日本は浮体式洋上風力の分野で大きな進展を遂げようとしています。その象徴的なプロジェクトの一つが、長崎県五島市沖で進められている「五島市沖浮体式洋上風力発電事業」です。この画期的な取り組みは、日本の洋上風力発電技術の革新と持続可能なエネルギーへの取り組みを示しています。本記事では、プロジェクトの規模、実施内容、地域経済や環境への影響について詳しく解説します。
他の促進区域の動向もあわせて把握したい方は、全国の洋上風力プロジェクトまとめをご覧ください。
1. プロジェクト概要
プロジェクト名 | 長崎県五島市沖浮体式洋上風力発電事業 |
開発事業者 | 五島フローティングウィンドファーム合同会社 |
コンソーシアム | 戸田建設、ENEOS、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力 |
設置場所 | 長崎県五島市沖 |
発電方式 | 浮体式洋上風力発電(ハイブリッドスパー型、三点係留システム) |
風車機種 | 日立製作所 |
供給価格 | 36 円 / kWh |
発電容量 | 16.8 MW (2.1 MW × 8基) |
建設開始 | 2020年7月 |
運転期間 |
1-1. 運転開始時期の変更について
当初、このプロジェクトの運転開始(COD: Commercial Operation Date)は2024年1月に予定されていました。しかし、建設中に浮体構造に欠陥が発見され、施工の遅延が発生しました。そのため、戸田建設は2026年1月へのCOD変更を申請し、2023年9月22日に経済産業省(METI)より承認を受けました。
2. 設置場所
2-1. 海域・地理的特徴
五島列島・福江島の崎山沖合約7~11kmに位置、水深120~135mの海域。日本初の商用規模浮体式案件で、台風の通り道に当たる海況を想定した設計。
2-2. 港湾インフラ・系統接続
福江港に建造ヤードを設置し浮体を製作・進水。海底ケーブルで五島から九州本土送電網へ連系計画。大型クレーン船など浮体据付専用工材を投入。

3. 風力発電設備の概要

出典:METI公開資料(長崎県五島市沖における洋上風力発電事業の概要)
4. プロジェクトスケジュール

プロジェクトの開発は主に4つのフェーズで構成されます。
開発フェーズ (2016-2022)
- 環境影響評価、風況、波浪、海底地質調査
- FIT 承認および許可プロセス
- 地元関係者説明・同意プロセス
- 2021年6月:選定事業者決定
- 2022年6月:工事計画届
建設フェーズ (2020-2025)
- 2020年7月:陸上建設工事スタート
- 2022年7月:洋上建設工事スタート
- 2025年:風車組立および据付
運転・ メンテナンスフェーズ (2026-2043)
- 風車:遠隔監視と直接確認による定期検査と修繕修理
- 浮体:浮体本体や係留設備等の点検
風車撤去 & 再発電フェーズ (2043-2051)
- 2043年1月:撤去工事
- 2051年:促進区域海域占有期間終了
5. CAPEX & OPEX 推定 (NEDOモデルに基づく)
資本支出(CAPEX)と運用支出(OPEX)を、最新のNEDO洋上風力発電コストモデルに従い推定しました。
五島市沖浮体式洋上風力発電事業の資本支出(CAPEX)の推定は約86億円で、運用コスト(OPEX)は年間約2億円と推定されます。
📌 CAPEX 内訳
資本費の構成 | 推定費用 (億円) |
---|---|
風車 | 28 |
浮体 & 係留 & アンカー | 30 |
施工 | 21 |
変電所 & 系統接続 等 | 7 |
合計 | 86 |
6. プロジェクトの主な特徴
6-1. 革新的な技術
このプロジェクトでは、ハイブリッドスパー型浮体式プラットフォームを採用しており、深海や台風が多発する地域でも安定した運転が可能です。各風力タービン(2,100kW)は最先端の技術を活用し、高い効率性と耐久性を備えています。
6-2. 建設計画
製造工程:
• 鋼製部品は長崎県内の造船所で製造され、海洋工学の技術を活用。
• コンクリート製の浮体部品は地域の建設会社と連携し、コスト削減と地元経済への貢献を図る。
組立・設置:
• 五島市福江港で部品を組み立て、沖合の指定地点に輸送・設置。
6-3. 経済・地域への影響
このプロジェクトは、地域経済の活性化にも貢献します。
• 地元企業からの建設資材やサービスの調達
• 建設・運用フェーズにおける雇用創出
• 地域のサプライチェーンや海洋インフラの強化
6-4. 環境・社会との共生
本プロジェクトでは、環境への影響を最小限に抑えるため、以下のような取り組みを行っています。
• 海洋生態系(魚類や海鳥の生息状況)に関する継続的な環境モニタリング
• 地元の漁業関係者やステークホルダーとの協力による、海洋活動との共存策の策定
まとめ
五島市洋上浮体式風力発電プロジェクトは、日本の「2050年カーボンニュートラル」戦略の一環として位置付けられています。このプロジェクトは、浮体式洋上風力発電のモデルケースとして投資を呼び込み、今後他の地域での導入を加速させる可能性があります。最先端技術、地域との協力、環境保全の観点を取り入れながら、持続可能でエネルギー自立型の未来に向けた重要な一歩を踏み出しています。
他の「促進区域」との比較や全国の動向については、全国の洋上風力プロジェクトまとめもぜひご参照ください。
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