北海道の洋上風力サプライチェーン:道内企業マップの参入状況と、付加価値目標7,684億円の中身

Hokkaido Offshore Wind Where Can Local Firms Get In 1

作成日:2026年10月5日|更新日:2026年10月5日

MARKET DYNAMICS

北海道経済産業局は2026年10月2日、洋上風力のサプライチェーンマップの第1版を公表しました。北海道に本社や拠点を置く18社と、道内に支社を持つ道外の9社が載っています。マップ自身のまとめによれば、道内企業が入りやすいのは基礎の製造と洋上での設置です。風車本体の組立と保守は海外の大手メーカーが自社で行っており、参入できる余地は限られるとしています。一方、7月31日に策定された北海道の戦略産業クラスター計画は、2040年までに付加価値を約7,684億円増やす目標を掲げています。その数え方の土台は、促進区域の風車が運転を始めてからの保守の費用です。道内企業が強い建設の段階と、目標が数えている運転の段階が、ずれています。

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Key Takeaways
1. 道内企業の出番は、基礎と設置に集まっている
マップに載った企業のうち、洋上風力に参入済みとされ、本社が道内にある企業は10社です。室蘭の鋼構造物メーカーを中心に、基礎の製造と設置の領域が厚く、電気系統では道内の地場企業の参入はまだありません。
2. 目標7,684億円は、運転保守の費用から数えている
計画は付加価値の目標を、促進区域の2030〜2040年の運転保守費用と、それに伴う設備投資から計算しています。マップは、風車本体の保守に道内企業が入れるのは保証期間が終わった後に限られると書いています。目標の土台と、道内企業の入り口が重なっていません。
3. 核になる2海域は、事業者がまだ決まっていない
計画の中心は松前沖と檜山沖の最大1.46GWです。2025年7月に促進区域に指定されましたが、計画の時点で事業者の選定はこれからでした。北九州のように動いている案件の周りに企業が集まった形とは、順番が逆になっています。

マップ第1版:27社のうち道内は18社、室蘭に7社が集まる

マップは、北海道に本社や拠点を置き、洋上風力に関心のある企業へのアンケートをもとに作られました。回答を、調査、風車の製造、基礎の製造、電気系統、設置、O&M(運転保守。稼働後の点検・修繕・部品交換などの作業)の6つの領域に分けています。撤去の領域は、設置と同じ企業が担う想定で一覧から外されています。

道内の18社を地域別に見ると、室蘭市が7社でいちばん多く、札幌市と函館市が3社ずつ、苫小牧市が2社、千歳市・旭川市・留萌市が1社ずつです。室蘭の7社には、五洋建設と函館どつくの室蘭の製作所が含まれます。鉄鋼、橋梁、造船の企業が古くから集まる室蘭が、そのまま名簿の中心になっています。

領域ごとの参入状況は次のとおりです。

領域 参入済み 未参入(参入意欲あり) マップの見立て
調査 1社 1社 道内に参入済みの企業がある。専門的な調査は大手と組む形か
風車の製造 1社 1社 部材の加工では道内企業がある。風車本体の組立や主要部品の製造は海外大手に頼る形か
基礎の製造 5社 4社 参入済みの道内企業が複数ある。鋼材の加工・製造の力が厚い
電気系統 1社 1社 道内の地場企業では参入なし。主要な設備は国内大手に頼る
設置 4社 0社 参入済みの道内企業がある。施工の全体管理や洋上での施工は国内大手に頼る
O&M 3社 1社 風車本体の保守は保証期間の後に限られる。保守や船の対応で力を持つ道内企業はある
その他 2社 0社 作業員の宿舎、資機材の供給など
出典: 北海道経済産業局「北海道洋上風力関連産業サプライチェーンマップ(第1版)」(2026年10月2日)p.13〜17。社数は個別紹介の表(道外企業を含む25社)を DeepWind が領域別に数えたもの。各社の参入状況はアンケート回答と公開情報に基づくマップの分類

数字を読むときの注意が2つあります。1つは、これはアンケートに答えた企業の名簿だという点です。北海道と北海道経済産業局が2025年に作った「HOKKAIDO洋上風力産業推進ネットワーク」には、2026年4月末時点で179の企業や団体が参加しています。マップの社数は、道内で洋上風力に関わりうる企業の総数を示すものとは言えません。もう1つは、計画が2026年度に30社程度を載せ、2027年度以降に50社程度へ広げるとしている点です。第1版は、その途中の段階にあります。

道内企業が入りやすいのは基礎と設置、入りにくいのは風車本体

マップが「道内企業の参入余地は十分にある」とするのは、基礎の製造と設置です。基礎の製造で参入済みとされた道内企業は、室蘭のタカヤナギと楢崎製作所、苫小牧の會澤高圧コンクリートです。タカヤナギは専用の岸壁を持ち、製作から海上輸送までを一社で担えます。會澤高圧コンクリートは、地方の港でも造れるコンクリート製の浮体式基礎「MIKASA」を開発しています。浮体式(風車を浮体に載せて係留する方式)の基礎を、大きな造船所を持たない港で造れるかどうかは、北海道に限らず国内の供給網全体の論点です。

設置の領域では、札幌の北海電工が参入済みとされています。ただしマップは、施工の全体管理や洋上での施工そのものは国内大手に頼る形だと書いています。洋上の施工で名前が挙がるのは、五洋建設、東洋建設、DENZAI E&Cといった道外の企業です。

入りにくいとされたのは風車本体です。マップのまとめは、風車本体の組立と、風車本体のO&Mは海外の大手メーカーが自社で対応しており、参入の余地は限られるとしています。O&Mについては、風車本体への関与は保証期間(風車メーカーが性能を保証する期間)の後に限られる、と明記しています。

そのO&Mの領域で参入済みとされた道内企業は、旭川の北拓と函館の函館どつくです。北拓は国内の陸上風車の保守で最大手とされ、自社の訓練設備で作業員を育てています。函館どつくは造船と修繕の経験を、洋上風力向けの船や海洋構造物に広げようとしています。保守の担い手になりうる企業は道内にあります。入り口が開くのは、多くの場合、保証期間が終わってからということになります。

電気系統では、道内の地場企業の参入はまだありません。海底ケーブルで参入済みとされたのは古河電気工業で、石狩湾新港や北九州の響灘でケーブルの設計・製造・敷設を担った実績があります。

付加価値7,684億円は、運転保守の費用から計算されている

クラスター計画は、2040年に向けて3つの最終目標を置いています。民間の設備投資額で約3,285億円、洋上風力産業の付加価値の増加額で約7,684億円、洋上風力の人材ののべ育成数で約10,620人です。付加価値とは、売上から仕入れを差し引いた、地域に残る稼ぎのことです。2030年度までの中間目標も、設備投資の累積約120億円、付加価値の累積約700億円、人材1,720人と置かれています。

目を引くのは、2つの金額目標の数え方です。計画は付加価値の増加額を、2つの金額を合わせて計算したと説明しています。北海道の促進区域で見込まれる2030〜2040年の運転保守の費用と、それに伴う民間企業の設備投資です。設備投資額も同じく、11年間の保守に関わる投資を1kWあたり年1.23万円と置き、そこに民間の設備投資を足して出しています。計画の説明を読む限り、風車や基礎を造って据え付ける建設の発注額は、目標の数え方の中心に入っていません。

ここで、マップと計画がぶつかります。マップによれば、道内企業がいちばん厚いのは基礎の製造と設置で、どちらも建設の段階の仕事です。運転保守では、風車本体の保守は保証期間の間、海外の大手メーカーが自社で担います。計画の目標は、道内企業が入りにくい部分を多く含む費用を土台にしていることになります。

DeepWindの見方では、これは目標が間違っているという話ではありません。運転保守は20年以上続き、地域に残りやすい仕事でもあります。問題は、その費用のうちどれだけが道内企業に流れるかが、目標の数字からは見えないことです。風車メーカーとの保守契約の中で、道内の企業がどの作業を下請けとして担えるか。保証期間が何年で、その後の保守を誰が引き継ぐか。目標の達成度は、こうした契約の中身で決まっていくとみられます。

核になる松前沖・檜山沖1.46GWは、事業者がまだ決まっていない

計画がクラスターの中心に置くのは、促進区域(国が事業者を公募すると決めた海域)に指定された松前沖(25万〜32万kW)と檜山沖(91万〜114万kW)の2海域、合わせて最大1.46GWです。どちらも2025年7月30日に指定されました。計画の時点では、国が公募の指針を作り、事業者を選ぶのはこれからとされていました。発電事業者が決まった後に、調査から順に民間の投資が動き出すという整理です。

北九州と比べると、順番の違いがはっきりします。北九州では2026年3月に220MWの響灘の洋上風力発電所が運転を始め、5月には約50社が業界団体のREACHを立ち上げました。動いている案件の工事と保守の実績が先にあり、そこに企業が集まりました。北海道の計画は、事業者の決まっていない2海域を前提に、集まる企業の数と稼ぎの目標を先に置いています。

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目標の期間との関係にも注意が要ります。付加価値の目標は2030〜2040年の運転保守を数えています。2海域の運転開始がいつになるかは、事業者の選定と工事の工程しだいです。運転開始が遅れれば、その期間に数えられる保守の年数は短くなります。

Execution Risk道内企業にとっての難しさは、受注が見える前に設備を整える必要があることです。計画によれば、ある企業が2026年度に約20億円の大型クレーンなどを入れます。浮体式の基礎を想定した大型構造物の生産体制を整えるためで、企業名は公表されていません。こうした投資の回収は、2海域の事業者が決まり、基礎や構造物の発注先が決まって初めて見えてきます。事業者の選定と発注が後ろにずれれば、先に投資した企業ほど待つ時間が長くなります。

室蘭・函館・石狩:港と船は先に動いている

企業の名簿より先に形になっているのが、港と作業船です。室蘭港は、複数のSEP船の母港になっています。SEP船は、脚を海底に下ろして船体を持ち上げ、波の影響を受けずに風車を据え付ける作業船です。その中には、最大2,500トンをつり上げるクレーンを備えた世界最大級の自航式の船も含まれます。函館港では、JWFCが持つSEP船の母港とする協定が結ばれ、2026年5月15日から使われています。石狩湾新港では港湾区域内の洋上風力発電所がすでに動いており、東洋建設のケーブル敷設船DISCOVERYも、ここを基地に運用されています。

計画は課題として、カボタージュ(自国の沿岸の輸送を自国籍の船に限る決まり)も挙げています。大型の部材を運ぶ大型の内航船は国内になく、外国船を使うには規制がかかるため、船の手配が遅れて費用が上がるおそれがある、という指摘です。港の側の準備が進んでも、部材を運ぶ船がそろわなければ、道内で造った基礎を海域まで運ぶ段階で詰まります。

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DeepWind View

北海道の計画が数えている稼ぎは、道内企業がいちばん強い場所にはありません。

マップは、道内企業の強みが基礎の製造と設置にあると示しました。計画の目標は、運転が始まってからの保守の費用を土台にしています。その保守のうち風車本体の部分は、保証期間のあいだ海外の大手メーカーが担います。目標が大きいこと自体より、目標の数え方と道内企業の入り口が重なっていないことのほうが、これからの進み方を左右しそうです。

サプライヤーにとって次に見るべきは、2つの海域の公募の条件と、選ばれた事業者の発注の組み方です。基礎や構造物をどこで造るか、保守契約の中で地元の企業にどの作業を任せるかは、事業者と風車メーカーの判断で決まります。政策の側は、マップの第2版で社数を増やすことに加えて、道内に流れる金額をどう測るかを示すと、目標の意味がはっきりするはずです。

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