大林組が世界初の「TLP型ハイブリッド浮体」でAiP取得 ― セミサブ一強の浮体式に、もう一つの選択肢

Obayashis World First Hybrid TLP AiP A Second Path Beyond Semi Sub

作成日:2026年5月28日|更新日:2026年5月28日

なぜこのAiPが重要なのか

2026年5月25日、大林組が、鋼・コンクリートのハイブリッド構造を採用したTLP(テンション・レグ・プラットフォーム)型浮体式洋上風力発電施設の支持構造物について、日本海事協会(ClassNK)から基本設計承認(AiP)を取得しました。ClassNKがこの構造にAiPを発行するのは世界初です。

ニュースとしては地味に見えるかもしれません。しかし、これは日本の浮体式洋上風力の「技術選択の幅」を広げる、構造的に重要な一歩です。

なぜなら、現在の浮体式市場は事実上「セミサブ型(鋼製カテナリー係留)一強」に向かっており、その前提のうえに港湾インフラ、サプライチェーン、コスト試算が組み上がりつつあるからです。大林組のTLP型ハイブリッドは、この一本道に対する明確な対案を示すものです。

TLP型とは何か ― セミサブとの根本的な違い

浮体式洋上風力の係留方式は、大きく2つに分かれます。

カテナリー係留(スパー型・セミサブ型): チェーンの自重で弧を描かせ、その重さで浮体を緩く係留する方式。技術的に確立されつつありますが、浮体の動揺が大きく、係留チェーンが海底に広く展開するため海域の占有面積が大きいという課題があります。

緊張係留(TLP型): 海底のアンカーと浮体を「テンドン」と呼ばれる係留材で垂直に結び、浮体の浮力で常に張力をかけて固定する方式。浮体の上下動揺を強く抑制でき、係留材が垂直に伸びるため占有海域が小さく済みます。

大林組の試算によれば、この違いがもたらす効果は具体的です。

項目TLP型(大林組ハイブリッド)セミサブ型(鋼製)との比較
浮体建造費約25%削減
発電効率約8%向上
海域占有小さい(係留索が垂直)カテナリーは水深の約10倍の占用幅が必要

発電効率8%向上の理由は、緊張係留によって浮体の動揺が抑えられ、風車が安定して風を捉えられるからです。建造費25%削減の鍵は、後述する「ハイブリッド構造」にあります。

「ハイブリッド構造」が量産・低コストの鍵

今回のAiPの核心は、TLP型浮体に鋼製部材とコンクリート部材を適材適所で組み合わせた点にあります。これは世界初の採用です。

なぜハイブリッドがコストと量産性に効くのか。理由はシンプルです。

鋼製部材とコンクリート部材をそれぞれ別の場所で製作し、運搬後に現場の組立ヤードで接続できるためです。これにより、部材製作や施工方法の選択肢が広がり、複数の部材を同時並行で製作できます。結果として、量産化を見据えた製造体制を構築しやすくなります。

これは、前回のDeepWind記事で取り上げた国交省の港湾施設規模検討とも直結する論点です。鋼製セミサブの大組には2か月/基を要し、年間20基の日本海側では8ラインもの製造ヤードが必要でした。ハイブリッド構造で部材製作を分散・並行化できれば、この製造ボトルネックの緩和に寄与する可能性があります。

漁業との共存 ― 日本特有の制約への回答

TLP型のもう一つの強みが、漁業活動への影響の小ささです。

カテナリー係留は一般に水深の10倍程度の占用幅が必要とされます。水深200mの海域なら、1基あたりの占用幅は約2,000m(半径換算で約1km)に及びます。これは漁場との競合を生みやすい構造です。

一方、TLP型は係留索が垂直に伸びるため、占用海域を最小限に抑えられます。漁業との海面利用調整が洋上風力導入の最大の社会的ハードルの一つである日本において、これは見過ごせない優位性です。促進区域の選定や地元同意の形成において、漁業影響の小ささは実質的な推進力になり得ます。

大林組の開発タイムライン ― 着実な技術成熟

大林組のTLP開発は、一足飛びの発表ではありません。2012年から研究開発に取り組み、段階的に技術成熟度を高めてきた積み重ねの結果です。

  • 2012年: TLP型浮体の研究開発に着手
  • 2018年: 風車搭載TLP型コンクリート浮体でClassNKからAiP取得
  • 2023年: 3Dプリンター模型で設置方法の妥当性を確認
  • 2024年7月: 青森県東通村沖3kmに、国内初のTLP型浮体(15MW機の5分の1サイズ)を実海域設置し、1年間の挙動観測を開始(発表は8月27日)
  • 2024年9月: NEDO「次世代技術開発」事業に採択
  • 2026年5月: 世界初のTLP型ハイブリッド浮体支持構造物でAiP取得
  • 2028年(予定): 風車を搭載した実海域実証実験

特に2024年の実海域実証では、TLP型最大の技術課題である「設置時の一時的な不安定性」を、大型専用船を使わずに克服する独自工法(特許出願中)を確立しています。TLP型は海底油田では実績があるものの、洋上風力基礎としての施工実績がなく実用化されていませんでした。この施工技術の確立は、AiPと並ぶ重要な進展です。

まとめ ― 浮体式は「一択」ではない

大林組のTLP型ハイブリッド浮体のAiP取得は、単一企業の技術マイルストーンにとどまりません。それは、日本の浮体式洋上風力が「セミサブ一択」ではなく、複数の技術経路を持ち得ることを示すシグナルです。

コスト、発電効率、漁業共存、量産性——TLP型が訴求するこれらの軸は、いずれも日本の浮体式が直面する構造課題に正面から応えるものです。2028年の風車搭載実証が、この選択肢を「構想」から「現実解」へと押し上げられるか。DeepWindは引き続き注視していきます。

洋上風力の最新技術や今後の展望について、より幅広く知りたい方は、以下の総まとめ記事をご覧ください:
🌊 洋上風力の技術と未来:基礎から浮体式・タービン・最新動向まで総まとめ

出典:大林組プレスリリース「世界初のTLP型ハイブリッド浮体式洋上風力発電施設の基本設計承認を日本海事協会から取得」(2026年5月25日)、「国内初、洋上風力発電施設用TLP型浮体を実海域に設置」(2024年8月27日)

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