五島市沖の浮体式洋上風力(16.8MW)は、36円/kWhの固定価格で売電する計画で、2026年1月に運転を始めました。建設費は公表されていません。売電収入から逆算すると、20年で回収できる建設費は1kWあたり約53万〜118万円です(DeepWindの簡易計算)。後に続く浮体式の費用を見積もるとき、五島の数字をどこまで使えるかの目安になります。
発電量と資本コストの置き方で、約53万〜118万円/kWまで動きます。16.8MW全体では約89億〜199億円です。運転維持費を5.0万円/kW/年で見ると、約39万〜97万円に下がります。
定期報告では、実証機2件の平均が205.6万円/kWです。案件名は示されていないので、五島の費用とは読めません。それでも、小規模な浮体式の費用がこの水準になりうることを示す、数少ない実績です。
建設費、実際の発電量、融資の条件、浮体を作り直した費用の負担は公表されていません。分かるのは、36円の収入で回収するには何が必要か、という条件までです。
| 案件 | 五島市沖洋上風力発電事業(長崎県、福江島の東側の沖合) |
|---|---|
| 状況 | 2026年1月5日に運転開始(当初の予定は2024年1月) |
| 規模 | 16.8MW(日立製作所製 2.1MW機×8基) |
| 形式 | ハイブリッドスパー型(上部が鋼、下部がコンクリート)、3点係留 |
| 事業者 | 五島フローティングウィンドファーム合同会社(戸田建設、ENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力) |
| 売電 | 36円/kWh、FIT(固定価格買取制度)で20年 |
| 建設費 | 未公表 |
事業の経緯や環境アセスの状況は、プロジェクトのページにまとめています。この記事では費用だけを扱います。
36円で入る収入は、1kWあたり年約9万〜12万円
費用が分からなくても、収入の側は公開の数字で計算できます。価格が36円で固定されているからです。残る未知数は発電量で、これは設備利用率(CF、定格出力で動き続けた場合に対する実際の発電量の割合)で決まります。
五島の実績はまだ公表されていないので、国内の資料にある3つの値で計算しました。
| CF | 値の出どころ | 収入(円/kW/年) | 16.8MW全体(年) |
|---|---|---|---|
| 27.7% | 定期報告6件の平均。実証機を含む | 87,357 | 約14.7億円 |
| 32% | 業界団体JWPAの事業者アンケート | 100,915 | 約17.0億円 |
| 36.6% | 第2・第3ラウンドの上限価格を決めたときの平均 | 115,419 | 約19.4億円 |
この収入から毎年の運転維持費を引いた残りが、建設費の回収に回せるお金です。定期報告の運転維持費は、商用機4件の平均が3.6万円/kW/年、実証機2件が5.0万円/kW/年でした。CF 32%で商用機の値を使うと、手元に残るのは年6.49万円/kWです。16.8MW全体では年約10.9億円になります。
20年で回収できる建設費は、約53万〜118万円/kW
建設費は最初に払い、売電で20年かけて取り戻します。そのため、建設資金にどれだけの利回りを求めるか(資本コスト)で、回収できる額が変わります。次の表は、運転維持費を3.6万円として逆算したものです。
| 割引率 | CF 27.7% | CF 32% | CF 36.6% |
|---|---|---|---|
| 3%(国の発電コスト検証) | 76.4 | 96.6 | 118.2 |
| 6%(JWPAのプロジェクトIRR) | 58.9 | 74.5 | 91.1 |
| 7.3%(IRENAの日本の洋上WACC) | 53.2 | 67.2 | 82.2 |
運転維持費を実証機の5.0万円にすると、範囲は約39万〜97万円に下がります。五島は係留された8基を沖合で保守するので、どちらの値が近いかは運転の実績を見るまで分かりません。前提を変えて試すには、DeepWind Simulatorを使えます。
20年の数え始めにも注意が必要です。2022年の事業計画はFITの売電を20年、運転停止の予定を2043年12月末としていました。事業者の工程表は、設備認定の期間の始まりを当初の運転開始(2024年1月)の位置に置いています。この期間が延期で動いたかどうかは、資料から確認できませんでした。仮に売電が18年になると、3%、CF 32%の96.6万円は89.3万円に下がります。
実証機205.6万円と商用機77.9万円:どちらも五島の費用とは読めない
比べる相手になるのは、国に報告された実績です。調達価格等算定委員会の定期報告では、実証機2件の平均が205.6万円/kW、商用機4件の平均が77.9万円/kWでした。逆算した範囲は商用機の値を含み、実証機の値には届きません。
ただし、資料は6件の案件名を示していません。五島が含まれているかどうかも分からないので、205.6万円を五島の費用として扱うことはできません。NEDOのコスト評価モデルには、スパー型57.0万円/kW(2023年の為替)という値もあります。これはモデルの想定で、実績とは比べられません。詳しい比較は次の記事にまとめています。
規模の差も大きいと考えられます。五島の16.8MWは、15MW機なら1基強の出力です。それを8基の浮体、24本の係留チェーン、8基分のケーブル接続で賄っています。DeepWindの見方では、大型機の案件より1kWあたりの費用は重くなりやすいはずです。五島の費用がそのまま後続の案件に当てはまるとは考えにくいです。
五島の工事で、費用に関わる4つの選択
金額は公表されていませんが、何にお金がかかる工事だったかは、事業者の資料から読めます。
| 工程 | 五島で行ったこと |
|---|---|
| 浮体の建造 | 下部をコンクリートにし、リング状の部材を福江港のヤードで製造しました。鋼製部は県内の鉄工所や造船所に発注しています。事業者は量産効果を高め、市内の建設会社で造れる利点を挙げます |
| 岸壁と港 | 横倒しで建造するので、単位面積あたりの重さが小さく、地盤の弱い岸壁でも造れると説明しています。荷役には200〜500トンの地元の起重機船を使う計画でした |
| 海上の組立 | 静穏な椛島北の海域で浮体を起こし、そこで風車を組み立て、設置海域まで曳航しました。喫水は76m、設置海域の水深は図で100mです |
| 撤去 | 設置の手順を逆にたどる計画です。上の表の計算には、この費用を含めていません |
計画になかった費用もあります。製造中の浮体に不具合が見つかり、運転開始は2年延びました。その後、設置済みの1基を陸揚げして検査すると、長期の健全性を確保するのは難しいと判断されました。2024年1月には、3基すべてを陸揚げして作り直すことが決まりました。この費用の金額と、誰が負担したのかは公表されていません。
固定価格の案件では、収入の上限が先に決まります。建設費が増えても、36円が変わったという資料は確認できません。選定済みの案件で価格調整の仕組みの効果が見込まれるのも、西海市江島沖だけとされています。融資があれば、金融機関はDSCR(返済原資が返済額の何倍あるかを示す指標)を見ますが、五島の融資条件は未公表です。外から確かめられるのは、CF 32%なら返済と配当に回せるお金が年約10.9億円、という上限の計算までです。
五島の36円は浮体式の価格の目安ではなく、小型機8基の初号案件に付いた価格です。
五島は、海洋再エネ整備法(旧称:再エネ海域利用法)の区域で最初に動き始めた発電所です。複数基の商用浮体式としても国内で初めてです。そのため、36円も2年の延期も、後続の案件の基準として引用されやすくなります。ただ、この価格で回収できる費用の範囲は広く、実際の費用は分かっていません。採算の良し悪しを外から言える材料はまだありません。
これから意味を持つのは、運転の実績です。発電量が27.7%と36.6%のどちらに近いかで、表の読み方は大きく変わります。運転維持費が3.6万円と5.0万円のどちらに近いかも同じです。
後続の浮体式の費用を見積もる立場なら、五島の数字をそのまま使うのは避けたいところです。2.1MW機を15MW機に変えれば、費用の構成も工事の方法も変わるからです。一方で、作り直しで失われた2年と、静かな海域で組み立てる手順は、そのまま使える知見です。周辺では五島南沖が準備区域に入っており、次の案件が育つかどうかも注目点です。
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