台風退避で「10日のロス」――FLOWCON最新試算が暴く日本版浮体式工法の過酷な現実と15GWへの道筋

Typhoon Risk FLOWCON Report Analysis 1

2026年1月14日、洋上風力発電にかかる港湾のあり方検討会(第2回)において、浮体式洋上風力産業の「施工」を担う重要プレイヤーたちから、極めて示唆に富むレポートが提出されました。 五洋建設、東亜建設工業、東洋建設らゼネコン・マリコン14社と、JMUなどの造船系企業が結集した「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)」による、日本国内での施工シミュレーション報告書です。

本記事では、このレポートから判明した「台風退避による致命的なタイムロス」「航路占有問題」、そして「複数港湾連携(26日)vs 大規模港湾完結(19日)」という施工シナリオの比較分析を通じて、15GW目標達成のために日本が直視すべき構造的課題と解決策を詳細に解説します。

本記事は、日本の洋上風力市場に関する個別論点を扱う子記事です。政策・投資・コスト・サプライチェーンを含めた全体像から整理したい場合は、まずPillar記事をご覧ください。
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1. 15GW目標の裏側:施工能力と港湾の「10年重複」

政府は2040年までに浮体式を含む洋上風力30GW~45GWの導入を掲げていますが、FLOWCONの試算によれば、浮体式案件の形成は2029年度頃から本格化します。ここで重要なのは、先行する着床式プロジェクトが終わる前に浮体式が始まるため、「着床式と浮体式の港湾利用が10年以上重複する」と予想されている点です。

限られた港湾リソースを奪い合う中で、いかに効率的に「建設能力(基/年)」を確保するか。FLOWCONは、建設能力を決定する要素を「施工日数」「稼働率」「投入船団数」に分解し、日本の気象海象に基づいたシビアな現実を提示しました。

2. 最大の敵は「台風」:1回の退避で10日が消える

欧州にはなく、日本にはある最大のリスク要因。それが「台風」です。本レポートで最も深刻なデータは、台風来襲時の工程ロスの定量的な試算です。

港湾内(または洋上作業基地)で浮体に風車を搭載している最中(仮係留浮遊状態)に台風が発生した場合、そのままでは安定を確保できません。そのため、作業を中断し、安全な海域へ「退避」する必要があります。そのプロセスと所要時間は以下の通りです。

FLOWCONの試算では、台風1回の通過に対し、「退避に8日+再開準備に2日=合計10日以上」の作業再開待ち時間が発生します。 もし1シーズンに台風が3回来れば、それだけで1ヶ月近い工期が蒸発することになります。このリスクを回避するためには、「着底状態で台風に耐える設計(港内着底養生)」を採用するか、あるいは最初からこのロスを見込んだ余裕ある(=コスト高な)工程計画を組むしかありません。

3. シナリオ比較:「複数港湾連携」vs「大規模港湾完結」

では、台風リスクを除いた場合の「標準的な施工サイクル」はどうなるのでしょうか。レポートでは、日本の現状に即した「基本シナリオ」と、理想的な「大規模港湾完結シナリオ」の比較が行われています,。

シナリオA:基本となるシナリオ(複数港湾連携)

浮体製作、風車搭載、仮置きなどを複数の港湾や水域に分散させるモデルです。

プロセス: 浮体製作港から曳航 → 風車搭載港へ入港 → 搭載・試運転 → 出港 → 設置海域へ曳航

所要日数(2基あたり): 26日

課題: 入出港や港間移動のたびに「曳航(1日)」「調整待機(1日〜数日)」が発生し、タイムロスが積み重なる。

シナリオB:大規模港湾で一連施工を完結するシナリオ

広大な単一の港湾内で、移動や搭載を完結させるモデルです。

プロセス: 港内移動 → 風車搭載・試運転 → 出港

所要日数(2基あたり): 19日

メリット: 港外への曳航や入出港調整が不要なため、シナリオAに比べて約27%の工期短縮が可能。

明らかにシナリオBの方が効率的ですが、これには「製造・組立・搭載・保管」を全て賄える超巨大な港湾インフラが必要です。既存港湾の活用が前提となる当面の日本では、シナリオA(複数港湾連携)をベースにしつつ、いかに「調整待機」を減らすかが勝負となります。

4. バース運用のジレンマと「航路占有」の壁

港の中での作業効率も、インフラの規模に大きく左右されます。

1バース vs 3バース:効率は1.5倍の差

FLOWCONの分析によれば、港湾内の岸壁(バース)利用数によって建設能力に明確な差が出ます。

1バース利用: 「資材搬入」→「タワー組立」→「風車搭載」を同じ場所で順番に行うため、各工程で手待ち時間が発生します。この場合の建設能力比を1.0とします。

3バース利用: 工程ごとに場所を分け、流れ作業(ライン生産)のように並行実施が可能になります。これにより、建設能力比は1.5に向上します。

しかし、3バース(岸壁3本分)を占有できる港湾は日本国内に限られており、ここでもインフラの制約が重くのしかかります。

「半日」航路を塞ぐ巨大物体

さらに深刻なのが「航路」の問題です。15MW級風車を搭載した浮体は、曳航時に幅250m級の航路を安全マージン含めて占有します。 試算では、1回の入出港で「半日程度」航路および泊地を占有するとされています。

日本の主要港湾は、火力発電所向けのLNG船や石炭船、コンテナ船が頻繁に行き交っています。「風車を出したいので半日空けてくれ」という調整は容易ではありません。気象条件による待機も加わると、商船の運航スケジュールとのパズルは極めて複雑になり、これが「調整待機(0日〜1週間以上)」という不確定要素として工期を圧迫します。

5. 稼働率40%:通年施工の難しさ

洋上作業の「稼働率」についても、厳しい現実が示されました。 15MW級風車・セミサブ型浮体を想定し、クレーン作業などの限界(波高1.2m、風速10m/s、周期10s)を守ろうとした場合、日本の海象データに基づく稼働率は以下の通りです。

通年平均:約 40%

夏期平均(半年):約 70%

通年では半分以上の日数が作業不能となります。夏期集中施工(半年作業)を行えば稼働率は70%まで上がりますが、前述の「台風シーズン」と完全にバッティングします。 「波が穏やかな夏にやりたいが、台風が来ると10日戻される」というジレンマの中で、施工者は極めて難しい判断を迫られることになります。

6. オールジャパン体制「FLOWCON」の意義

今回、この精緻なレポートを作成したFLOWCON(浮体式洋上風力建設システム技術研究組合)は、2025年1月に設立認可されたばかりの組織です,。 その構成員は、五洋建設、東亜建設工業、東洋建設といったマリコン大手を中心に、日鉄エンジニアリング、住友重機械工業などのメーカー系、さらに賛助会員としてJFEエンジニアリング、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)らが名を連ねています,。

これは、まさに日本の海洋土木と造船のトッププレイヤーが結集した「オールジャパン」の施工チームです。彼らが提示した課題は、机上の空論ではなく、現場の知見に基づいた「SOS」であり、同時に「解決への処方箋」でもあります。 FLOWRA(技術研究組合)とも協定を締結しており、発電事業者と建設業者が連携して技術開発を進める体制が整いつつあります。

7. DeepWind編集部の視点:ハードの欧州、ソフトの日本

前回のFLOWRAレポートが「15MW風車の巨大化(ハードウェア)」への対応を説いたものだとすれば、今回のFLOWCONレポートは「日本特有の環境下での運用(ソフトウェア)」の限界と解決策を示しています。

欧州の技術をそのまま持ち込んでも、日本の台風と狭隘な港湾事情には適合しません。 「台風退避で10日ロス」「航路調整で数日待機」――これらの数字は、コスト計算(LCOE)を根底から覆すインパクトがあります。

解決の鍵は、FLOWCONが示唆するように、単独港湾での完結を諦め、「複数港湾を一体運用するロジスティクス」を確立することにあります。そして、その複雑なパズル(気象、航路、バース、作業船の手配)を解くためには、個々の事業者任せにするのではなく、エリア全体を俯瞰して調整する「ポート・インテグレーター(統合運営者)」の機能が不可欠です。

2029年度の案件形成本格化まで、残された時間はわずかです。ゼネコン・マリコン連合(FLOWCON)と、電力・開発連合(FLOWRA)が示した「限界点」に対し、国と港湾管理者がどう応え、制度設計に落とし込むかが問われています。

【出典・参考資料】
本記事は、2026年1月14日開催「第2回 洋上風力発電にかかる港湾のあり方検討会」における以下の提出資料に基づき作成しました。
FLOWCON(浮体式洋上風力建設システム技術研究組合)資料:「港内風車搭載における施工サイクルと課題」

日本の洋上風力市場は、単一の要因では動いていません。投資、コスト、制度、サプライチェーンといった構造を横断的に整理した全体像は、Pillar記事に集約しています。
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