Published: 4月 24, 2026
Last updated: 4月 29, 2026
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2026年4月22日、第100回広域系統整備委員会を開催し、2050年に向けた広域系統整備の長期展望(いわゆる広域系統マスタープラン)のレビューに用いるシナリオ設定、および需要・電源のエリア配賦について整理しました。2023年3月に策定された現行の長期展望(第2次広域系統長期方針)は、第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)や2025年度供給計画の取りまとめを踏まえて前提条件が大きく動いており、今回のレビューはその影響範囲を定量化する作業の前提を固める位置づけとなります。
洋上風力の観点から見ると、今回の整理のポイントはシンプルです。電源側の設備量は現行の長期展望から据え置き(洋上風力45GWを含む)とし、需要側のエリア配賦をデータセンター・半導体・水素製造・DACの4要素で動かすことで、系統増強規模の幅を検証するという枠組みです。電源の地理的分布は変えず、需要がどこに立地するかで連系線潮流と増強シナリオが分岐する構図となります。
本記事では個別テーマを取り上げますが、日本の洋上風力政策・制度の全体像を俯瞰したい方は、以下の総まとめ記事もあわせてご覧ください:
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概要
今回の委員会資料(資料2)の要点は以下の5点です。
- 需要前提:将来の電力需給シナリオの2050年12,500億kWhモデルをベースシナリオとして採用
- シナリオ構成:ベースシナリオに加え、「電源立地地域への需要誘導が進展するシナリオ」と「同・限定的なシナリオ」の計3本を設定。電源のエリア配賦は各シナリオ共通とし、需要側のみを動かす設計
- 可変要素:シナリオ間で変化させる需要要素は、データセンター、半導体、水素製造、DACの4要素。将来増加分が大きく、立地の影響が系統潮流に直結する需要に絞り込み
- 電源設備量:太陽光260GW、陸上風力41GW、洋上風力45GW、原子力37GW、蓄電池24GWなど、第7次エネ基・国の審議会での政策的議論を反映
- 感度分析:再エネ電源(太陽光・陸上風力・洋上風力)の一部を需要比率で配置した場合、および蓄電池設備量を変化させた場合の感度分析を実施。加えて、将来の電力需給シナリオでの再エネ値(洋上風力28GW等)を用いた結果も参考として提示
3シナリオの設計思想:電源ではなく需要で幅を作る
現行の長期展望と今回レビューで共通するのは、「需要と電源のアンバランスの度合い」によって系統増強規模が決まるという考え方です。需要と電源が地理的に離れているほど、両者を結ぶ連系線・基幹系統の増強が必要になります。シナリオの幅は、このアンバランスがどれだけ解消されるか、あるいは継続するかで設計されています。
今回設定された3シナリオの位置づけは次の通りです。
- ベースシナリオ:政策誘導等により、需要と電源のアンバランスが一定程度解消されるシナリオ。将来の電力需給シナリオのエリア配賦をそのまま採用
- 電源立地地域への需要誘導が進展するシナリオ:GX戦略地域の議論等を踏まえ、データセンター等が電源立地地域に誘導される前提。アンバランスはベースシナリオよりさらに縮小
- 電源立地地域への需要誘導が限定的なシナリオ:政策誘導が限定的で、需要が過去の需要実績比率に沿って増加する前提。アンバランスは継続
重要なのは、電源のエリア配賦を各シナリオで共通としたことです。現行の長期展望も同じ設計ですが、今回あえて踏襲する意図ははっきりしています。系統増強規模の感度分析で「需要立地政策が系統整備に与える影響」だけを切り出すためで、電源と需要の両方を動かすとどちらの影響か識別できなくなってしまうからです。
ベースシナリオの需要配賦:東京への集中は残る
ベースシナリオで採用された2050年12,500億kWhのエリア別配賦では、東京4,350億kWh、関西1,930億kWh、中部1,850億kWhの上位3エリアで全体の65%を占めます。一方、北海道610億kWh、四国310億kWh、北陸330億kWhは合計でも10%程度にとどまります。現行の需要実績を反映した配分であり、首都圏集中の構造は2050年時点でも解消されない想定です。
特に注目したいのがデータセンターの配賦です。合計1,400億kWhのうち東京が850億kWh(61%)、次いで関西230億kWh、中部140億kWhとなり、首都圏・中京・関西の3大都市圏に集中します。これは2035年度の供給計画における個別計上値をベースに推計したもので、地方分散政策(ワット・ビット連携関連実証事業等)を織り込む前の姿といえます。半導体は北海道90億kWh、九州100億kWh、中国80億kWhと電源立地地域寄りの分布となっており、TSMC熊本やラピダス北海道など足元の産業立地を反映した形です。
水素製造100億kWhとDAC100億kWhは、いずれも再エネ拡大余地の大きい北海道・東北に全量配分されています。これは現行の長期展望における「需要立地誘導シナリオ」の考え方をベースにそのまま取り込んだ形です。
連系線潮流の試算:東京向き潮流の増加
委員会資料では、ベースシナリオ(増強前)で連系線潮流の試算結果も示されました。現行の長期展望からの変化要因は、2段階に分けて整理されています。
第1段階は燃料費・CO2対策コストのメリットオーダーの変化です。レビューでは石炭の総燃料費がLNG(MACC・ACC)を上回る前提となり、中部・関西エリアのLNGが広域的に取引される形になります。その結果、東京エリア向き、および中国・九州エリア向きの潮流が増加する傾向が確認されました。
第2段階として、需要・電源の設定等も変化させると、東京エリアへの需要配賦が約400億kWh増加したことに伴い、東京エリア向きの潮流がさらに押し上げられる結果となりました。この「東京向きに流れ込む構造」は、東北から東京への大容量連系線の価値がシナリオを通じて高止まりすることを示唆しています。
洋上風力への含意:45GWは据え置き、28GW参考値の意味
電源側で洋上風力事業者が最も注視すべき点は、設備量45GWが現行の長期展望から変更されず据え置かれたことです。これは官民協議会の導入目標(2030年までに10GW、2040年までに30〜45GW、うち浮体式15GW以上)を正面から反映した数字で、第7次エネ基の基調とも整合します。系統整備の前提として45GWを置き続けることは、発電事業者・EPC・ファイナンス側にとって相応の予見性を与えるものです。
一方で今回、OCCTOは将来の電力需給シナリオでの再エネ値(太陽光180GW、陸上風力14.5GW、洋上風力28GW)を活用した結果を「参考」として示すこととしました。資料中で明示されている通り、将来の電力需給シナリオは長期脱炭素電源オークション等の円滑実施や計画的な電源開発のための参考材料であり、エネルギー基本計画との整合を必ずしも前提としていません。一方、広域系統整備に関する長期展望はエネルギー基本計画と整合する「あるべき姿」を示すものです。
この使い分けは重要です。45GW前提と28GW前提では、同じ系統でも増強規模・コスト・混雑状況の評価結果が相当程度異なる可能性が高いためです。両者を並行して示すことで、政策目標(45GW)と技術検討会社想定に基づく市場均衡推計(28GW)のギャップが、系統計画という具体的な増強判断の文脈で可視化されます。事業者側から見れば、目標達成に必要な系統整備コストが、市場均衡値からどの程度乖離するかを読み取る材料になります。
また、感度分析として「再エネ電源(太陽光・陸上風力・洋上風力)の一部を需要比率で配置した場合」が設定されていることも留意点です。洋上風力は海域の物理制約があるため需要地併設は現実的ではありませんが、感度分析は「もし需要地寄りに電源が立地していたら」という思考実験として、北海道・東北・九州といった洋上風力ポテンシャルの高い地域から東京・関西方面への送電負荷を相対化する材料となります。
今後のスケジュール
OCCTOは今回整理した前提条件をもとに系統シミュレーションを実施し、次回以降の広域系統整備委員会で状況変化が現行の長期展望に及ぼす影響を提示していく予定です。レビュー結果は第3次広域系統長期方針の策定に向けた課題抽出にも接続されます。委員会資料では「必要に応じて国の政策動向等を反映するなど、柔軟に対応していく」と明記されており、GX戦略地域・ワット・ビット連携など政策側の進展次第でシナリオが再調整される余地も残されています。
レビューが示す構造的メッセージ
今回のシナリオ設計から読み取れるメッセージは3つに整理できます。
1つ目は、系統整備の判断軸が「電源をどう置くか」から「需要をどう置くか」に実質的にシフトしていることです。電源のエリア配賦を全シナリオ共通とし、データセンター・半導体・水素製造・DACの4要素で幅を作る設計は、2050年に向けた系統計画の主役が需要立地政策であることを示しています。
2つ目は、洋上風力45GWの位置づけが政策目標として明確に維持された一方、将来の電力需給シナリオの28GWという異なる前提も参考として並べられた点です。両者のギャップは、目標達成に必要な系統整備コストを読み取る新しい材料となります。
3つ目は、東京向きの潮流構造が2050年時点でも維持されるという試算結果です。データセンターの首都圏集中、東京エリアへの需要増分(約400億kWh)、メリットオーダー変化の3つが重なり、東北から東京に流れ込む系統の価値が高止まりする構図は、洋上風力の系統価値評価やPPA設計にとって重要な背景情報となります。次回以降の委員会では、この前提に基づく連系線潮流・増強規模の具体的な試算結果が順次示される予定で、DeepWindでも継続的にフォローしていきます。
出典
第100回広域系統整備委員会(2026年4月22日)資料2「広域系統整備に関する長期展望のレビューについて(シナリオの設定、需要・電源のエリア配賦)」、電力広域的運営推進機関(OCCTO)
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