トタル撤退の連鎖:三菱商事ショックは日本だけの話ではなかった

The Total Withdrawal Pattern

作成日:2026年5月21日|更新日:2026年5月23日

2026年3月と5月、わずか2か月の間に、仏トタルエナジーズが米国とドイツの洋上風力プロジェクトから相次いで撤退を発表しました。2025年8月の三菱商事のラウンド1撤退と並べて読むと、10か月足らずの間に3つの市場で一つのパターンが浮かび上がります。「三菱商事ショック」は日本固有の出来事ではなく、複数の市場で現れつつある構造的なリセットの早期シグナルだったということです。

2か月で2件の撤退

2026年3月23日、トタルは米内務省と合意書に署名し、米国の洋上風力開発からの撤退を正式に決定しました。トタルが2海域(OCS-A 0545およびOCS-A 0538)に対して支払い済みのリース料は合計約9億2,800万ドル。スキームとしては、トタルがまず同額を米国内の原油・ガス・LNG事業に投資し、その後に米政府が同額をドル建てで償還する仕組みです。米内務省のバーガム長官はドローン戦争に関連する国家安全保障上の懸念を理由として強調しましたが、根底にあったのはコストの問題でした。

2026年5月18日、NDRと南ドイツ新聞(SZ)が共同調査報道を公開し、トタルがドイツの洋上風力リースからも撤退する方針が明らかになりました。対象は合計7.5GW分です。トタルは2023年と2024年の入札で、EnBWとの共同落札(2024年6月の1GW案件)を含むこれらの用地を、補助金なし(zero-subsidy)条件で獲得していました。撤退理由としてトタルが挙げたのは、ドイツの系統拡張の遅れと、経済環境の悪化です。

共通項:zero-subsidy入札モデルへの圧力

これらの撤退を結びつけるのは、入札方式そのものです。ドイツの最近の入札は、補助金(差金決済契約)なしでデベロッパーに発注される、いわゆる「zero-subsidy」モデルでした。トタルの米国リースも同様に、コストリスクをデベロッパー側が負う構造でした。日本のラウンド1は、入札価格上限が比較的低い時期のコスト前提で設計されており、円安、資材インフレ、金利上昇が重なった結果、経済性が成立しなくなりました。

3つの異なる入札制度、3つの異なる市場、プレスリリースに記載された理由もそれぞれ異なります。しかし10か月足らずの間に、プロジェクトファイナンスを組成できる大手2社による3市場からの撤退が起こりました。これらに共通するのはタイミングです。2022年から2025年にかけて落札された案件が、2024年以降に生じたコスト環境に晒されているのです。

各国の政策対応は収斂しつつある

ドイツの対応は明確です。連邦経済省は2026年の洋上風力入札からCfD(差金決済契約)方式への移行を正式発表しました。zero-subsidy設計が限界に達したことを公的に認めるものです。日本の対応はやや異なりますが、関連する方向に進んでいます。経産省は、建設期間中の物価変動を反映するため、落札後にFIP基準価格を1回だけ調整する「価格調整スキーム」を検討中です。GWECの2025年11月の白書はさらに踏み込んで、双方向CfDまたはFITへの移行を勧告しています。

日本が最終的にCfDに移行するか、FIP+価格調整に留まるかは別として、デベロッパーのリスクを軽減する方向に進んでいる点は欧州と共通しています。この収斂は偶然ではありません。

日本市場への含意

三菱商事撤退をめぐる日本での議論は、円安、ラウンド1の価格上限制度、サプライチェーンの脆弱さ、複雑な海象条件など、日本固有の要因に焦点が集まりがちでした。これらはいずれも事実です。

トタルの撤退は、サプライチェーンも通貨もより強い市場で同様の圧力が働いていることを示しています。洋上風力の事業性をめぐる議論——日本でも他の市場でも——は、国ごとの操業条件よりも、入札設計とFID前のリスク配分の問題に収斂しつつあると言えます。

欧州での経験がラウンド4の制度設計と、ラウンド1から撤退した3海域(能代三種男鹿、由利本荘、銚子)の再公募条件にどう反映されるかが、日本の洋上風力市場の次のフェーズを左右することになります。

出典: 米内務省およびトタルエナジーズ発表(2026年3月23日)、NDR/南ドイツ新聞共同調査報道(tagesschau.deおよびClean Energy Wire経由、2026年5月18日)、日経ビジネス(2026年5月19日)、GWEC白書(2025年11月)、三菱商事プレスリリース(2025年8月27日)

日本の洋上風力市場は、単一の要因では動いていません。投資、コスト、制度、サプライチェーンといった構造を横断的に整理した全体像は、Pillar記事に集約しています。
👉 日本の洋上風力市場分析(Pillar)

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