日本の洋上風力公募ルールが改訂(2026年6月)― 価格フロア、事業実現性の同等配点、スケジュール柔軟化

作成日:2026年6月11日|更新日:2026年6月11日

要点

経済産業省と国土交通省は2026年6月5日、洋上風力発電の事業者選定を定める「一般海域における占用公募制度の運用指針」を改訂しました。秋田・千葉沖のラウンド1・3海域における事業撤退を受けた見直しで、改訂のポイントは4つです。すなわち、価格点に上限を設ける「想定供給価格幅」の導入、事業実現性の配点を価格と同等(各120点)まで引き上げる見直し、チェック項目方式による精緻な採点、そして迅速性の配点引き下げとスケジュールの柔軟性確保です。一方で「落札制限」や「撤退時のルール」など具体的な数値は今回の運用指針には含まれず、海域ごとの公募占用指針で定められる予定です。

日本は、ラウンド1の頓挫を受けて議論してきた公募制度の見直しを、今回ようやく正式なルールとして確定させました。今回の改訂は、新しい政策の方向性を打ち出したというよりも、合意済みの方向性を拘束力のある指針に書き込み、配点を確定させたものと言えます。日本市場への参入を検討する開発事業者・EPC・レンダーにとって重要なのは、改訂が「何を目指しているか」ではなく、入札が「どう採点されるようになったか」、そして新しい設計が「どの案件ならレンダー基準を満たせるか」という採算の見立てを変えるのか、という点です。

なぜ今、運用指針が改訂されたのか

引き金は明確でした。2025年8月、三菱商事を中心とするコンソーシアムがラウンド1の3海域(能代・三種・男鹿、由利本荘、銚子)すべてから撤退し、パイプラインからおよそ1,742MW、2030年目標の約17%が失われました。これを受けて、経済産業省・国土交通省の洋上風力合同会議が2025年9月から撤退要因の分析を進め、2026年1月22日から2月22日にかけてパブリックコメントを実施した上で、2026年6月5日に改訂版を公示しました。

制度の全体像を押さえる上で重要なのは、一般海域の洋上風力には2つのルールブックが並走している点です。1つは促進区域指定ガイドラインで、こちらも2026年に並行して改訂が進められています。ガイドライン本文に正式に追加される項目は、海洋環境等調査に関する記載と、風車と航路の離隔の確保の2点に絞られます。注目度の高い事業実現性に係る判断の高度化(いわゆる事業性スクリーニング)は、ガイドライン本文の改訂ではなく、既存ガイドラインの枠内での運用として実装される建付けです。もう1つが今回改訂された運用指針(2026年6月)であり、両者がそろったことで、ラウンド1後の制度リセットは、合同会議の結論から、ラウンド4と撤退海域の再公募を規律する実際の枠組みへと移行しました。

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改訂された4つのポイント

1. スコアリングの価格フロア ―「想定供給価格幅」の設定

各公募では、「想定供給価格幅」が新たに設定されます。これは、(a)事業完遂に必要と考えられる水準を前提に事業者が現実的な創意工夫を講じることを想定した価格と、(b)供給価格上限額との間の価格幅を指します。供給価格がこの幅の下限(上限額から想定供給価格幅を減じた額)以下であれば、価格点は一律で120点、すなわち満点となります。それより低く入札しても、得られる点数は増えません。なお、上限額における価格点の値と想定供給価格幅の幅は、各公募の実施時点の事業環境を踏まえて設定され、上限額を超える供給価格は不適合となります。

効果は単純です。価格を下げ続けることへの青天井のインセンティブがなくなります。価格競争は定められた幅の中で行われるようになり、ラウンド1で見られた11.99〜16.49円/kWhという、その後の事業環境と整合しなかった入札価格を生んだ力学に、直接働きかける設計です。

2. 事業実現性が価格と同等の配点に(120:120)

供給価格と事業実現性に関する要素の配点は、1:1、すなわち各120点となりました。事業実現性の内訳も見直され、事業の実施能力と地域に関する要素が80:40に配分されています。

改訂後の評価配点(経産省・国交省、2026年6月)
評価軸配点
供給価格(価格点)120
事業実現性に関する要素120
  事業の実施能力80
事業計画の迅速性10
事業計画の基盤面(実施体制・実績/資金・収支)20
事業計画の実行面(運転開始まで/開始以降)25
電力安定供給・サプライチェーン形成25
  地域との調整、地域経済等への波及効果40
関係行政機関の長等との調整能力10
周辺航路、漁業等との協調・共生10
地域経済波及効果10
国内経済波及効果10

これにより、価格だけで勝つことはできなくなります。価格の幅が狭まり、事業実現性が価格と同等まで引き上げられた結果、財務基盤の厚みやサプライチェーンの確保、施工の現実性といった事業実現性の評価が、入札価格と同じだけの重みを持つようになりました。

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3. チェック項目方式による精緻な事業実現性の採点

事業実現性は、大まかな段階評価ではなく、明示されたチェック項目に対して採点されるようになりました。各項目は、1:1の比率で「基礎的な基準」(記載があるか)と「高度な基準」(内容が詳細・具体的・確実か)に分けられます。各項目の得点は、次の式で算定されます。

得点 = 配点 ×(満たしたチェック項目数 ÷ 当該項目の全チェック項目数)

曖昧で概略的な提案は、仕組みのうえで低い点数になります。この方式は、見積りの目安ではなく、確保済みの作業船枠や締結済みのタームシートといった、具体的で裏付けのある計画を評価します。「事業完遂能力」という理念を、測定可能な結果へと落とし込む仕掛けです。

4. 迅速性の引き下げ(10点)とスケジュールの柔軟性の確保

事業計画の迅速性の配点は10点となり、最も短い建設期間を満点とする相対評価で採点されます。拙速な計画が高得点にならないよう、2つの歯止めが設けられています。第1に事業実現性のゲートです。基盤面と実行面の合計点が満点の5割未満(45点中22.5点未満)の場合、迅速性の評価点は0点になります。5割以上であれば、迅速性の点数に基盤面・実行面の評価点比率を乗じます。第2に、迅速性は適切な予備期間をスケジュールに織り込んだ上で測定され、事業実施期間は20年を超えて(例えば25年に)設定することも可能になりました。

これらを合わせた効果として、事業者は点数のために非現実的に速い工程を組む必要がなくなります。スケジュールの現実性が守られ、拙速よりも事業完遂が評価されるようになりました。ラウンド1の崩れにつながった工程面の圧力に、正面から応える設計です。

今回の改訂に「含まれない」もの ― 落札制限と撤退ルール

運用指針は枠組みを定めるものであり、見直し議論で注目された項目の一部は、あえて海域ごとの公募占用指針に委ねられています。特に次の2つは、一般のルールブックではなく、海域ごとに定められます。

  • 落札制限 ― 1事業者が落札できる容量の上限など。
  • 選定事業者が撤退した際のルール ― ペナルティや、撤退事業者が今後の応募者に海底地盤等の調査データを提供する義務など。

これらの具体的な数値を追いたい場合は、今回の6月改訂ではなく、各海域の公募占用指針が公示されるタイミングで確認する必要があります。

DeepWindの視点 ― 価格から事業完遂へ。ただし採算ギャップの解消ではない

今回の改訂は、価格主導の選定がラウンド1の頓挫に寄与したことを、これまでで最も明確に正式に認めたものです。国は、実際に建設でき、資金調達できる案件へと、公募の重心を構造的に移そうとしています。価格競争を狭め、事業実現性を同等まで引き上げ、迅速性よりも裏付けのある事業遂行を評価する設計です。

「政策は、案件の選び方を作り替えることはできても、案件を建てる経済性そのものを作り替えることはできません。ルールの改善は、採算の取れない入札を勝ちにくくします。しかし、難しい案件をバンカブルにするわけではありません。」

DeepWindのレンズ ―「政策設計 → 実行の現実 → バンカビリティの検証」― に照らせば、今回の改訂は選定リスク・プロセスリスクを下げる一方で、案件の経済性そのものには手を付けていません。再公募される海域は依然として、LTDA(長期脱炭素電源オークション)を利用できないFIP・プレミアムゼロの前提で動きます。収益は卸電力価格に依存し、WACC・為替・CAPEXのエクスポージャーは、採点ルールの及ばないところにあります。

価格フロアそのものにも、注視すべき設計上の緊張があります。価格幅は、案件が成立するだけの十分な高さを保ちつつ、国民負担を抑えるだけの十分な低さに収める必要があります。この調整は一般指針では行われず、各海域の想定供給価格幅で決まります。言い換えれば、実質的な意思決定は一段階下の、海域ごとの公募へと移ったということです。

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事業者・EPC・レンダーにとっての意味

実務上の変化は、価格の攻めから、裏付けのある事業遂行へという転換です。結果を動かすレバーは具体的になりました。確保済みのサプライチェーン枠、示せる財務基盤の厚み、予備期間を織り込んだ現実的な工程、そして具体的で確実な計画です。事業実現性のブロックが、狭まった価格幅よりも大きな差を生むようになったため、価格だけで勝負は決まりません。

レンダーにとっては、枠組みが事業実現性へと舵を切ったことで、選定基準がバンカビリティの検証に一歩近づきました。ただし、デット・サービス・カバレッジを左右する収益・費用のリスクそのものは変わっていません。落札した入札が資金調達可能かどうかは、依然として従来と同じ変数で決まります。ある供給価格が、現実的なWACC・為替の前提のもとでLCOE・プロジェクトIRR・最小DSCRにどう変換されるかを、撤退した3海域について具体的に確認するには、DeepWind Viability Simulatorがそのまま試算します。

よくある質問

2026年6月の運用指針改訂で何が変わったのですか?

経産省・国交省が「一般海域における占用公募制度の運用指針」を改訂し、4点を確定させました。低い入札の評価を一律120点で頭打ちにする「想定供給価格幅」の導入、事業実現性の配点の120点(価格と同等)への引き上げ、チェック項目方式による精緻な採点、そして迅速性の10点への引き下げとスケジュールの柔軟性確保です。

「想定供給価格幅」とは何ですか?

各公募ごとに設定される価格の幅で、事業完遂に必要と考えられる水準(現実的な創意工夫を前提)と供給価格上限額との間を指します。供給価格がこの幅の下限以下であれば価格点は満点の120点となり、それより低く入札しても加点はありません。幅の大きさと上限額での点数は、各公募の事業環境を踏まえて設定されます。

この改訂は撤退したラウンド1の海域にも適用されますか?

適用されます。能代・三種・男鹿、由利本荘、銚子の再公募は、今回の改訂後のルールで実施されます。落札制限や撤退ペナルティなどの海域固有の詳細は、各海域の公募占用指針で定められます。

落札制限や撤退ペナルティは今回の改訂に含まれますか?

含まれません。運用指針は枠組みを定めるもので、落札制限や撤退時のルールの具体的な内容は、海域ごとの公募占用指針で記載される予定です。


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出典:経済産業省・国土交通省「一般海域における占用公募制度の運用指針」(令和8年6月改訂)、経済産業省プレスリリース(2026年6月5日)。DeepWindは事実に基づく分析を提供し、入札に関する推奨は行いません。

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