作成日:2025年11月9日|更新日:2026年6月26日
PROJECT EXECUTION「準備区域」は、再エネ海域利用法が定める区域指定の段階構造で、最初の段に位置します。促進区域(公募・入札対象)への昇格に向けて調査・協議が進む海域であり、現時点では入札対象外です。日本では2026年6月時点で17エリアが準備区域に指定されており、そのうち11エリア(65%)が浮体式を前提とした深水域案件です。この構成は偶然ではありません。着床式に適した比較的浅い海域の多くはすでに有望区域・促進区域へ昇格しており、準備区域に残るのは技術的・制度的な準備がより複雑な海域が中心です。
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準備区域の制度的位置づけ ― 指定ラダーのどこにあるのか
再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)は、洋上風力の海域利用を段階的に整理するための区域指定制度を設けています。区域指定は大きく以下の三段階に分かれます。
- 促進区域:公募・入札の対象となる区域。長期海域占用(原則30年)が付与され、事業者選定後に建設・運転が可能です。現在12エリアが指定されています。👉 促進区域プロジェクト一覧
- 有望区域:環境調査・漁業協議・系統接続確認が一定程度進み、促進区域への昇格候補として国が選定したエリアです。現在9エリアが指定されています。👉 有望区域プロジェクト一覧
- 準備区域:洋上風力開発の候補として基礎的な調査・整理が進んでいる段階のエリアです。有望区域・促進区域の前段階に位置し、現時点では入札対象外です。本記事の対象。
準備区域の指定は、「将来の公募に向けた政策的なパイプライン表明」という性格を持ちます。エリア指定自体が事業採算性や事業化タイミングを保証するものではなく、環境アセスメントや利害関係者協議の開始を意味します。上位区域への昇格は、個別エリアの技術・制度・経済条件の整備を経て判断されます。
準備区域の指定は占用許可でも事業承認でもありません。制度が担うのはエリアの「候補認定」と環境調査の開始です。調達価格・系統制約・コスト採算性といった事業成立の実質的な条件は、制度の枠外に存在します。
準備区域プロジェクト一覧
以下は、2026年6月時点でMETI・MLITが公開している情報に基づく準備区域エリアの一覧です。※ 情報は随時更新されます。
再エネ海域利用法における「促進区域」・「有望区域」・「準備区域」の全プロジェクトの概要と最新の進捗について確認したい方は、全国洋上風力プロジェクトマップをご覧ください。
| 海域 | 技術方式 | 詳細 |
|---|---|---|
| 北海道岩宇・南後志地区沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 北海道島牧沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 青森県陸奥湾 | 着床式 | — |
| 岩手県久慈市沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 千葉県旭市沖 | 着床式 | — |
| 東京都大島町沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 東京都新島村沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 東京都神津島村沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 東京都三宅村沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 東京都八丈町沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 富山県東部沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 福井県あわら市沖 | 着床式 | — |
| 和歌山県沖(東側) | 着床式 | — |
| 和歌山県沖(西側・浮体) | 浮体式 | — |
| 佐賀県唐津市沖 | 着床式 | — |
| 長崎県五島市南沖(浮体) | 浮体式 | — |
| 鹿児島県いちき串木野市沖 | 着床式 | — |
再エネ海域利用法における「促進区域」・「有望区域」・「準備区域」の全プロジェクトの概要と最新の進捗について確認したい方は、全国洋上風力プロジェクトマップをご覧ください。
内訳:浮体式 11エリア(65%)、着床式 6エリア(35%)。出典:METI・MLIT 公開資料(2026年6月時点)、DeepWind分析。
浮体式集中の構造的背景 ― 深水域の現実
準備区域に浮体式が多い理由は、適地の「選別」が進んでいるからです。日本の沿岸海域のうち、水深50m以内で大規模な洋上風力開発に適した海域は限られています。そのような着床式の好適エリアは、すでに有望区域・促進区域へと組み込まれてきた結果、準備区域に残るエリアの多くは水深が深く、浮体式技術を前提とする必要があります。
東京都島嶼部の5エリアは、この傾向を特に明確に示しています。伊豆諸島は本土から100km以上離れており、現在の系統接続は離島専用の小規模電力システムに依存しています。大型の浮体式洋上風力を導入するためには、発電電力の本土送電か離島内消費かというエネルギーシステム設計の選択と、それぞれのコスト構造の整理が先行条件となります。
長崎県五島市南沖(浮体)は、五島市沖に既存の16.8MW浮体式実証プロジェクト(促進区域)が稼働している海域に近接します。実証エリアとの地理的連続性は、将来的なデータ蓄積と技術的学習効果の観点から、このエリアの昇格ポテンシャルを高める要因の一つです。
コスト面では、日本の洋上風力コスト構造と経済性を読み解くにおいて整理しているとおり、浮体式のCAPEXは着床式(JWPA推計 約90万円/kW)を大幅に上回る水準にあります。この格差が、準備区域エリアの上位昇格と事業採算性確保における構造的なハードルとなっています。
浮体式洋上風力の技術的な基礎については、👉 浮体式洋上風力の完全ガイド:市場・コスト・制度・事業性を構造で読み解く を参照してください。
準備区域の浮体式エリアがプロジェクトファイナンスの対象となるためには、P90エネルギー収量の予測精度と比較可能な設置実績データが必要です。五島市沖の実証データ蓄積とNEDOフェーズ2デモ(2029年稼働目標)の完成が、この条件を前進させる最も直接的な経路です。現状では浮体式洋上風力においてDSCR ≥1.35xを達成できるプロジェクトファイナンスの設計は困難であり、準備区域エリアのファイナンス適格性は2030年代前半以降の評価課題となります。
準備区域は「将来への布石」ですが、その石を打ち込む条件はまだ整っていません。
準備区域の17エリアは、日本の洋上風力パイプラインにおける第3層です。促進区域でFID(最終投資決定)未到達という課題が足元で山積する中、2段階後退した準備区域への議論は優先順位が低く見られがちです。
しかし、65%が浮体式という構成比は、日本の洋上風力の中期的な方向性を映しています。着床式の好適エリアが順次上位区域に取り込まれる中、次世代の量産パイプラインは必然的に深水域・浮体式へとシフトします。準備区域は、その「将来の量産ステージ」の供給源(リザーバー)として機能すべき海域群です。
問題は時間軸とコスト構造です。現状の浮体式CAPEXが着床式を大幅に上回る構造が変わらなければ、準備区域エリアが有望区域・促進区域へ昇格したとしても、事業採算性ラインに届くプロジェクトは限られます。DeepWindが注目するのは、浮体式コスト低減ロードマップの進捗と系統接続条件の整備が、いつ・どのエリアで準備区域の「解凍」を可能にするかという問いです。東京都島嶼部とEEZ近接エリアには、離島エネルギー政策という別の政策目的が重なる点でも、制度的な優先付けの観点から引き続き注目します。
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