はじめに
日本の 洋上風力発電コスト内訳 を理解することは、今後の導入拡大や投資判断に欠かせません。本記事では、初期投資(CAPEX)・運転維持費(O&M)・送電コスト・LCOE といった主要要素を整理し、日本におけるコスト構造を徹底解説します。さらに、他の再生可能エネルギーや海外の事例との比較を通じて、日本の洋上風力の課題と可能性を明らかにします。
本記事では特定の視点からコストを掘り下げますが、洋上風力全体のコスト構造や経済性を包括的に理解したい方は、以下のまとめ記事をご覧ください:
👉 洋上風力のコスト構造と経済性の全体像
1 初期投資(CAPEX)

初期費用(CAPEX)の内訳
日本の洋上風力は、風車本体、基礎、海底ケーブル、洋上変電設備、施工といった要素で構成され、1kWあたり約41~52万円と欧州の2倍近い水準です。
一般的な初期費用(CAPEX)の内訳は以下の通りです。(例:モノパイル基礎)
- 風車:45%
- 基礎:8%
- 施工:18%
- ケーブル類:15%
- 変電設備:2%
- その他:12%
最も普及しているモノパイル基礎では、風車調達費の割合が45%と最も大きく、次に施工費の18%が続きます。一方で、ジャケット基礎の場合は、風車→施工の順は変わりませんが、施工費が33%に増加するため、風車の割合が35%に下がるのが特徴です。
日本の初期費用(CAPEX)が海外と比較し高い理由は一般的に以下の要因があると言われています。
- 高コスト要因
- 台風・高波対策など海象条件の苛酷さ
- 風車や大型工船、部材等の国内調達不足による輸入依存
- 深い水深、長い離岸距離
2 運転維持費(OPEX)

O&Mコスト(OPEX)の内訳
- タービンのメンテナンス:約60%(最も大きな割合を占める)
- 運用サポート:約19%(2番目に大きなコスト)
- 保険費用:約11%
- BoP(バランスオブプラント)メンテナンス:約7%(海洋運用、人件費、スペアパーツ、消耗品、プロアクティブおよびリアクティブO&M、洋上変電所のO&Mを含む)
- その他:約3%(風力発電所の運用に関連する偶発事象や費用) Wood Mackenzie, 2024cより
浮体式の課題
浮体式洋上風力では更にメンテナンスが難しく、O&M費用がより割高になる傾向があります。
3 送電コスト
- 海底送電ケーブルと陸上系統増強
風力資源の豊富な北海道・東北から大消費地への送電には、HVDC(高圧直流送電)網の整備が鍵。長距離でも損失を抑えられる一方、整備費用は巨額であり、電力系統利用料や消費者料金に影響します。 - 制度設計の違い
欧州では系統事業者が敷設・負担する場合が多いのに対し、日本は事業者が一括して整備し、系統事業者へ売却する方式を採用しています。 - 遠方への設置
日本では浮体式洋上風力の設置可能範囲がEEZまで拡大されたこともあり、今後の洋上風力はより遠方へ設置(離岸距離が増える)されることが予想されます。
DNVのEnergy Transition Outlook 2025 では、風力発電所の設置場所が遠方になるにつれて、系統接続コストは2060年までに上昇する見込みであるとされています。

4 発電単価(LCOE)の現状と見通し

経済産業省の発電コスト検証に関するとりまとめ(案)(令和7年1月24日発行)では、洋上風力(着床式)の発電コスト(LCOE)の見通しが以下の通り示されています。
- 2023年モデル:約21.1 円/kWh (政策経費なし)
- 2040年試算:約9.5 – 10.1 円/kWh(政策経費なし)
- 期待される主な低減要素:
- タービン大型化(13 MW→15/18 MW級)
- 設備利用率の向上(30%→40%)
- 量産効果とサプライチェーン成熟
5 他の再生可能エネルギーとの比較

経済産業省の発電コスト検証に関するとりまとめ(案)(令和7年1月24日発行)では、他再エネ電源の発電コスト(LCOE)の見通しについても以下の通り示されています。
| 再エネ種別 | 2023年LCOE(補助除く) | 2040年見通し |
|---|---|---|
| 洋上風力 | 21.1 円/kWh | 9.5 – 10.1 円/kWh |
| 陸上風力 | 12.1 円/kWh | 10.1 – 11.6 円/kWh |
| 太陽光(事業用) | 10.0 円/kWh | 6.6 – 8.4 円/kWh |
- 太陽光(事業用)は既に10 円台、陸上風力は12 円台と、洋上風力より低コスト。
- ただし、出力変動や立地制約、系統安定化コストの要件は再エネ種別で異なる。
6 海外主要国とのコストギャップ

地域別に見ると、中国本土では、陸上風力のLCOEが欧州および北米よりも大幅に低い水準にあります。これは、過剰生産能力と激しい国内競争によりタービン価格が実勢よりも過小評価されていることが主因であり、このような低価格は長期的には持続不可能と見られます。また、中国本土では成熟したサプライチェーンと低い土地・労働コストもLCOEの低さに寄与しています。
欧州の固定式洋上風力のLCOEは、2030年代後半に中国と同等レベルに到達し、その後2060年に向けてさらに低下していくと予測されます。浮体式洋上風力も同様の傾向を示しますが、より緩やかなペースと見込まれます。
一方、北米では政策上の対立や開発停止などの短期的措置が長期的コスト上昇を招くため、LCOEは他地域に比べて高止まりする見通しです。(DNV, Energy Transition Outlook 2025レポートより)
上記のグラフから、2023年と2040年のヨーロッパのLCOEを読み取り日本のLCOEを比較してみると、2023年時点では、日本のLCOEはヨーロッパの約2倍となり大きな開きはありますが、2040年では9円/kWh台と同等レベルまで低減させる見通しであることがわかります。
| 地域 | 2023年 | 2040年見通し |
|---|---|---|
| ヨーロッパ | 約75 USD/MWh = 約11.3 円/kWh | 約60 USD/MWh = 約9 円/kWh |
| 日本 | 約20円/kWh | 9.5 – 10.1 円/kWh |
7 政策目標と今後の展望

政府は2020年12月15日の洋上風力産業ビジョン(第1次)の中で2030年までに累計10 GW、2040年45 GWの目標を掲げました。また、2025年8月8日の洋上風力産業ビジョン(第2次)[浮体式洋上風力等に関する産業戦略]の中で、2024年までに15GW以上の浮体式洋上風力の案件を形成するとともに、2040年までの国内調達比率を65%以上とすることを産業界の目標に定めました。

この目標達成に向けて、風車主要製品の国内製造拠点の形成や、港湾または系統面の整備、政府による財政支援など、技術・制度両面の低減策を同時推進させる必要がありそうです。
まとめ
日本の洋上風力コストは現在高水準にありますが、政府・産業界による技術革新と制度設計、サプライチェーン強化によって、今後10~15年で世界水準に並ぶ大幅なコスト低減が期待されています。2050年に向けたカーボンニュートラル達成へ、洋上風力は日本のエネルギー転換を加速する重要な柱となるでしょう。
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