと

五島市沖は2026年1月5日に運転を始めたハイブリッドスパー型で、上部が鋼、下部がコンクリートです。2.1MW機8基で、喫水は76m、設置場所の水深は約100mです。

事業者の計画によると、工事は次の順に進みました。

  • 福江港の岸壁で浮体を横倒しのまま造ります。横倒しなら重さが分散し、地盤の強くない岸壁でも作業できます。
  • 鋼製部分は長崎県内の鉄工所や造船所が担当しました。
  • 静かな椛島北の海域まで運んで立て起こし、そこで風車を組み立てます。
  • 完成した風車を設置場所まで曳航し、あらかじめ張っておいた係留につなぎます。

地元の造船所と岸壁を活かせること、静かな海域が近くにあること。この2点が五島の形を支えています。一方、NEDOの報告は、15MW機ではスパー型の喫水が100mを超えるとしています。DeepWindの見方では、五島の方法をそのまま大型機に広げられるとは言えません。必要な水深の静かな海域を確保できるかが、次の条件になります。

👉 五島市沖浮体式洋上風力(16.8MW):2026年1月に運転開始

4. 費用と港:セミサブ型はCAPEX1.2倍、港は19〜32ha

施工のしやすさには、費用の裏側があります。NEDOが2024年にまとめた評価式では、基準のウインドファームのCAPEXはセミサブ型が68.8万円/kW、スパー型が57.0万円/kWで、セミサブ型が1.2倍です。2023年の為替(1ポンド174円)で換算したモデルの値で、入札価格との直接の比較には使えません。

港の負担も変わります。国土交通省の検討では、浮体式の基地港湾に必要な広さは、条件によって19〜32haと試算されています。いま指定されている基地港湾の拠点区域は、多くが8haです。国は複数の港で役割を分ける考え方も検討しています。

👉 浮体式の基地港湾は1港で完結しない:国交省が施工2年目標と曳航3日圏400kmを提示

英国の評価は、比べた範囲での差を約15%としています。コンクリート製バージ型を100とすると、コンクリート製セミサブ型が100、鋼製セミサブ型が105〜115です。これは北海の架空の案件を前提にした概算で、スパー型は比較に入っていません。日本の金額に当てはめることはできません。DeepWindの見方では、費用の差は条件で変わるため、値段だけで形式を決められる段階にはまだありません。

5. 成熟度:117件を追っても、TRL8に届いた形式はゼロ

OpenWater Renewablesが英国のTechnology Leadership Boardの委託でまとめた評価は、分野全体を同じ物差しで比べている点に価値があります。2026年2月時点で、同社のデータベースには浮体式117件と、深い海向けに着床式を作り変えたハイブリッド型6件が登録されています。

同社はTRL8と9を、出力100MW以上の商用ウインドファームを基準に定義しています。この定義では、TRL8に達したものはありません。最高はTRL7です。大半はTRL3か4で、TRL5が27件、TRL6以上が15件でした。

北海の架空の案件(水深100〜150m、15MW機、750MW)に向けて選んだ上位15件は、これとは別の15件です。そのうちTRL6かTRL7のものは3件だけでした。報告書は、最終投資判断の時点で少なくともTRL7に達した形式を選ぶよう勧めています。なお、これは同社の見解で、業界の公式な格付けとは異なります。

日本にとって重いのは次の点です。TRL6以上の15件のうち3件は、福島の実証研究で使われたJMUのアドバンスト・スパー、三井造船のコンパクト・セミサブ、三菱重工のV字型セミサブでした。いずれも撤去され、開発も終わっています。日本は世界の実証経験の一部を持っていますが、いま動いている設備としては残っていません。

Bankability Note

金融機関は、返済がいちばん苦しい年に返済原資が返済額の何倍あるか(DSCR)を確かめます。その前提になるのが発電量の見通しです。DeepWindの見方では、大型機の運転実績がない形式は、見通しの幅を広く取らざるをえません。五島の実績は2.1MW機のスパー型で、15MW級のセミサブ型の裏付けにはそのまま使えません。形式を検討するときは、どの機種の、どの海域のデータがあるかを確かめてください。

6. 次の候補:TLP型、コンクリート製、海上での組み立て

セミサブ型の短所を突く開発も、日本で進んでいます。NEDOが2026年8月に示した次世代技術の実証研究5件には、次のものが入っています。

  • TLP型: 大林組は2026年5月、鋼とコンクリートのハイブリッド構造のTLP型の支持構造物で、ClassNK(日本海事協会)の基本設計承認を受けました。同社は鋼製セミサブ型より浮体の建造費を25%下げられると試算しています。今後は1MW級の風車を載せた海上実証を目指します。
  • コンクリート製浮体: 大成建設などが15MW級を想定した製造の実証に取り組みます。
  • 洋上での風車の施工と修理: 東京電力リニューアブルパワーなどが、係留を切り離さずに作業する方法を検証します。

実海域での工事方法も別に動いています。国土交通省が2026年7月に選んだ7件は、浮体式の海上施工の研究です。形式の選択と同じくらい、作業する船と港の準備が問われることを示しています。

👉 浮体式洋上風力の海上施工:国交省が採択した技術開発7件

係留の費用については、別の記事で整理しています。

👉 浮体式洋上風力の係留コスト:荷重を半分にする装置は、どの費目に効くのか

DeepWind View

形式を選ぶことは、どの港とどの海を使い、誰に造らせるかを選ぶことです。

セミサブ型は、深い海と浅い港を両立しやすい形式です。ただし、大きな浮体と広い港を前提にします。スパー型は安く造れる可能性がありますが、深く静かな海を必要とします。TLP型は占用海域を抑えられますが、実績がこれからです。どれが優れているかは、海域と港の条件を置かないと決まりません。

日本は次の実証でセミサブ型を選びましたが、商用の実績はスパー型にあります。この二つをつなぐ運転データはまだありません。秋田の実証は2029年10月の開始予定です。それまでに案件の条件を固める場合は、選んだ形式に合う港を確保できるか、大型機の実績をどう説明するかに注意が必要です。国の港の検討が具体化すれば、形式ごとの費用の差も見えやすくなります。

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