作成日:2025年9月2日|更新日:2026年6月20日
COST & COMMERCIAL VIABILITY洋上風力プロジェクトの採算性を評価するうえで、CAPEX・OPEX・LCOE・IRRといったコスト関連指標は極めて重要です。しかし、日本の促進区域における具体的なコスト情報は公開資料が限られており、投資家や事業者にとって判断材料が不足しているのが現状です。
本記事では、長崎県五島市沖浮体式洋上風力(スパー型・16.8MW)を対象に、代表地点の立地条件(離岸距離・水深・港湾距離)からCAPEX・OPEX・LCOE・IRRを推定しました。推定にはNEDOコストモデルおよびNeoWinsデータを参照したDeepWind独自モデルを使用しています。
本稿はコスト構造の観点からの整理です。事業進捗・制度背景については以下の記事をご覧ください。
👉 長崎県五島市沖浮体式洋上風力発電プロジェクト
※本記事は、執筆時点のコストモデルおよび前提条件に基づく参考分析です。 最新のコスト前提および相対評価については、以下のPillar記事を参照してください。
👉 LCOE・IRRから読み解く日本の洋上風力「促進区域」エリアの収益性比較
1. 区域概要
- 区域名: 長崎県五島市沖
- 所在地: 長崎県・南東沖
- 最大想定容量: 16.8 MW
- 指定状況: 促進区域
- 事業者: 戸田建設、ENEOS、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力
2. 推定条件(代表値)
促進区域のポリゴン座標に基づき、区域中央を代表点に設定しました。水深・距離条件はNeoWinsのデータを基に推定しています。

| 項目 | 推定値 | 備考 |
|---|---|---|
| 水深 (m) | 約131 m | 代表点の水深 |
| 離岸距離 (km) | 約7.0 km | 代表点から陸揚げ点まで最短距離 |
| 港湾距離 (km) | 約10.8 km | 代表点から想定O&Mポートまで直線距離 |
3. CAPEX / OPEX 推定
CAPEX・OPEXはNEDO洋上風力発電コストモデルを参照にDeepWind独自に算定しました(DeepWind estimate)。
※2026年6月のWACC改訂(3%→4%)およびモデル更新に伴い、LCOE・IRR・OPEXを修正しました。
| 浮体タイプ | 推定CAPEX | 推定OPEX |
|---|---|---|
| スパー型 | 約226 億円 | 約4.6 億円/年 |

4. LCOE 推定
LCOEはNEDO洋上風力発電コストモデルおよびNeoWinsデータを参照にDeepWind独自に算定しました。
| 浮体タイプ | 設備利用率(Gross) | 割引率(WACC) | 推定LCOE |
|---|---|---|---|
| スパー型 | 31% | 4% | 48.5 円/kWh |
LCOE 48.5円/kWhは、日本の固定費・洋上費用が高い促進区域の中でも最高水準に位置する。水深131m・スパー型の採用による工事複雑性と設備利用率の低さが複合し、現行の入札制度(FIT)下での回収が極めて困難なコスト構造となっている。DSCR≥1.35xを満たすためには、売電価格の大幅な引き上げか構造的なコスト低減が不可欠。
5. IRR 推定
| 価格条件 | 推定IRR | 売電価格 | 運転期間(想定) |
|---|---|---|---|
| 落札価格 | 0.8% | 36 円/kWh | 30年 |
| 損益分岐点価格 | 4.0% | 48.5 円/kWh | 30年 |
6. 収益性評価(DeepWind推定)
| 評価軸 | スコア(★1–5) | 評価結果 |
|---|---|---|
| 収益性(落札価格) | ★ | 採算困難 |
| 総合評価 | Dランク | 現行条件では採算不成立。大幅なコスト低減・技術革新・制度的支援が必要。 |
五島市沖は日本の浮体式洋上風力の”試験場”だが、商業スケールへの経路はコスト単体では開かない。
スパー型・16.8MWという小規模浮体実証の延長線上でWACC4%・LCOE 48.5円/kWhという数値は、浮体式の本質的なコスト課題を反映している。水深131mは着床式の限界を超えており、技術的選択肢としてのスパー型は正当だが、量産前の段階では経済性が成立しない。
IRR 0.8%(売電36円)は資本コスト(WACC 4%)を大幅に下回る。第一ラウンドでのMitsubishi撤退を踏まえたWACCの引き上げは、浮体式においてより厳しい評価結果をもたらす。五島市沖の事業化は、浮体式LCOEの構造的な引き下げ(量産・標準化・港湾整備)を先行条件とする。
まとめ
長崎県五島市沖浮体式洋上風力のコスト構造を整理し、CAPEX・OPEX・LCOE・IRRの観点から収益性を評価しました。WACC4%条件下でLCOEは48.5円/kWhと推定され、落札価格36円/kWhに対してIRRは0.8%にとどまります。
浮体式ゆえのCAPEX高と設備利用率31%(低風況)の組み合わせが、採算を構造的に困難にしています。他の促進区域との相対比較は、日本の洋上風力市場全体の収益性マップを形成するうえで重要です。
👉 日本の洋上風力コスト構造と経済性を読み解く(コスト構造の全体フレームワーク)
その他促進区域のCAPEX・OPEX・LCOE・IRRと比較したい場合は、こちらのまとめ記事もぜひご覧ください。
🌊 日本の洋上風力「促進区域」12エリア徹底コスト分析
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