作成日:2025年10月17日|更新日:2026年6月26日
FLOATING WIND
2026年6月2日、ブラジル北東部リオグランデ・ド・ノルテ州のナタルで開かれた国際会議「Brazil Offshore Wind & Power-to-X 2026」で、日本のJB Energy(Japan Blue Energy)が「Aura Sul Wind」プロジェクトのPhase 2(第2段階)を正式に始動させました。公表から約1年をかけたPhase 1では、(1)設置場所の確定、(2)30を超える企業・機関による事業連合(コンソーシアム)の結成、(3)ブラジルの環境当局IBAMA(連邦環境・再生天然資源院)から「環境調査の進め方を定めた公式文書(Terms of Reference)」の取得、という3つの節目を達成しました。続くPhase 2では、基本設計(FEED:設備の仕様や設置手順を固める前段の詳細設計)、環境調査、現地の気象・海象データ(風・波・海流の実測)の収集、そして部材を国内で調達するためのサプライチェーン構築を同時に進め、2030年の設置を目指します。中心となる設備は、プレストレストコンクリート(あらかじめ圧縮力を加えて強度を高めたコンクリート)製の半潜水型(セミサブ)浮体「Raijin Float®」に18.5MWの大型風車を載せたもので、ブラジルで初めての浮体式洋上風力の実証案件です。プロジェクトは、設計と許認可を本格的に進める実行段階に入りました。
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公表から約1年で、設置場所の確定、コンソーシアムの結成、IBAMAからの環境調査の公式文書(Terms of Reference)取得を終えました。Phase 2で実施する環境調査の範囲を当局とあらかじめ合意したことで、許認可の手続きに正式に乗ったことになります。
Raijin Floatのコンクリート設計は、ブラジル国内ですべて製造することを前提にしています。産業をゼロから立ち上げるのではなく、ブラジルが石油・ガス開発で築いてきた造船所・専門船・港湾といった基盤を浮体式洋上風力に転用する、いわば「既存産業の乗り換え」として組み立てられています。
Phase 2では認証機関のBureau Veritas(BV)とABS(米国船級協会)が加わり、基本設計と、第三者による独立した気象・海象データの計測が始まります。これにより、前例のない浮体式案件にお金を出す金融機関が判断材料として求める「技術的な裏付け」が積み上がっていきます。
プロジェクト概要とサイト条件
| プロジェクト | Aura Sul Wind |
|---|---|
| 位置 | リオグランデ・ド・スル州沖合約65km(32.37°S, 51.50°W) |
| 水深 | 44m |
| 基礎形式 | 浮体式セミサブ型 — Raijin Float®(プレストレストコンクリート) |
| タービン | 18.5MW × 1基(MingYang MySE 18.5-260) |
| 係留 | 海底アンカーによる係留、海底ケーブルで系統に接続 |
| Phase 2始動 | 2026年6月2日(Brazil Offshore Wind & Power-to-X 2026、ナタル) |
| 設置目標 | 2030年 |
リオグランデ・ド・スル州は、世界でも有数の強い洋上風、石油・ガス物流で整ったリオグランデ港、そしてコンクリート・土木の産業基盤——この3つが一か所にそろう貴重なサイトです。水深44mは浮体式を使う下限にあたる浅さですが、これはパイロット段階としてあえて選んだ条件です。設置の難しさを抑えながら、商用規模(18.5MW)の風車で実証できるようにする狙いがあります。
Raijin Float:なぜコンクリートか、なぜブラジルか

Raijin Floatは、欧州で主流の鋼鉄製セミサブとは違い、コンクリートを構造材料に使います。JB Energyが挙げる設計の理由は2つです。
コストの安さ。セメント産業が発達した国では、コンクリートの製造費は同じ役割の鋼鉄製構造よりずっと安く済みます。JB Energyは、鋼鉄製の基礎と比べて初期建設費(CAPEX)を最大50%抑えられると見込んでいます。この方向性には合理性があります。ブラジルは世界有数のセメント・コンクリート産業を持ち、海洋向けのコンクリート構造をつくるサプライチェーンも、石油・ガス開発を通じてすでに育っているからです。
国内での製造(ローカライゼーション)。鋼鉄製のセミサブをつくるには、大がかりな造船設備と、熟練した海洋鋼の溶接技術が欠かせません。浮体式に新しく参入する国の多くは、その体制がまだ整っていません。一方でコンクリート構造は、より幅広い工場で対応できるため、輸入部材を組み立てるだけでなく、本当の意味での国産サプライチェーンを築ける可能性があります。Phase 2では、ブラジルの造船所Estaleiro EBRとともに進めるサプライチェーン構築の作業が、この狙いが実現できるかを検証します。

Phase 1の完了:公表からIBAMAの公式文書まで(2025年6月〜2026年6月)
2025年6月から2026年6月までのPhase 1では、土台となる4つの成果を上げました。
- 設置場所と海域の確定 ——リオグランデ港の沖65km、水深44m。系統への接続と港湾の物流面もあわせて評価しました。
- パートナー体制の構築 ——技術・エンジニアリング・認証・学術(ブラジル国内9大学+東京大学)・制度面の支援にわたる、30を超える組織のコンソーシアムを結成しました。
- 技術面・制度面の基盤づくり ——ブラジルでの許認可の道筋を整理し、プロジェクトの運営体制を整え、政府や業界団体との関係を築きました。
- IBAMAから環境調査の公式文書を取得 ——「予備的環境ライセンス(Licença Prévia)」を得るために必要な環境調査の範囲を定めた、正式な規制文書を受け取りました。
この公式文書(Terms of Reference)の取得は、具体的な意味を持つ節目です。IBAMAがプロジェクトの内容を確認したうえで、Phase 2の環境調査を「合意済みの範囲」で進められることが決まりました。これにより、許認可の審査の途中で調査範囲が後から増えてしまうリスクを減らせます。
Phase 2の中身:基本設計からサプライチェーンまで7つの作業
2026年6月2日に正式に始まったPhase 2は、次の7つの作業を並行で進めます。
- 基本設計(FEED) ——浮体本体・風車との一体化・係留システム・設置手順までを固める設計
- 環境調査と許認可 ——IBAMAの公式文書が定めた範囲で環境影響を調べ、予備的ライセンスの取得を目指す
- 気象・海象データの計測 ——Aura Sulの現地で、波・海流・風の状況を独立して測定する
- 海の生態系のモニタリング ——環境許認可に必要な、生物多様性の基礎データの収集
- 航行・海上安全の調査 ——航路の分析、立入禁止水域の設定、船の往来への影響評価
- リスク評価と認証 ——Bureau Veritas・ABSが中心となり、Raijin Floatの設計を技術的に認証する
- サプライチェーンと産業育成 ——コンクリート製造・係留・海洋設置を担えるブラジル国内の供給企業を探し、資格を確認する
このなかでも、基本設計(FEED)の完了と予備的環境ライセンスの取得は、2030年設置という目標を左右する2本の柱です。どちらかが遅れれば、全体のスケジュールに影響します。
コンソーシアムの構造:技術・エンジニアリング・認証・学術の4層
Phase 2のコンソーシアムは、浮体式洋上風力の前例がない国での初めての案件という難しさを反映して、多層の構造になっています。
技術・産業パートナー
- JB Energy(日本) ——コンソーシアムの主導役、Raijin Float®技術の提供
- MingYang Smart Energy(中国) ——MySE 18.5MWタービンの供給
- Prysmian(イタリア) ——海底の送電ケーブル
- Hitachi Energy(スイス/日本) ——系統接続・電力変換システム
- Fugro(オランダ) ——地盤・気象海象の調査
- blueOASIS(ポルトガル) ——HydroTwin技術による海洋環境のモニタリング
- Sabik Offshore(フィンランド) ——海洋標識・安全照明
- Mammoet(オランダ) ——重量物の輸送・設置
エンジニアリング・認証・法務
- Technomar Engenharia(ブラジル) ——デジタルツイン・海洋エンジニアリング
- ENGETI Consultoria(ブラジル) ——エンジニアリングのコンサルティング
- PORTOS RS(ブラジル) ——港湾当局、インフラ・物流の支援
- Bureau Veritas(フランス) ——技術認証
- American Bureau of Shipping — ABS(米国) ——船級・海洋認証
- Arvut(ブラジル) ——技術コンサルティング
- Estaleiro EBR(ブラジル) ——造船所・製造能力
- Licks Attorneys(ブラジル) ——法務サポート
大学・研究機関
- リオグランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS)/NIEPIEE UFRGS
- リオグランデ連邦大学(FURG)
- サンタマリア連邦大学(UFSM)
- Universidade do Vale do Rio dos Sinos(UNISINOS)
- サンタカタリーナ連邦大学(UFSC)
- パラナ連邦大学(UFPR)
- フルミネンセ連邦大学(UFF)
- サンパウロ大学(USP)
- 東京大学(日本)
制度支援
- リオグランデ市役所 / リオグランデ・ド・スル州政府
- 在ブラジル日本国大使館
- ABEEólica / Sindienergia-RS / Sinduscon-RG
- Invest RS / ApexBrasil
ブラジルで並行して進む3つのパイロット
Aura Sul Windは、ブラジルでIBAMAの環境許認可プロセスに入った3件の洋上風力パイロットの1つです。
- Aura Sul Wind(リオグランデ・ド・スル) ——浮体式セミサブ、Raijin Float® / 18.5MW、日本のコンクリート技術
- Petrobras主導プロジェクト(リオデジャネイロ) ——石油・ガスの海洋インフラを活用
- SENAI主導プロジェクト(リオグランデ・ド・ノルテ) ——技術・人材育成に重点
3件はそれぞれ違う技術と制度のもとで進み、合わせてブラジルの洋上風力に必要な環境評価の枠組み・規制の前例・コストデータをつくっていきます。投資家にとっては、規制をめぐる不確実性が下がることが大型投資の前提になります。3つのパイロットが同時に進むことは、その前向きな兆しといえます。
日本の浮体式を海外へ:なぜ最初がブラジルなのか
Aura Sul Wind以前、日本の浮体式洋上風力は国内の実証にとどまっていました——福島(2013〜2020年)、北九州、長崎(五島市16.8MW、2026年初めに完工)です。最初の海外サイトにブラジルを選んだ背景には、次の3つの条件がそろっていることがあります。
産業基盤が合っている。ブラジルのコンクリート産業と、石油・ガス開発で培った海洋産業の基盤は、Raijin Floatの製造に求められる条件とそのまま合致します。新しい産業を一から立ち上げるのではなく、すでにある力を転用するやり方です。これは日本国内の事情とも似ており、ブラジルでの実証は、そのまま日本での商用展開の手本になり得ます。
認証の実績ができる。ブラジルでBureau Veritas・ABSの認証を得れば、認められた設計の記録が残ります。この記録は他の国にも持ち込めます——ブラジルで認証済みの設計は、日本や他市場で次に展開するときの技術的な精査(融資判断のための確認作業)の負担を軽くし、実証から商用への移行を速めます。
市場の大きさ。業界団体のGWECは、2034年までに世界で19GWの浮体式洋上風力が設置されると予測しています。深い海が沿岸に広がり、エネルギー政策の追い風もあるブラジルは、その有力な受け皿です。Aura Sul Windが予定どおり進めば、JB Energyは、サプライチェーンの前提が本当に整う数少ない市場で、先行者としての実績案件を手にすることになります。
Phase 1で土台が固まったいま、焦点は基本設計と環境調査をスケジュールどおりに進められるかに移ります。ブラジルでの一歩が、日本の浮体式技術を世界市場へ広げる足がかりになるか——今後の進捗が試金石となります。
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