洋上風力のコスト構造と経済性:完全ガイド(世界市場・技術解説編)

floating wind cost structure economics

はじめに

洋上風力発電は世界中で急速に導入が進んでいますが、その経済性を左右するのがコスト構造です。本記事では、世界市場における洋上風力発電のコスト構造と経済性を詳しく解説します。固定式と浮体式の違い技術別コスト差電力契約や欧州・日本市場の比較など、技術解説と経済性評価の両面からわかりやすく紹介します。

1. 洋上風力発電のコスト構造

1-1. CAPEX(資本的支出)

CAPEX Breakdown Monopile vs Jacket

洋上風力発電のコストの大部分は初期費用(CAPEX)です。風力タービンや浮体構造、送電インフラの設置費用が含まれます。

  • 風力発電設備:タービン・ナセル・ブレードなど主要コンポーネント
  • 基礎構造
    • 固定式はモノパイルやジャケット
    • 浮体式はセミサブ型やスパー型等のプラットフォーム
  • 海底ケーブル・変電設備:送電インフラも高額
  • 設置工事・輸送費:大型作業船や専用港湾が必要

➡ 詳細は「日本の洋上風力発電のコストと経済性」で解説

➡ 関連記事:浮体式洋上風力のコスト構造とLCOE

1-2. OPEX(運転維持費)

Typical OPEX Breakdown for Japans Offshore Wind

運転開始後は運営維持費(OPEX)が発生します。遠隔監視など技術革新も進んでいますが、浮体式は維持管理が比較的高コストです。

  • 定期点検・メンテナンス
  • 運営・管理費
  • 修繕・部品交換

➡ 詳細は「日本の洋上風力発電のコストと経済性」で解説

➡ 関連記事:浮体式洋上風力発電の世界的動向と開発事例

2. LCOE(発電単価)の基礎知識

Global LCOE forecast

LCOE(Levelized Cost of Energy)は発電コストの国際的指標です。CAPEX・OPEX・発電量を総合して算出され、コスト競争力を評価する際の基準になります。洋上風力は発電規模の拡大に伴いLCOEの低下が進んでいます。発電量はサイトの風況やタービンサイズに左右されます。

世界平均の風力LCOEは、3つの技術(陸上、固定式洋上、浮体式洋上)のすべてにおいて2060年まで低下し続けると見込まれています。陸上風力は低コストで広く導入が進んでいる一方で、洋上風力では入札から最終投資決定(FID)までの遅延が増加しています。

この傾向は、主要部品の納期遅延を引き起こすサプライチェーンの混乱、ナセル製造に影響を与える鉄鋼価格の変動、設置・保守に必要な熟練労働力の確保難、そして全般的なコスト上昇によって引き起こされている。(DNV, Energy Transition Outlook 2025レポートより)

➡ 関連記事:IRRとLCOEでみるラウンド4候補の勝ち筋とは?

3. 着床式 vs 浮体式:技術別コスト比較

  • 固定式は浅海域で安定した基礎構造を採用でき、施工コストも比較的低いです。
  • 浮体式は深海域でも設置可能ですが、プラットフォーム製造や係留システムの導入でコストが上昇します。

2025年時点で浮体式洋上風力の世界平均LCOEは(390米ドル/MWh)= 58.5 円/kWh (1ドル=150円換算)とされており、着床式洋上風力の(140米ドル/MWh)= 21 円/kWh (1ドル=150円換算)の約3倍とされています。これは浮体式設置に伴う技術的・物流的な課題が大きいためであり、浮体式風力はまた、設計の標準化が進んでいないことから学習効果が分散し、コスト低減が遅れているとされています。

浮体式風力のコストを着床式に近づけるためには、普及を後押しする戦略的な政策介入が必要です。これにより、技術進歩の加速、設計や製造の標準化(タービンサイズやタワー設計の統一など)、およびスケールメリットが実現し、最終的にコスト低減につながるとされています。(DNV, Energy Transition Outlook 2025レポートより)

日本でもNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、グリーンイノベーション基金事業の一環として、2025年2月から浮体式洋上風力発電の社会実装に向けた新たな研究開発を進めています。この取り組みは、日本の洋上風力産業を国際的な競争力のある産業に成長させるための重要なステップです。

➡ 関連記事:グリーンイノベーション基金事業:「浮体式洋上風力における共通基盤開発」への取り組み

4. 欧州市場と日本市場のコスト比較

欧州では港湾インフラやサプライチェーン整備が進んでおり、コスト低減が実現しています。日本は台風・地震、深い水深に対する設計が求められるため、導入コストは高止まりしています。

地域別に見ると、中国本土では、陸上風力のLCOEが欧州および北米よりも大幅に低い水準にあり成熟したサプライチェーンと低い土地・労働コストもLCOEの低さに寄与しています。欧州の着床式洋上風力のLCOEは、2030年代後半に中国と同等レベルに到達し、その後2060年に向けてさらに低下していくと予測されています。一方、北米では政策上の対立や開発停止などの短期的措置が長期的コスト上昇を招くため、LCOEは他地域に比べて高止まりする見通しです。(DNV, Energy Transition Outlook 2025レポートより)

Renewable Energy 2023 vs 2040 jp 2

経済産業省の発電コスト検証に関するとりまとめ(案)(令和7年1月24日発行)では、洋上風力(着床式)の発電コスト(LCOE)の見通しが以下の通り示されています。

  • 2023年モデル:約21.1 円/kWh (政策経費なし)
  • 2040年試算:約9.5 – 10.1 円/kWh(政策経費なし)
地域2023年2040年見通し
ヨーロッパ約75 USD/MWh = 約11.3 円/kWh約60 USD/MWh = 約9 円/kWh
日本約20円/kWh9.5 – 10.1 円/kWh

2023年時点では、着床式洋上風力では日本のLCOEはヨーロッパの約2倍大きく、大きな差はありますが、2040年では9円/kWh台と同等レベルまで低減させる見通しであることがわかります。

➡ 詳細は「日本の洋上風力発電のコストと経済性」で解説

5. 世界的なコスト低減要因と今後の展望

  • 国産化と部材調達網の確立
  • 大型風車の導入浮体式技術の進化
  • オークション制度などの政策支援

これらがコスト削減とLCOE低減の鍵となります。

風車調達費用がCAPEXの大きな部分を占めることから、2025年8月8日の洋上風力産業ビジョン(第2次)[浮体式洋上風力等に関する産業戦略]の中で、2040年までの国内調達比率を65%以上とすることを産業界の目標に定めました。

Japans Offshore Wind Domestic Procurement 2024 Goals

➡ 関連記事:日本の洋上風力発電を加速するセントラル方式:効率化と競争力強化への道

6. PPAとコーポレートPPA

洋上風力の事業性を左右する重要な要素として、電力の売却契約である PPA(電力購入契約) の仕組みが近年ますます注目されています。特に企業と発電事業者が直接契約を結ぶ コーポレートPPA は、電力価格の安定化や投資採算性の向上に寄与し、今後の普及が期待される手法です。

目的内容
再エネの直接調達発電事業者から直接電気を買い、非化石証書を取得。RE100等に対応
追加性の確保新規発電所との契約により、再エネの「追加的な」導入に貢献
コストの安定化市場価格の変動に左右されず、10年以上の固定価格で調達可能
企業ブランディング脱炭素への本気度を示し、投資家や顧客からの評価を向上

以下の記事では、日本におけるPPAとコーポレートPPAの基本、最新動向、そして再エネ拡大への影響について詳しく解説しています。

PPAおよびコーポレートPPAとは?日本の再エネ導入を支える電力契約の基本

7. 促進区域プロジェクトのコスト&収益性分析(12区域)

「再エネ海域利用法」によって選定された日本の洋上風力促進区域12エリアについて、CAPEX・OPEX・LCOE・IRRの4指標を用いた独自の収益性評価を行い、総合的に比較しています。

洋上風力プロジェクトの採算性を評価するうえで、CAPEX・OPEX・LCOE・IRR といったコスト関連指標は極めて重要です。しかし、日本の促進区域における具体的なコスト情報は、公開資料が限られており、投資家や事業者にとって判断材料が不足しているのが現状です。

そこで洋上風力の促進区域を対象に、代表地点の立地条件(離岸距離・水深・港湾距離)から、CAPEX・OPEX・LCOE・IRRを推定しました。なお、推定にはNEDOコストモデルを参照したDeepWind独自のコストモデルにて推定を行っています。

日本の洋上風力「促進区域」12エリア徹底コスト分析

評価IRR(目安)LCOE(目安)意味合い
★★★★★
非常に有望
≧ 10 %≦ 15 円/kWh投資採算性も発電効率も極めて良好。優先的に注目すべき区域
★★★★
有望
9〜10 %15〜17 円/kWh投資価値は高く、他要因(港湾・送電)次第で採算十分可能
★★★
普通
8〜9 %17〜19 円/kWh条件次第で可能性あり。コスト削減や支援策が鍵
★★
厳しい
6.5〜8 %19〜22 円/kWh採算性がやや低く、技術的・制度的支援が前提

不採算
< 6.5%> 22 円/kWh現状では難しい。抜本的な制度支援か技術革新が必要

出典:DeepWind独自の評価基準

CAPEXとは?

CAPEX(資本的支出)は、洋上風力発電の建設に必要な初期投資を指します。風車、基礎、送電設備、建設工事などが含まれ、一度に大きな費用が発生します。

OPEXとは?

OPEX(運営費用)は、運転開始後に毎年かかる維持管理費用です。保守点検、保険料、港湾利用料などが含まれ、長期的なコスト構造に大きく影響します。

LCOEとは?

LCOE(均等化発電原価)は、発電事業のライフサイクル全体での総コストを発電量で割った値です。CAPEXとOPEXを含め、再エネの競争力や経済性を比較する基準として使われます。

まとめ

洋上風力は世界的にコスト低減が進んでいますが、日本市場では依然として課題も多く残ります。固定式・浮体式それぞれの特徴を理解したうえで、経済性改善とコスト競争力向上を目指すことが求められています。

📩 DeepWind Weekly

日本の洋上風力ニュースと業界関係者の皆様の意思決定に役立つ分析を毎週無料配信でお届けします。

🎁 ご登録特典:「Japan Offshore Wind: 2025 Market Outlook(PDF・英語版)」

DeepWind Report Gift
もっと深く知りたい方へ:DeepWindの注目カテゴリーをチェック!

  • 🔍市場動向・分析 – 日本の洋上風力市場の最新動向と注目トピックをわかりやすく解説
  • 🏛️政策・規制 – 法制度、促進区域、入札制度など、日本の政策枠組みを詳しく解説
  • 🌊プロジェクト – 日本国内の洋上風力プロジェクト事例をエリア別に紹介
  • 🛠️テクノロジー&イノベーション – 日本で導入が進む最新の洋上風力技術とその開発動向を紹介
  • 💡コスト分析 – 洋上風力のLCOEやコスト構造を日本の実情に基づいて詳しく解説
上部へスクロール