概要
2026年3月26日、経済産業省・国土交通省・環境省は、洋上風力発電の促進区域指定ガイドラインおよびセントラル方式運用方針の改訂案を公表しました。
背景には、2025年6月に成立した再エネ海域利用法の改正(2026年4月1日施行予定)があり、今回の改訂はその施行に向けた制度的な整備として位置づけられます。
改訂のポイントは大きく3つです。
- 事業性に係る判断の高度化(参考指標の導入)
- 海洋環境等調査の政府主導化(環境アセスのセントラル化)
- 風車と航路の離隔距離に関するルールの明確化
本記事では、原文資料に基づき、それぞれの変更内容と実務上の影響を解説します。
※本改訂案は、合同会議後にパブリックコメントを実施し、提出意見の内容を考慮の上、確定版が策定される予定です。
本記事では個別テーマを取り上げますが、日本の洋上風力政策・制度の全体像を俯瞰したい方は、以下の総まとめ記事もあわせてご覧ください:
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1. 事業性スクリーニング指標の導入
1-1. 概要
これまで、有望区域への整理段階における事業性の判断は、促進区域指定ガイドラインに基づき「総合的に判断」するとされていましたが、具体的な数値基準は示されていませんでした。
今回の改訂では、案件形成の早期段階から洋上風力の導入拡大と国民負担の抑制を両立する観点で、事業性確保に係る判断を高度化するため、風況・水深・陸上自営線距離の3項目について参考指標が設定されました。
1-2. 参考指標の内容
風況(NeoWins 高度140mでの年平均風速)
| 平均風速 | 評価 |
|---|---|
| 8.5 m/s 以上 | 1(最良) |
| 8.0 m/s 以上 8.5 m/s 未満 | 2 |
| 7.5 m/s 以上 8.0 m/s 未満 | 3 |
| 7.0 m/s 以上 7.5 m/s 未満 | 4 |
| 7.0 m/s 未満 | 要精査 |
※風速7.0 m/sは、15MW級風車のハブ高さ付近における風速がレーレ分布に従う場合の理論設備利用率35%以上に相当する目安とされています。ただし、7.0 m/s未満でも一律に対象外とするものではありません。
水深
| 水深 | 評価 |
|---|---|
| 15 m 以上 30 m 未満 | 1(最良) |
| 30 m 以上 40 m 未満 | 2 |
| 40 m 以上 50 m 未満 | 3 |
| 15 m 未満 | 要精査 |
| 50 m 以上 | 要精査 |
※着床式洋上風力発電は水深が概ね50mまたは60m程度までの海域を対象とし、それより深い水深の場合は浮体式による実施を想定するとされています。
陸上自営線距離(連系点までの距離)
| 距離 | 評価 |
|---|---|
| 10 km 未満 | 1(最良) |
| 10 km 以上 25 km 未満 | 2 |
| 25 km 以上 40 km 未満 | 3 |
| 40 km 以上 60 km 未満 | 4 |
| 60 km 以上 | 要精査 |
1-3. 実務上のポイント
これらの指標は「ハードカットオフ(絶対的な足切り基準)」ではなく、事業性の確保見込みについて総合的に評価を行う際の参照値として位置づけられています。つまり、ある指標で「要精査」に該当しても、他の条件が十分であればそのまま進行する可能性はあります。
一方で、一定の事業性が見込めない区域については「事業性の改善策を引き続き検討する」とされており、風況や系統接続条件が弱い区域は、今後の有望区域整理において従来よりも高い正当化の根拠が求められることになります。
また、系統接続費用が著しく高額であり、事業性がおよそ確保できないと考えられる場合には、系統接続が「適切に確保」できる見込みがないものと判断するとの記載も併せて追加されています。
2. 環境アセスの政府主導化(セントラル化)
2-1. 改正前の課題
従来の制度では、環境影響評価(アセスメント)は事業者が個別に実施する仕組みでした。そのため、促進区域の指定前に複数の事業者がそれぞれ配慮書・方法書手続を並行して行い、地元で混乱が生じるケースがありました。
2-2. 改正後の仕組み
2025年6月に成立した再エネ海域利用法の改正に基づき、2026年4月1日の施行後は、環境大臣が促進区域の指定前に海洋環境等調査を実施する仕組みに変更されます。
具体的な流れは以下のとおりです。
- 経済産業大臣・国土交通大臣が調査対象区域の位置及び区域等を環境大臣に通知
- 環境大臣が海洋環境等調査方法書の案を作成し、公表・説明会を実施
- 関係自治体等から環境保全の見地からの意見を収集
- 海洋環境等調査方法書を確定し、現地調査を実施
- 調査結果を経済産業大臣・国土交通大臣に通知・公表
- 調査結果を踏まえ、促進区域を指定
これにより、事業者が行う環境影響評価手続のうち、配慮書・方法書手続は適用除外となります。事業者は選定後、準備書・評価書手続のみを実施すればよくなります。
2-3. 調査項目の例
海洋環境等調査の項目及び手法は、地域の特性や洋上風力発電事業の特性を勘案して区域ごとに判断されます。資料に示されている項目例は以下のとおりです。
- 主要な眺望点の特性
- 鳥類の生息及び分布状況
- ウミガメ類の産卵地の状況
2-4. 前提条件
セントラル方式運用方針では、海洋環境等調査の実施にあたり、以下の2つの前提条件が設定されています。
- 都道府県が、調査の実施により操業上の調整が生じる者(漁業・航路等)との調整に着手していること
- 環境大臣が調査を実施する際にも、都道府県が地元関係者等との調整に主体的に関与すること
つまり、環境アセスの実施主体は環境省に移管されますが、地元との調整責任は引き続き都道府県が担う構造です。
2-5. 実務上のポイント
開発事業者にとっては、オークション前の段階で最もコストと不確実性が高いプロセスの一つであった環境アセスの初期段階が政府に移管されることで、入札前の負担が大幅に軽減されます。
また、地域住民やコミュニティの観点からは、複数事業者による並行アセスによる混乱が解消され、政府が主導する一元的なプロセスに統合されることで、透明性の向上が期待されます。
3. 風車と航路の離隔距離の明確化
3-1. 背景
洋上風力発電設備と航路の離隔距離の確保については、これまでも促進区域の指定要件や設置・維持管理基準において求められてきました。しかし、従来のルールは港湾区域内(船舶の航行に一定の制約がかかる海域)を想定したものであり、自由航行が原則とされている一般海域を対象とした考え方は明示されていませんでした。
近年、相当の船舶が航行する海域における案件形成の動きが顕在化していることから、2026年3月24日付で国から都道府県等に対し、一般海域における離隔距離の考え方が通知されました。
3-2. 通知の主な内容
通知の概要は以下のとおりです。
- 案件形成の初期段階を対象とする
- 離隔距離および対象とする航路は、海域の状況を考慮し、ケースバイケースで利害関係者と調整の上で決定する(固定の最低距離は設定されていない)
- 周辺を航行する船舶の安全確保に向け、必要に応じて安全措置の検討もあわせて実施する
- 既存の航路上で案件形成を進める場合、発電設備設置後の航行環境の変化等について詳細な検討が必要になる可能性がある
- 設備の配置計画を議論する段階では、特に船舶への影響を緩和する観点からの議論を適切に行う
通知の構成は、①航行実態等の把握、②考慮すべき航路、③衝突を避けるために適切な離隔距離、④離隔距離に関わる利害関係者との調整、⑤施設配置計画時に留意すべき事項、の5項目です。
3-3. ガイドラインへの追記
この通知を踏まえ、促進区域指定ガイドラインに以下の2点が追記されました。
有望区域の整理要件への追記:
関係海運団体及び関係海運事業者の意向を十分に確認し、協議会を通じて発電事業の実施に向けた議論を行う状況が整っていない場合には、有望区域への整理は行わないこととする。
その他留意事項への追記:
一般海域における発電設備と船舶が頻繁に航行する海域との間の離隔距離の確保について、上記通知の概要が記載されました。
3-4. 実務上のポイント
最も重要な変更は、有望区域への整理要件に海運業界の関与が明文化された点です。海運関係者が協議に応じる意向を示さなければ、当該区域は有望区域に整理されません。
これは実質的に、海運業界が区域の進行に対するゲート(関門)を持つことを意味しており、主要航路に近い候補区域にとっては新たな手続上のハードルとなります。
今回の改訂が意味すること
今回の促進区域指定ガイドラインおよびセントラル方式運用方針の改訂は、洋上風力発電の区域選定・案件形成プロセスにおいて、事業性の判断、環境アセスの実施主体、航路との共存ルールという3つの重要な構造変更を含んでいます。
| 改訂項目 | 変更の要点 | 影響を受ける主体 |
|---|---|---|
| 事業性スクリーニング指標 | 風速・水深・陸上自営線距離の参考指標を導入 | 開発事業者、金融機関 |
| 環境アセスのセントラル化 | 配慮書・方法書手続を環境省が実施、事業者負担を軽減 | 開発事業者、地域住民 |
| 航路離隔距離の明確化 | 一般海域のルール整備、海運業界の関与を要件化 | 開発事業者、海運業界 |
いずれも、これまで曖昧だった基準やプロセスを具体化・明文化するものであり、日本の洋上風力市場の透明性と予見可能性を高める方向の変更と言えます。
※本改訂案は、パブリックコメントを経て確定版が策定される予定です。確定内容に変更があった場合は、本記事を更新します。
出典:国土交通省 交通政策審議会港湾分科会 洋上風力促進小委員会・再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 洋上風力促進ワーキンググループ 合同会議(2026年3月26日)
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