2024年6月3日、洋上風力発電施設を排他的経済水域(EEZ)にも設置可能とする改正「再生可能エネルギー海域利用法」が衆院本会議で成立しました。本改正により、これまでの領海・内水に限定されていた洋上風力の設置対象がEEZへと拡大され、日本の再生可能エネルギー導入における新たなステージが幕を開けます。本稿では、法改正の背景、制度の仕組み、そして今後のインパクトを解説します。
なぜいま法改正が必要か?
日本は「2050年カーボンニュートラル」実現に向け、洋上風力発電を再エネの切り札と位置付けています。
- 2030年までに導入目標:10MW
- 2040年までに導入目標:30~45MW
現行の「再エネ海域利用法」では、対象は内水および領海のみに限定。しかし、日本の真のポテンシャルは排他的経済水域(EEZ)にあります。そのため、EEZにも適用可能な制度の創設が求められてきました。
日本の領海とEEZの範囲

現行の「再エネ海域利用法」の対象範囲である領海(含:内水)の面積が約43万km2で、これが法改正によって排他的経済水域である約447万km2~約477万km2まで広がることになるので、単純計算で対象範囲が10倍以上に拡大されることを意味します。
国土面積 | 約38万km2 |
領海(含:内水) | 約43万km2 |
接続水域 | 約32万km2 |
排他的経済水域(含:接続水域) | 約405万km2 |
延長大陸棚 ※ | 約30万km2 |
領海(含:内水)+排他的経済水域(含:接続水域) | 約447万km2 |
領海(含:内水)+排他的経済水域(含:接続水域)+延長大陸棚 | 約477万km2 |
内水、領海、排他的経済水域とは?
内水(ないすい)とは?
日本の領土(陸地)に完全に囲まれた水域を指します。たとえば、湾の内側(閉じた湾)、河口や港湾、湖沼が含まれます。ここは完全に日本の主権が及ぶ海域で、外国船舶も無断で通航できません。
領海とは?
日本の海岸線から12海里(約22.2km)までの海域で、日本が主権を行使できる範囲です。
排他的経済水域とは?
日本の海岸から200海里(約370km)までの海域で、日本が“経済的な権利”を持つ海のことです。
法案の概要:制度改正のポイント
今回の改正案では、EEZにも洋上風力発電設備を設置可能とする新制度を導入し、以下のプロセスが整備されます。
EEZにおける設置の流れ
ステップ | 内容 |
---|---|
① 募集区域の指定 | 経産省が自然条件等を考慮し、公告・縦覧・関係省庁と協議の上、募集区域として指定可能に |
② 仮の地位の付与 | 事業者は設置区域案・事業計画案を提出し、仮の地位を取得 |
③ 協議会の設置 | 経産省・国交省とともに、関係者を含む協議会を組成し、事業計画の詳細協議 |
④ 許可 | 協議の整合性等を確認後、正式に設置を許可(募集区域以外の設置は不可) |
環境への配慮も制度化
- 領海・内水の促進区域指定
- EEZの募集区域指定
いずれも、指定前に環境大臣が必要な調査を実施する仕組みを新設。
これにより、環境影響評価法の手続きを簡素化しつつ、海洋環境への配慮を制度的に担保します。
今後の課題
日本近海は急深な海底地形が多いため、EEZ内では浮体式でなければカバーできない海域が多いです。一方、浮体式洋上風力の一般的な商業化目安は100~300 m程度(コストと安定性が課題)とされています。このため、EEZ内でも設置可能なエリアは限定的と考えられます。今後の技術開発により、水深300m超のエリアにも設置を拡大できるかどうか、今後に期待したいと思います。
まとめ
この制度改正により、日本の浮体式洋上風力への道が本格的に開かれることになります。今後の官報公布、施行スケジュール、初のEEZ募集区域の指定に注目です。
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