企業の温室効果ガス排出量は、「どこで排出が発生したか」によって Scope1・Scope2・Scope3 の3区分に分類されます。このうち Scope2(購入電力に伴う間接排出) は、企業が最も早く削減しやすい排出源であり、再エネ調達戦略の核心を成します。
特に、日本企業の間で導入が進む コーポレートPPA(企業向け電力購入契約) は、Scope2排出削減の中心的な手段です。
本記事では、GHG Protocol Scope 2 Guidance および A Corporate Accounting and Reporting Standard に基づき、PPAの仕組みを理解する前提として、「Scope2とは何か」「どのように計算されるのか」「ロケーション基準/マーケット基準とは」など、基礎となる考え方を整理します。
いま注目を集めているPPA(電力購入契約)やコーポレートPPAについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
👉 PPAおよびコーポレートPPAとは?日本の再エネ導入を支える電力契約の基本
1. Scope2とは?(Scope2の定義とScope1・Scope3との違い)
GHGプロトコルではScope2を次のように定義しています。
企業が購入して消費する電力・熱・蒸気・冷房の生成に伴う間接排出(Indirect GHG Emissions)
つまり、排出は発電所で起きているものの、「その電気を使った企業の活動」が原因となる排出 がScope2です。
■ Scope分類の全体像
| 区分 | 排出源 | 例 |
|---|---|---|
| Scope1 | 自社の施設・車両・燃焼による直接排出 | ボイラー、ガソリン車 |
| Scope2 | 購入した電力の“発電時”の排出 | オフィスの電気、工場の動力 |
| Scope3 | 取引先・輸送・廃棄・販売後などのすべての間接排出 | サプライチェーン全般 |
特にScope2は、電力調達の方法を変えるだけで削減できるため、RE100・SBTi・CDPなど国際イニシアティブでも重視されています。
2. Scope2の具体例(どの排出がScope2に当たる?)
Scope2に該当する典型的な企業活動は以下です。
- オフィスの照明・空調の電力
- 工場のライン・機械の動力電力
- サーバールームやデータセンターの電力
- 商業施設の館内電力
- 冷暖房・蒸気など purchased steam, heat
- EV充電用に外部から購入した電気
つまり 「外部から買って使う電気」 が関わる活動は、すべてScope2に該当します。
3. Scope2の計算方法(算定式と具体例)
Scope2排出量は、次の式で計算されます。
Scope2排出量(t-CO₂)= 電力使用量(kWh) × 排出係数(kg-CO₂/kWh)
この式は GHGプロトコル Scope 2 Guidance(Chapter 6) によって定義されています。
■ 具体例
年間 1,000,000 kWh(100万kWh)を使用した工場の場合:
- ロケーション基準排出係数:0.00045 t-CO₂/kWh
→ 450 t-CO₂ - マーケット基準排出係数(トラッキング付非化石証書):0
→ 0 t-CO₂
このように、同じ工場でも「使う排出係数の種類」によって結果が大きく変わります。
4. Scope2は2つの算定方法で報告する(Dual Reportingが必須)
GHGプロトコルでは、企業はScope2を ロケーション基準(LB) と マーケット基準(MB) の2つで必ず併記する必要があります。
5. Scope2ロケーション基準とは?(Location-Based Method)
ロケーション基準とは、
電力網(グリッド)全体の平均排出係数を用いる方法
のことです。
■ 特徴
- 国・地域が公表する平均排出係数を使用
- 企業の電力選択の影響は反映されない
- “実際の電力網の排出実態”を示す
日本では、環境省 温対法排出係数 がこれに該当します。
6. Scope2マーケット基準とは?(Market-Based Method)
マーケット基準とは、
企業が契約した電力の排出係数を用いる方法
のことです。こちらは企業の電力調達行動が反映されます。
■ 使用できる契約情報
- オフサイトPPA
- オンサイトPPA(自家消費)
- 小売電気事業者の“特定排出係数”
- トラッキング付非化石証書(NFC/TNFC)
- 欧州のGO、北米REC など
■ マーケット基準の本質
「契約に基づく排出係数」 を用いるため、再エネ契約であれば排出がゼロとなる場合があります。
7. ロケーション基準とマーケット基準の違い(比較表)
GHGプロトコル公式の比較表(Table 4.1)に基づくDeepWind要約:
| 項目 | ロケーション基準 | マーケット基準 |
|---|---|---|
| 排出係数 | 電力網の平均排出原単位 | 契約(PPA/小売メニュー/証書)に基づく値 |
| 反映するもの | 現実の電源構成 | 企業の調達努力と契約 |
| 適用範囲 | 世界中どの電力網でも適用 | 契約で電源を選べる市場 |
| 役割 | 物理的実態を把握 | 再エネ調達の成果を示す |
8. Scope2と再エネ調達(PPA・非化石証書)の関係
Scope2は、企業の再エネ戦略と直結しています。
- PPA → マーケット基準の排出係数をゼロ化
- 非化石証書(トラッキング付) → PPAと同様に排出ゼロを実現
- 再エネ小売メニュー → 小売事業者の特定排出係数を利用
Scope2削減=電力調達の最適化と言えるほど密接です。
まとめ
Scope2は、「企業がどの電力をどのように調達するか」によって大きく変わる排出領域です。ロケーション基準は電力網全体の“現実の排出”を示し、マーケット基準は企業の“調達戦略と努力”を反映します。
PPAやトラッキング付非化石証書は、このマーケット基準に直接作用するため、Scope2削減に最も効果的な手段となっています。
Scope2の正しい理解は、企業が再エネ調達を設計するうえでの“入り口”です。コーポレートPPAをどのように選び、企業価値向上に生かすかは、Scope2の枠組みを理解することで初めて見えてきます。
こちらの記事では、PPAとコーポレートPPAについて、基本概念から契約スキーム、日本における制度や最新事例、今後の課題と展望までを包括的に解説します。
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