浮体式洋上風力の係留コストはCAPEXの5%:荷重を半分にする装置は、どの費目に効くのか

Floating Wind Mooring Costs What a 50 Load Cut Moves 1

作成日:2026年9月22日|更新日:2026年9月22日

FLOATING WIND

アイルランドの海洋エンジニアリング企業 Dublin Offshore Technology が9月15日、米国メイン州沖でコンクリート製の浮体に自社の荷重低減装置を取り付けたと発表しました。波によって係留索(浮体を海底につなぎ留めて流されないように保つ、チェーンや索とアンカーの仕組み)にかかる張力のピークを、最大で半分にできるという内容です。ここで確かめておきたいのは、装置の性能そのものより手前にあります。浮体式のプロジェクトで、係留はそもそも建設費の何割を占めるのか。世界標準のコストガイドと、DeepWindが日本向けに持つコストモデル。この2つを別々に当たると、どちらも約5%という同じ水準に着きます。そして日本では、その索がぶら下がる浮体本体だけで43%を占めます。

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Policy Design

Execution Reality

Bankability Test
Key Takeaways
1. 別々に積み上げた2つのコスト表が、同じ5%を指す
BVG Associates の2024年版ガイドは、係留システムを411,000ドル/MWと置いています。CAPEX(建設して運転を始めるまでの費用の総額)合計7,682,000ドル/MWに対して5.35%です。DeepWindが日本向けに持つモデル(NEDOのコスト評価式がもと)では、セミサブ型で係留3.155%とアンカー1.968%、合わせて5.12%。前提もつくり手も違う2つの積算が、0.25ポイントの差に収まりました。
2. 日本の費目構成は、この装置の効き幅を小さくする側に働く
浮体本体の比率は、世界の参照ケースで22.21%、日本モデルで43.09%。NEDOが日本の商用機を重い鋼製セミサブとして置いているためです。分母が浮体に寄っている分、同じ額を係留で削っても全体に対する比率は下がります。海外発のコスト低減の話は日本でも同じかそれ以上に効きそうに読まれがちですが、この費目に関しては逆向きです。
3. 部材の種類はすでにあった。新しいのは実海域に付けたこと
BVGの2024年版は、荷重低減装置(LRD)を係留部材の一種としてすでに項目立てし、機能まで定義しています。その節の写真の出典には Dublin Offshore の名前が入っています。9月に起きたのは、新しいカテゴリの誕生よりも狭い変化でした。この種の装置が浮体式風車の係留系に実際に取り付けられ、計測が始まった、ということです。

「最大50%」は、何に付いている数字か

発表された装置は Load Reduction Device(LRD)と呼ばれ、係留索の途中に組み込んで衝撃を吸収させる部材です。浮力とバラスト(重り)を組み合わせ、波に対して索の反発の仕方をわざと直線的でなくします。張力の山がアンカーに届く前に和らげる。その結果として、チェーンを細く、アンカーを小さく、据付に使う船も簡素にできる、というのが同社の説明です。ピーク荷重を最大50%下げると書かれています。

この一文には、コストの計算に入る前に付けておくべき条件が3つあります。ひとつ、50%は同社自身が出した数字で、水槽試験によるものか、計算によるものか、実測によるものかは書かれていません。同じリリースが、実測データはこれから集めるところだと述べています。ふたつ、その裏づけとされるDNVの認証はプロトタイプ認証で、規格は DNV-SE-0422 と DNV-ST-0119、2026年2月に報じられたものです。DNV側はこれを「さらなる開発と案件ごとの実装のための検証された土台」と位置づけています。商用利用の許可は、まだその先にあります。みっつ、リリースは浮体の名前と海域は書いていますが、縮尺に一度も触れていません。公開報道によれば、この VolturnUS+ は15MW機を4分の1に縮めた実証機で、ペノブスコット湾のカスティーン沖、水深およそ21mに係留されています。

3つとも、この節目の意味を認めたうえでの条件です。いま確かなのは、計測付きの実証が動き出したところまで。商用規模での立証は、その先にあります。そこは分けて読む必要があります。

係留の費目は、いくらで、どこに並んでいるのか

BVG Associates の『Guide to a Floating Offshore Wind Farm』(2024年版)は、1GW・15MW機・水深100m・鋼製セミサブ・6点係留(引きずり式アンカー)・英国のサプライチェーンという前提で、費目を細かく分解しています。2024年実質価格、単位はドル/MWです。係留まわりの分解が細かいので、荷重低減装置が触れる範囲と触れない範囲がそのまま見えます。

費目(BVG 2024年版 参照ケース) ドル/MW CAPEX比
係留システム(合計) 411,000 5.35%
 うち 係留索・チェーン 227,000 2.95%
 うち 付属部材(連結金具・重り・LRD・浮力材) 128,000 1.67%
 うち アンカー 45,000 0.59%
 うち 上部接続・据付補助具 11,000 0.14%
係留・アンカーの事前据付 199,000 2.59%
係留部材+事前据付の合計 610,000 7.94%
(比較)浮体本体 1,706,000 22.21%
出典:BVG Associates, Guide to a Floating Offshore Wind Farm(2024年版)の詳細コスト内訳。CAPEX合計7,682,000ドル/MWに対する比率はDeepWind算出。英国のサプライチェーンを前提とした参照ケースであり、ここでは構成比の参照にのみ使用し、日本のコスト水準の基準としては使いません。

内訳を足すと411,000にちょうど一致します。このガイド自身が「丸めているため小計と合計が合わないことがある」と断っているので、一致したことは確認しておく価値があります。目を引くのは2点です。係留荷重の話で真っ先に名前が挙がるアンカーが、45,000ドル/MW、CAPEXの0.59%しかないこと。そして今回の装置が並んでいるのは、連結金具や浮力材と同じ「付属部材」の行で、128,000ドル/MWだということです。

日本の構成比は、答えを小さいほうへ動かす

DeepWindの事業性シミュレータは、欧州のベンチマークを使わず、NEDOのコスト評価式をもとにした日本向けの費目構成を持っています。セミサブ型では係留が3.155%、アンカーが1.968%で、合わせて5.12%。基準となるCAPEXは1,700,085円/kWです。スパー型では同じ2費目で3.19%になります。いずれもDeepWindの推計値です。なお、この2費目は部材の調達費にあたり、アンカーには海底地質に応じた係数がかかります。浮体式では係留の据付が独立した費目として立っておらず、風車据付の費目に含まれるため、据付側の効き幅はこのモデルでは分離できません

2つの積算が5%前後で揃うことは、むしろ安心材料です。重要なのは、揃わなかったほうです。浮体本体は、BVGの参照ケースで22.21%、日本モデルで43.09%。NEDOが日本の商用機を重い鋼製セミサブとして置いているためで、国土交通省の検討会資料が商用機の基準を100m角・深さ35m・8本の製造ラインという規模で描いていることとも整合します。日本の浮体式では、建設費のほぼ半分が浮体そのものに乗っています。

ここから先は算数の話です。係留部材の比率が両方でほぼ同じで、浮体の比率だけが日本で2倍なら、係留で同じ割合を削っても、全体に対する効き幅は日本のほうが小さくなります。付け加えると、これは構成比どうしの比較であって、金額の比較にはあたりません。為替換算は挟んでいませんし、BVGの数値を日本の価格として読むこともできません。

比較そのものにも、条件をひとつ付けておきます。2つの積算は、同じつくりではありません。BVG側は予備費と保険を、CAPEXの10.32%として独立に立てています。日本側の構成は、モデルを組んだときのNEDOのバケットの割り付け方の都合で、残差にあたる費目を持ちません。つまり22.21%と43.09%の差には、浮体そのものの重さの違いに加えて、費目の区切り方の違いも混ざっています。公開されている数字からは、その2つを分けることができません。差の向きは、国土交通省が商用機の姿を描いた資料が独立に支えています。ただし2倍という幅そのものは、測った値のようには受け取らないでください。

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荷重低減装置は、すでにカタログに載っていた

今回の発表が「世界初」として語られている以上、業界側の資料に何がすでに書かれていたかは確かめておくべきところです。BVGの2024年版は、係留の付属部材の節で、LRDを次のように定義しています。「荷重経路の中に置かれ、係留の剛性の応答を変える部材」。設計上の柔らかさを与えることで係留系を最適化できる、と説明しています。同じ節には、こうした装置が当時「開発が進められている」段階だという記述もあり、部材を写した写真の出典には Dublin Offshore の社名が並んでいます。

つまり部材の種類としては2年前に定義され、値段も付き、この供給者の名前も出ていました。今回あらたに起きたことは、もっと狭く、そのぶん実務的です。この種の装置が浮体式風車の係留系に洋上で取り付けられ、重量物船を使わず標準的な支援船で施工され、いま張力と動揺の実測値を返し始めている。計算と試験だけで値段が付いていた部材にとって、計測付きの設置は意味のある一歩です。そして、それは商用規模でコストが下がったという話とは別の主張です。

Bankability Note

この構成比で見ると、係留のピーク荷重を半減させて効くのは、CAPEXの約5%にあたる部材と、世界の参照ケースで2.6%の事前据付です。削減分がそのまま通ったとしても、CAPEX全体では数%の話にとどまり、これだけでDSCR(返済原資が返済額の何倍あるかを示す、融資判断の指標)が動くことはありません。金融機関にとってより効いてくるのは、建設費より疲労と稼働率の側かもしれません。張力の山が下がることは係留の健全性管理に関わり、そこは融資額の前提になるP90(発電量を保守的に見積もった水準)につながるためです。ただしこの経路は、現時点で数値になっていません。同社自身が、実測データはこれから集めるところだと述べています。

次に何を見るか

読み方が変わるとすれば、3つのどれかが動いたときです。ひとつは50%という数字の出どころと、メイン州の計測がそれを水槽の外で再現するかどうか。ふたつは認証が、プロトタイプ認証から、商用の係留設計に対する案件ごとの検証へ進むかどうか。DNV自身が残っている工程として挙げている部分です。そしてみっつめが、日本にとっていちばん関係があります。ピーク荷重が下がることで、ある種類のアンカーが使える海底地質の範囲が広がるかどうかです。日本の促進区域・有望区域は海底の条件がかなりばらついており、シミュレータがアンカーにだけ海底地質の係数をかけているのも、まさにその理由によります。

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DEEPWIND VIEW

日本では、係留の技術革新は費用を下げる話としてより、使える海域を広げる話として効きます。

コスト面での筋は通っていて、そして小さい。別々に積み上げた2つのコスト表が、係留部材をCAPEXの5%前後に置いています。日本は浮体の比率が高いぶん、そこで浮いた額の相対的な重みはさらに下がります。係留技術を日本の浮体式CAPEXを大きく下げる手段として語るなら、費目の構成そのものが逆を向いていることになります。

むしろ見るべきは、価格ではなく成立範囲のほうです。アンカーの大きさを決めているのは張力の山であり、引きずり式で足りるのか、吸引式が要るのかを分けているのもそこです。山が下がれば、標準的なアンカーで対応できる海底条件の幅が広がります。区域ごとに海底地質が大きく違い、シミュレータがアンカーのコストを海底条件で調整している市場では、もともと大きくなかった費目を削ることより、成立する海域を増やすことのほうが価値を持ちます。

メイン州のデータを測る物差しも、そこに置くのが妥当です。見るべきは次の2点です。実測された張力の履歴によって、これまでなら見送られた条件でも軽い部材を指定できるようになるのか。そしてその指定を、商用規模の実績がない段階で金融機関が受け入れるのか。見るべきはその2点です。

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