本記事では、2025年11月19日に経済産業省資源エネルギー庁および国土交通省港湾局が発表した「洋上風力事業を完遂させるための新たな公募制度」の資料内容をもとに、制度見直しの背景や具体的な改革ポイントについて詳しく解説します。
本記事では個別テーマを取り上げますが、日本の洋上風力政策・制度の全体像を俯瞰したい方は、以下の総まとめ記事もあわせてご覧ください:
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背景:撤退案件が浮き彫りにした制度の課題
再エネ海域利用法に基づき、日本ではこれまでに3回の洋上風力事業者選定公募が実施されてきました。しかし、2024年末には第1ラウンドで選定された秋田2海域と千葉県銚子沖のプロジェクトが撤退。政府はその要因を分析し、インフレによるコスト上昇、国内サプライチェーンの脆弱性、風車調達の遅延、PPA先の確保困難などが複合的に影響したと報告しました。
これらは公募制度設計時には顕在化しておらず、結果として「実現困難な計画」が落札される構造となっていたことが明らかになりました。
制度見直しの6つの柱
1. 事業実現性評価点の見直し
迅速性の配点を20点から10点へ削減する一方、事業実行力やサプライチェーン構築に関する評価点を各25点へ拡大します。現実性のある提案がより高く評価される仕組みです。
2. 積上げ式評価方式の導入
これまでの「トップランナー(100%)」等の区分制から、チェックリスト形式での点数積上げ方式に変更。基礎的な記載とその内容の妥当性に基づき、より細やかに評価されます。
3. 柔軟なスケジュール設定
標準工期に2年の予備期間を加えた上で、他の入札者との相対評価により迅速性を評価します。無理なスケジュールを避け、実現性の高い計画が評価されます。
4. 価格評価点の見直し
供給価格に下限・上限を設定。下限価格入札に120点、上限価格入札にも100点を与えることで、ゼロプレミアム一辺倒の傾向を是正します。非現実的な価格競争を避け、事業の持続性を確保します。
5. 落札制限の再導入
1社あたり最大1GWまでとする制限を再導入。複数区域への入札時も、スコア差に基づいて落札優先順位が決まります。多様な事業者参入を促す仕組みです。
6. 撤退時のルール強化
撤退が発生した場合、当該事業者だけでなく、その親会社や関連子会社も次回公募への参加が制限されます。また、保有する地盤データ等の情報は、再公募時に無償で提供することが義務づけられます。
今後の展望と業界への影響
この制度改革は、コスト偏重から「事業をやり遂げる力」へのシフトを意味しています。採択されたプロジェクトが確実に建設・運転されることを重視し、リスク耐性ある開発体制を評価する設計です。
今後、開発者は計画の実現可能性、調整能力、資金調達力、地元との協働体制、サプライチェーン構築といった多面的な能力が求められるようになります。黎明期から成長期へ、日本の洋上風力政策は今、次のステージへ移ろうとしています。
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