作成日:2026年8月25日|更新日:2026年10月4日
TECHNOLOGY & SYSTEMS
経済産業省は2026年8月6日、風車の雷対策のルールを改正しました。対象は発電用風力設備の技術基準の解釈で、法令が求める安全の水準を、具体的に何をすれば満たすかまで書き下したものです。改正後は、風車に雷が落ちたかどうかを常に把握できる状態が求められ、把握できなければブレード内部を内視鏡で点検します。その後、秋田県男鹿市で4月に起きたブレード破損事故の最終報告が9月25日に出ました。原因の雷は記録されていましたが、風車を止める基準の300クーロンを下回っていました。毎月の見回りも、回ったままのブレードを肉眼で見るだけでした。経産省は9月28日、全国の設置者に、月例巡視は風車を止めて望遠鏡やドローンで確かめるよう求めました。止める基準の数字は、今も各社に委ねられています。
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「装置を付ければ足りる」から「雷撃があったかどうかを把握できている状態にする」へ変わりました。手段が自由になったぶん、把握できなかったときの内視鏡点検が事業者に残ります。
男鹿の事故を起こした雷は129クーロンで、自動停止の基準は300クーロンでした。8月の改正が埋めた「装置が止まっていた期間」とは別の時期の雷です。記録があっても、止める基準と見方が合っていなければ損傷は見逃されます。
全国の設置者に、保安規程の見直しが求められました。点検の回数を増やす話より、見方を変える話です。一方で、何クーロンで止めるかという数字は今回も示されず、各社が決めて説明することになります。
装置を付ける義務から、把握できている状態にする義務へ(8月6日改正)
改正されたのは第7条第6項第一号イの(ハ)と(ニ)です。条文の前後を並べると、変化の性質がはっきりします。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2026年8月6日) |
|---|---|---|
| (ハ)引下げ導体 | 雷撃電流を安全に地中へ流す引下げ導体(ブレードの先端で受けた雷の電流を地面まで導く電線)等を施設すること | 同左に加えて、ブレードに炭素繊維強化プラスチック等の導電性を有する材料を使用する場合には、当該材料と引下げ導体等とを適切に電気的に接続すること |
| (ニ)雷撃の把握 | 風車への雷撃があった場合に直ちに風車を停止することができるように、落雷検出装置等を施設すること | 雷撃の有無を常に把握できるように、落雷検出装置等の施設、監視カメラの施設、気象情報の利用その他の措置を講じること。把握できなかった場合は、ブレード内部の内視鏡を用いた点検等により損傷の有無を確認すること。なお運転中は、雷撃があった場合に直ちに停止できるよう落雷検出装置等を施設すること |
(ニ)の書き換えが本体です。旧規定が求めていたのは装置の設置でした。装置があれば要件は満たされ、その装置が動いていたかどうかは別の話でした。新規定が求めているのは把握できている状態です。何で把握するかは問われません。かわりに、把握できていなかった時間があれば、そこで何かが起きた可能性を消すための点検が要ります。
最後の一文にも注意が要ります。「なお運転中は、雷撃があった場合に直ちに停止できるよう落雷検出装置等を施設すること」は、当初の改正案にはありませんでした。「常に把握するには2つ以上の措置が必要という理解でよいか」という趣旨の意見が複数寄せられ、それを受けて追記されたものです。運転中は従来どおり装置が要り、新しい自由度は主に停止中と停電中の話だと読めます。
改正の背景について、経産省は意見への回答で、4月に破損した風車では運転停止中に落雷検出装置が作動していない期間があり、その間の雷撃の有無を把握できていなかったと述べています。風車が止まっているあいだ、検知の仕組みも一緒に止まっていたということです。改正は、この空白を埋めるために書かれました。
この事故は、2025年5月の秋田の事例に続く2件目でした。同じ機種、同じ保守管理会社という条件の重なりについては、当時の記事で整理しています。
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8月の改正で残った空白:閾値も、既設の扱いも、事業者側に降りた
意見公募には44件が寄せられました。回答を読むと、経産省が決めたことと、意図的に決めなかったことがきれいに分かれます。
| 論点 | 事業者側の求め | 経産省の回答 |
|---|---|---|
| 「雷撃」の定義 | 検知できる雷撃は1日に数十回起きることもある。クーロン値の閾値を示してほしい | 閾値は示さず。設置者が設備の構造や雷の特性を踏まえて閾値を決め、保安規程(事業者が自ら定めて国に届け出る保安のルール)で点検内容を明確にする運用は、根拠が合理的であれば妨げない |
| 既設設備への適用 | 適用の有無、対象範囲、経過措置や猶予期間を明示してほしい | 解釈に遡及適用(過去にさかのぼって適用すること)という考えはないとしつつ、各設置者が省令(法律の下で経産省が定める規則)に照らして十分な保安水準を確保する対応を取ることを想定、と回答。猶予期間の明示はなし |
| 気象データ | 気象庁の落雷評定データを無償開示してほしい。ナウキャストは画像データでAPIが整備されていない | 気象情報が必要であれば自身で入手するように、との整理 |
| 対象範囲 | 一定の単機出力以上、または生活圏に立地するものに限定してほしい | 限定は行わず |
いちばん効くのは1行目です。何を「雷撃」と数えるかが決まらなければ、どの時点で点検が必要になるのかも決まりません。事業者が自分で閾値を置き、その根拠を説明できるようにしておく、という形になりました。手段の自由と引き換えに、説明責任が現場へ移ったということです。既設設備についても、遡及適用はしないという言葉と、省令に照らした対応は求めるという言葉が同時に置かれたままで、その幅は当面、各社が自分で埋めることになります。
意見の中には厳しい指摘もありました。事故を起こした事業者は毎月点検をしていたのだから、点検の周期を変えても再発防止にはならないという趣旨のものです。経産省は、今回の改正は雷撃から風車を守る措置の実効性を高めるためのもので、今後の原因究明や他の事故から得られる知見も踏まえて必要な対応を行う、と答えました。8月の時点で、この論点は開いたままでした。
9月25日の最終報告:雷は記録されていたが、止める基準の下だった
9月25日、事故を起こした風の王国・男鹿風力発電所(秋田県男鹿市、1,870kW×4基)の設置者が、経産省の作業部会(電気設備自然災害等対策ワーキンググループ)に最終報告を出しました。原因の雷は、8月の改正のきっかけになった空白期間(2025年8月5日〜2026年1月14日)の外にありました。
2026年3月20日、レセプター(ブレード表面に埋め込み、雷を受け止める金属部品)ではない場所に、129クーロンの雷が落ちました。クーロンは、雷が運んだ電気の量を表す単位です。雷はブレードの外板を貫き、内部での放電と圧力の上昇で、先端の接合部などが弱くなりました。
落雷検出装置は、この雷を記録していました。ただ、自動で風車を止める設定が「±100kAまたは300クーロン」で、129クーロンはその下でした。風車は止まらず、落雷後の点検もありませんでした。その後の月例巡視点検(毎月の見回り)は、風車を回したまま、肉眼で見るものでした。損傷は見落とされ、4月12日、落雷後で最も強い風の力がかかったときにブレードは折れました。
8月の改正は、装置が止まっていた時間を埋めるものでした。最終報告が示したのは、装置が動いて記録もしていた時期の事故です。記録を途切れさせないだけでは、この事故は防げなかったことになります。足りなかったのは、記録をもとに止める基準と、損傷を見つけられる見方でした。
9月28日の要請:月例巡視は止めて、道具で見て、記録する
最終報告の3日後、経産省電力安全課は全国の風力発電の設置者に文書を出し、保安規程を見直すよう求めました。法令は変えずに要請の形をとり、必要なら保安規程の変更を届け出るよう求めています。男鹿で起きていたこと、設置者の再発防止策、全国への要請を並べると、次のようになります。
| 項目 | 男鹿で起きていたこと | 設置者の再発防止策(9月25日) | 経産省の要請(9月28日・全設置者) |
|---|---|---|---|
| 止める基準 | ±100kAまたは300クーロンで自動停止。129クーロンでは止まらず | ±1kAまたは1クーロンへ下げる(装置で設定できる下限) | 止める雷撃の水準を適切に決める。検出装置がない風車は、気象情報で雷が近づく前に止める等の代わりの対策を定める |
| 落雷後の点検 | 行われず | ±20kAまたは50クーロン以上で、保守会社がブレードを点検(導通測定を含む) | 止めた後に、雷による損傷や異常がないかを点検する |
| 月例巡視 | 回ったままのブレードを肉眼で見る | 風車を止め、望遠カメラかドローンの画像で確かめる | 前回の点検以降に新たな雷の可能性がない場合を除き、止めて、望遠鏡・望遠カメラ・ドローン等でブレード表面を確かめ、記録を残す |
| 数値の基準 | なし | 1クーロン・50クーロンを自社で設定 | 示さず |
この表は、8月に開いたままだった指摘に答えています。男鹿でも、月例巡視は行われていました。変えるべきだったのは、回数より見方のほうでした。要請が求めているのは、止めること、道具を使うこと、記録を残すことの3つで、どれも巡視の中身を変えるものです。
そのうえで、止める基準の数字は今回も示されませんでした。男鹿の設置者は装置の下限の1クーロンを選びましたが、全国の風車にとっての水準は、各社が保安規程に書くことになります。8月の改正で事業者側に降りた線引きは、9月の要請のあとも事業者側にあります。
ブレード事故29件のうち14件が雷:外から見るだけでは届かない損傷
なぜ雷にここまで手当てが集まるのか。経産省が事故報告をもとにまとめた集計では、2021〜2025年度の風車のブレード破損は29件で、そのうち14件(48%)が雷によるものでした(2025年度は速報値)。レセプターを備えていてもブレードの表面に雷が落ちた事例が多い、とも整理されています。男鹿の型そのものです。
ただし、止めて望遠鏡やドローンで見ても、表面に出てこない損傷があります。経産省は同じ資料で、製造時の不良に由来する事故を分析する中で、ブレードの亀裂やはがれは外観の点検だけでは兆しをつかみきれない場合がある、と指摘しています。男鹿の設置者が、ロープアクセス(作業員がロープで降りて作業する方法)やドローンによる導通測定を加えたのはそのためです。導通測定とは、雷の電流を地面へ逃がす電線が途中で切れていないかを、電気を流して確かめる検査です。異常があれば、ファイバースコープ(細いカメラ)で内部の場所を特定するとしています。
内部まで見ると、何が出てくるか。同じ型の風車の緊急点検では、9月14日時点で211基の内部を点検し、25基で引下げ導体やレセプターの接続部に腐食、すき間、溶けた跡などの異常が見つかっています。DeepWindの見方では、止めて外から見る月例巡視は最低限の線で、中を確かめる点検は別の仕組みとして回す必要があります。
1月の見立てと、その後:ドローンは要請の中に入った
2026年1月、新屋浜の事故を詳しく扱った記事で、DeepWindは制度の動きを2点予想していました。1点目のボンディング(導電性の材料と引下げ導体をつなぐこと)の明確化は、8月の改正で(ハ)に加わりました。
2点目の「ドローンやロボットカメラの活用が事実上の義務になる」は、8月の条文には入りませんでした。条文が採ったのは、開口部から中をのぞく内視鏡です。9月の要請では、月例巡視の道具として、望遠鏡・望遠カメラと並んでドローンの名前が挙がりました。位置づけは選べる道具の1つで、使うかどうかは各社が決めます。外から広く見る点検と、中をのぞく点検は、役割を分けて並ぶ形になりました。
👉 【詳細解説】新屋浜風力発電所 ブレード破損事故:なぜ「基準適合」のブレードは内部から破壊されたのか?
洋上に当てはめると:止めている時間より、止めるまでの時間
8月の改正文書にも9月の要請にも、洋上や海上という語は出てきません。どちらも陸上の事故を受けた議論です。ただし対象は発電用風力設備全体で、洋上風力もその中にあります。
陸上なら、止めて見る巡視は、発電を少しの間止めて人が見に行く話です。洋上では、ブレードを見られる位置まで目を運ぶところから手間がかかります。そこに参考になるのが、秋田洋上風力発電とKDDIスマートドローンが2026年3月23日から26日に行った実証です。能代港と秋田港の洋上風車4基を対象に、ドローンの離着陸と充電を自動で行う設備を車に載せ、事業所から遠隔で指示を出して、陸上からブレードの外観を点検しました。車が離着陸の場所に着いてから点検を終えるまで、1基あたり30分から1時間ほどでした。両社は、点検のために発電を止めている時間を減らすことを目的に挙げています。
読み方には注意が要ります。実証の対象は港の中の着床式4基で、ブレードはゆっくり回っているか、一時的に止まっている状態でした。陸上から見られるのは、飛行の条件が満たされているときに限られます。沖合の案件や浮体式で同じことができるかは、まだ分かりません。
それでも方向ははっきりしています。毎月止めて見ることが求められるなら、1回の停止にかかる費用は、止めている時間そのものより、点検を始められるまでの待ち時間で決まりやすくなります。陸上から飛ばせるドローンは、その待ち時間を縮める手段です。一方で、導通測定や内部の確認には人が風車まで行く必要が残ります。誰がこの作業を担い、どこまでを遠隔に移せるかは、7月の記事で扱った論点そのものです。
👉 洋上風力のO&Mを海洋ドローンで自動化できるか:OPEX削減とバンカビリティ
洋上で効くのは、点検を発生させない設計と、点検を短く終える体制の2つです。停止中や停電中にも雷撃を記録し続けられるなら、内視鏡点検は例外で済みます。止める基準を下げるほど停止と点検は増えるため、陸上から遠隔で外観を確かめられる手段の有無が、停止1回あたりの長さを左右します。落雷検出装置の電源や、どのクーロン値で止めるかといった地味な仕様の選択が、O&M(運転保守)の年間の手間に直結します。
8月の改正は雷撃を把握していたことの証明を事業者に求め、9月の要請はその証明に使う見方の下限を決めました。
男鹿の最終報告で分かったのは、記録だけでは事故を止められないということです。129クーロンの雷は記録されていました。それでも風車は止まらず、毎月の見回りは回ったままのブレードを肉眼で見ていました。事故を防ぐには、記録すること、記録をもとに止めること、止めた後に損傷を見つけられる見方の3つがそろう必要があります。8月の改正は1つ目を、9月の要請は3つ目を手当てしました。2つ目の止める基準の数字だけが、各社の保安規程に委ねられています。
事業者と保守会社にとって、次の論点はこの数字の置き方です。基準を下げれば安全側に寄りますが、停止と点検の回数が増えます。洋上では、その1回ごとに人と道具を運ぶ手間がかかります。どのクーロン値で止め、止めた後の点検をどれだけ短く終えられるか。その組み合わせが、これからの運転保守の費用と体制を決めていくとみられます。
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