第1ラウンド洋上風力は、なぜ撤退に至ったのか―METI公式分析から読み解く制度設計の限界と教訓

Offshore wind round1 withdrawal meti analysis 2

はじめに

2025年12月23日、経済産業省および国土交通省は、日本の洋上風力発電・第1ラウンド公募案件について、撤退に至った要因を分析した公式レポートを公表しました。

このレポートの重要性は、特定の事業者の経営判断を検証することにあるのではありません。むしろ、日本の洋上風力制度が、初期案件を最後まで完遂させる設計になっていたのかを、政府自身が振り返っている点にあります。

本記事では、METIの公式分析をベースにしつつ、DeepWindの視点から「何が起き、なぜ起き、今後何が変わるのか(あるいは変わらないのか)」を整理していきます。

本記事では個別テーマを取り上げますが、日本の洋上風力政策・制度の全体像を俯瞰したい方は、以下の総まとめ記事もあわせてご覧ください:
👉 日本の洋上風力政策・規制の全体像:制度設計・法律・支援策の徹底解説

なぜ第1ラウンド撤退は「制度問題」として整理されたのか

第1ラウンドで選定された3海域(秋田・由利本荘・銚子)は、いずれも同一コンソーシアムが落札し、その後すべてが撤退に至りました。

この結果を受けて政府は、単なる事後報告にとどまらず、

  • 公募時の評価制度
  • 価格と事業実現性のバランス
  • 公募後の事業環境変化への耐性

といった、制度そのものの設計思想を検証対象としました。

これは、第1ラウンドを「過去の失敗」として終わらせるのではなく、今後の制度設計に活かすための整理として位置づけていることを意味します。

制度設計の核心①:価格点が結果を支配した構造

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出典:METI公表資料より

METIの分析で特に明確になっているのが、価格点の影響力の大きさです。

第1ラウンドでは、

  • 価格点:120点
  • 事業実現性点:120点

という、一見するとバランスの取れた配点が採用されていました。

しかし実際には、

  • 価格点の差は30点以上
  • 事業実現性点の差は10点未満

という結果となり、事業実現性で上回っていても、価格差を覆すことはできない構造になっていました。

結果として、「最も低い価格を提示した事業者が勝つ」制度になっていたことが、公式に整理されています。

制度設計の核心②:「事業実現性」評価の限界

次に課題として指摘されているのが、事業実現性評価の粒度の粗さです。

事業実現性評価には、

  • 財務・収支計画
  • スケジュール
  • リスクの特定と対応
  • 技術・施工計画

など、事業完遂に不可欠な要素が含まれていました。

しかし、これらが広いカテゴリとしてまとめて評価された結果、多くの応募者が「ミドルランナー」評価に集中することになりました。

METIの分析では、財務の強靭性や感度分析、資金調達の確度といった要素について、より精緻な評価が難しかった可能性が示唆されています。

コスト上振れは、本当に「想定外」だったのか

撤退理由として最も大きく挙げられているのは、建設費用の大幅な上昇です。

レポートでは、

  • インフレの進行
  • 円安
  • サプライチェーンの逼迫
  • 公募選定後の海底地盤調査等による設計・施工方法の見直し

といった複合要因により、建設費用が公募時の想定を大きく上回ったことが整理されています。

ここで重要なのは、外的ショックそのものよりも、固定価格を前提とした収入構造の下では、コスト上振れが直接的に事業採算性を圧迫したという点です。

制度対応も含めて検討した上での「事業者判断」

今回のレポートでは、事業撤退に至る過程において、

  • FIP制度への移行
  • 価格調整スキーム
  • 海域占用期間の予見可能性確保

といった制度面での対応策も含めて検討が行われたことが示されています。

その上で、事業者としては、これらの施策を踏まえても事業採算性を確保することは困難であるとの判断に至った、という整理がなされています。

つまり、本件撤退は、制度対応の検討を経た上での事業者判断として位置づけられています。

DeepWindの視点:Round 2–4では同じことは起きないのか

では、この問題はすでに過去のものなのでしょうか。

DeepWindの視点では、構造的なリスクの一部は、現在も残っていると考えています。

  • 価格競争が依然として強いこと
  • コスト不確実性が完全には解消されていないこと
  • 完遂可能性をどう評価するかという課題が残っていること

制度は確実に改善されつつある一方で、「最も安い案件」ではなく「最後まで完遂できる案件」をどう選ぶかという問いは、今も重要なテーマです。

おわりに

今回のMETIレポートは、第1ラウンドを批判するためのものではありません。

むしろ、

  • 制度はどこまで市場リスクを吸収すべきか
  • 公募では何を最優先で評価すべきか
  • 洋上風力を実装産業として定着させるには何が必要か

といった問いに向き合うための、重要な基礎資料です。

Round 2、3、4、そして今後の再公募や制度見直しを考える上で、本レポートは今後も参照され続ける存在になるでしょう。

参考資料

本記事は、以下の経済産業省・国土交通省による公式資料をもとに構成しています。

・経済産業省 資源エネルギー庁/国土交通省
 「洋上風力発電に係る第1ラウンド公募事業の撤退要因等の分析」(2025年12月23日)

日本の洋上風力を取り巻く制度や法律、支援策の全体像をさらに詳しく知りたい方は、こちらのまとめ記事をご参照ください:
🌊 日本の洋上風力政策・規制の全体像:制度設計・法律・支援策の徹底解説

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